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4章
6 絶望のはじまり
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ディルクがいなくなってから2週間の時間が流れようとしていた。
ニコルはでかけるときは忘れないように赤いルビーの首飾りを身に着けていた。
それをみてはメリッサはにやにや笑い詮索してきていた。
ディルクに首飾りを渡して私に渡すように誘導した人間なのに。
意地悪なことこの上ないとニコルは内心思いながらもメリッサの術中にはまりからかわれる日々であった。
「彼がいなくなって寂しくなるわ。でも、あと数週間で戻ってくるんでしょう?」
メリッサの質問にニコルはこくりと頷いた。
一度本部に戻ったディルクは1か月したら様子を見にクルス村に戻ると言っていた。
その際、ニコルは王都へ薬学の勉強の為にディルクと一緒に村を出る。
「あーあ、ニコルは私を置いていっちゃうのね。悲しいわ。しかも彼氏作っちゃって」
メリッサはよよと泣く仕草をした。それにニコルは慌てて何というべきか悩んでしまった。
「いいのよ。ニコルは昔から王都で薬学を学びたいて言っていたし、ディルクさんが一緒ならドーリスさんも安心でしょう」
「……うん」
ニコルは照れたように笑った。
「それに、そうした方がいいと思うわ」
メリッサはちらりと通りすがりの村人を見つめていた。
近づくまでもなく冷淡な視線を送ってくる。それがだれに向かれているものか容易に想像できた。
ニコルもさすがに気づいていた。
村の一部から自分がどう見られているか。
人狼に誘拐され戻ってきたニコルは人狼の仲間になったのではと疑う者がいた。
ディルクはすぐにニコルの潔白を証明したが、それでも不信感を抱く者はいた。
その中心にニコルの友人クレアの母もいたことにニコルは深く悲しんだ。
しかし、彼女を責められない。
自分の娘は人狼になり果て帰って来なかった。
彼女が「なぜニコルは」と恨む気持ちもわかっていた。
自分が彼女の立場であれば、どうしたか想像できない。納得できないことは確かだろう。
「ほら、しゃんとする。私はあんたの味方よ」
メリッサはばんとニコルの背中を叩いた。
「そんな姿じゃディルクさんに笑われるわよ」
「うん、ありがとう」
真夜中、ニコルはなかなか寝付けず家をこっそりと抜け出した。
祖母に心配かけないようにこっそりと。
村からそれほど遠くない森の木々の中でニコルはあるひとつの木を見つめた。
「ここでディルクとはじめて会ったんだよね」
ニコルはくすりと笑った。
ここに罠を張ってディルクを捕らえたのだ。
まさかあの時の青年がこうして自分の中を占めてしまうなど予想できなかった。
彼とは恋人となったが、すぐに銀十字の本部へ報告しに王都へと戻ってしまった。
代わりにやってきた五人の狩人たちは近寄りがたい雰囲気を纏っていた。
しかし、仕事をしっかりとこなす職人肌であり義理堅い人たちであったため自警団は彼らを受け入れた。
村人たちも人狼退治の専門家が五人も来てくれて心から喜んでいた。
今はこの村に彼はいない。
しかし、彼は戻ってくる。
約束したのだ。
ひと月経てば戻ってくると。
その時、ニコルはディルクと共に王都へ行こうと言ってくれた。
ニコルはその誘いを受けるつもりである。
残念なことにドーリスはこの村にとどまるのを選んだ。
ドーリスは自分は何とかやっていけるだからニコルは好きなようにしなさいと笑ってくれた。
「さて、帰りましょうか」
ニコルは家へ帰ろうとした。そして目を大きく開き驚いた。
振り返った時、青白い顔の男がこちらを見下ろしていた。
銀色の髪に血のように真っ赤な瞳、口端から牙がみえた。
ディルクに倒されたはずの人狼カリスである。
ニコルは叫ぼうとしたが、それは許されなかった。
男に抱き寄せられ首筋を噛まれてしまった。
彼に血を吸われていく。抵抗しようにも力は出ず声をだそうにも唇は震えるのみであった。
「はぁはぁ、危ないところだった。都合よく食餌があり助かった」
カリスは血を拭った。
ヨハンナが見初めただけあり、甘美な血肉であった。わずかに血を頂いただけなのに、活力が戻りつつあった。
「くふふ、ただの食餌だけでは足りない。あいつらに地獄をみせてやろう」
カリスは自身の右手首を噛み、そこからあふれる血を口に含めた。
力なく項垂れるニコルは顎をとらえられ上を向けさせられる。
そしてカリアの唇が彼女の唇を覆った。
呼吸がうまくできない。口の中に入ってきたものを反射的に飲み込んでしまう。
その瞬間、体の中でざわざわと耳障りなものが這っているような感覚を覚えた。
体が異常に熱く苦しい。
苦し気にニコルは喘いだ。
「苦しいか? 安心しろ。もう少しで体が私の血に順応する」
カリスは冷たく笑い、苦し気にあえぐニコルを見下ろした。
お前は私の従僕になるのだ。
そう男の言葉を耳にしながらニコルは苦しみ瞼を閉ざした。
あれ、おかしいな。
さっきまで苦しかったけど、何も感じない。
おかしいな。
真っ暗だ。
何もみえない。
何も聞こえない。
いやだ。怖い……ディルク、怖いよ。
ニコルはでかけるときは忘れないように赤いルビーの首飾りを身に着けていた。
それをみてはメリッサはにやにや笑い詮索してきていた。
ディルクに首飾りを渡して私に渡すように誘導した人間なのに。
意地悪なことこの上ないとニコルは内心思いながらもメリッサの術中にはまりからかわれる日々であった。
「彼がいなくなって寂しくなるわ。でも、あと数週間で戻ってくるんでしょう?」
メリッサの質問にニコルはこくりと頷いた。
一度本部に戻ったディルクは1か月したら様子を見にクルス村に戻ると言っていた。
その際、ニコルは王都へ薬学の勉強の為にディルクと一緒に村を出る。
「あーあ、ニコルは私を置いていっちゃうのね。悲しいわ。しかも彼氏作っちゃって」
メリッサはよよと泣く仕草をした。それにニコルは慌てて何というべきか悩んでしまった。
「いいのよ。ニコルは昔から王都で薬学を学びたいて言っていたし、ディルクさんが一緒ならドーリスさんも安心でしょう」
「……うん」
ニコルは照れたように笑った。
「それに、そうした方がいいと思うわ」
メリッサはちらりと通りすがりの村人を見つめていた。
近づくまでもなく冷淡な視線を送ってくる。それがだれに向かれているものか容易に想像できた。
ニコルもさすがに気づいていた。
村の一部から自分がどう見られているか。
人狼に誘拐され戻ってきたニコルは人狼の仲間になったのではと疑う者がいた。
ディルクはすぐにニコルの潔白を証明したが、それでも不信感を抱く者はいた。
その中心にニコルの友人クレアの母もいたことにニコルは深く悲しんだ。
しかし、彼女を責められない。
自分の娘は人狼になり果て帰って来なかった。
彼女が「なぜニコルは」と恨む気持ちもわかっていた。
自分が彼女の立場であれば、どうしたか想像できない。納得できないことは確かだろう。
「ほら、しゃんとする。私はあんたの味方よ」
メリッサはばんとニコルの背中を叩いた。
「そんな姿じゃディルクさんに笑われるわよ」
「うん、ありがとう」
真夜中、ニコルはなかなか寝付けず家をこっそりと抜け出した。
祖母に心配かけないようにこっそりと。
村からそれほど遠くない森の木々の中でニコルはあるひとつの木を見つめた。
「ここでディルクとはじめて会ったんだよね」
ニコルはくすりと笑った。
ここに罠を張ってディルクを捕らえたのだ。
まさかあの時の青年がこうして自分の中を占めてしまうなど予想できなかった。
彼とは恋人となったが、すぐに銀十字の本部へ報告しに王都へと戻ってしまった。
代わりにやってきた五人の狩人たちは近寄りがたい雰囲気を纏っていた。
しかし、仕事をしっかりとこなす職人肌であり義理堅い人たちであったため自警団は彼らを受け入れた。
村人たちも人狼退治の専門家が五人も来てくれて心から喜んでいた。
今はこの村に彼はいない。
しかし、彼は戻ってくる。
約束したのだ。
ひと月経てば戻ってくると。
その時、ニコルはディルクと共に王都へ行こうと言ってくれた。
ニコルはその誘いを受けるつもりである。
残念なことにドーリスはこの村にとどまるのを選んだ。
ドーリスは自分は何とかやっていけるだからニコルは好きなようにしなさいと笑ってくれた。
「さて、帰りましょうか」
ニコルは家へ帰ろうとした。そして目を大きく開き驚いた。
振り返った時、青白い顔の男がこちらを見下ろしていた。
銀色の髪に血のように真っ赤な瞳、口端から牙がみえた。
ディルクに倒されたはずの人狼カリスである。
ニコルは叫ぼうとしたが、それは許されなかった。
男に抱き寄せられ首筋を噛まれてしまった。
彼に血を吸われていく。抵抗しようにも力は出ず声をだそうにも唇は震えるのみであった。
「はぁはぁ、危ないところだった。都合よく食餌があり助かった」
カリスは血を拭った。
ヨハンナが見初めただけあり、甘美な血肉であった。わずかに血を頂いただけなのに、活力が戻りつつあった。
「くふふ、ただの食餌だけでは足りない。あいつらに地獄をみせてやろう」
カリスは自身の右手首を噛み、そこからあふれる血を口に含めた。
力なく項垂れるニコルは顎をとらえられ上を向けさせられる。
そしてカリアの唇が彼女の唇を覆った。
呼吸がうまくできない。口の中に入ってきたものを反射的に飲み込んでしまう。
その瞬間、体の中でざわざわと耳障りなものが這っているような感覚を覚えた。
体が異常に熱く苦しい。
苦し気にニコルは喘いだ。
「苦しいか? 安心しろ。もう少しで体が私の血に順応する」
カリスは冷たく笑い、苦し気にあえぐニコルを見下ろした。
お前は私の従僕になるのだ。
そう男の言葉を耳にしながらニコルは苦しみ瞼を閉ざした。
あれ、おかしいな。
さっきまで苦しかったけど、何も感じない。
おかしいな。
真っ暗だ。
何もみえない。
何も聞こえない。
いやだ。怖い……ディルク、怖いよ。
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