この世の沙汰は運次第

緋水晶

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「だから、俺は一応クインの旦那で、お前はクインの息子だけど、俺の息子じゃないの。わかった?」
「わかるかー!!」
「なんでだよ」という顔のスミスの説明に、俺は何度目かわからない雄叫びを上げる。
前世の俺が生まれたのは二人がこっちに転移してくる二ヶ月前だ。
なのに何故俺は二人の子ではないと?
ま、まさか!?
「まさか、母さん、玖韻さんは、浮気を…?」
昨日初めて会ったばかりの前世の母親相手にそんなことを思いたくはないが、辻褄が合うものがもうそれしか浮かばない。
そんな、まさか俺の母親が親友を裏切っていただなんて…!
スミスが父親じゃなかった喜びよりもそっちの申し訳なさの方が強い。
俺はスミスに土下座で詫びるべきかと椅子を降りようとしたのだが、
「あー、違う違う。そうじゃなくて」
スミスの否定の言葉に浮きかけた腰を戻す。
よかった、それならまだ救いが、
「お前の本当の父親、お前ができてたってことがわかるよりも前に死んだんだよ」
なかったな。
そういや前世の俺って超不幸体質だったよ、忘れてたわ。
「で、クインが『生まれてくる子供に父親がいないのは困る!学校でいじめられる!!』って言って泣くから、『じゃあ俺との子供ってことにすれば?』って提案したら、あいつその日の内に婚姻届け出してたぞ」
「おおう…」
なんという行動力…。
来隠玖韻という女性は思いの外癖が強いようだ。
「え?待てよ、じゃあ、お前と玖韻さんの関係って」
俺が改めて彼らの関係を尋ねれば、
「戸籍上の夫婦ってだけだな。実際は俺にとっての恩人で、あいつにとっては拾った男ってだけだ」
そんな答えが返ってきて、俺はどうするのが正解かわからず、とりあえず玖韻が目覚めるのを待とうと思った。

玖韻が目覚めたのはそれから二日後だった。
「えっと、ここは…」
彼女が目覚めた時、運悪く周囲には誰もいなかったため、彼女は部屋から出て人を探す羽目になった。
けれど目覚めずに三日も眠っていただけあって十分に休息は取れていたようで、すぐに動くことができたのは幸いだっただろう。
「てんめー、レィヴァンゴラァ!!なんだそりゃずりぃぞ!!」
「ちょ、馬鹿スミス!お前病み上がりなんだからもうちょっと」
「問答無用だ!!勝手に一人で強くなりやがって!!」
「不可抗力!!」
なんとなくフラフラと気の向くままに歩いていたら聞き覚えのある声がすぐ隣の庭から聞こえてきた。
「…珍しいわね。スミスがあんな大声上げてるなんて」
彼女はとりあえず彼の下へ向かうため、どこかに庭へ抜けられるドアはないかと辺りを見回した。

先ほど訪れた司祭から「傷自体は治っているから少し体を動かした方がいいかもしれませんね」と運動の許可が出たため、スミスと俺は宿の中庭で軽くストレッチをしていた。
「あれ、お前平和な国にいた割に前より逞しくなってないか?」
「そうか?暇だからってジム行ってたからかも」
「っていうか背も伸びてるし!!なんでだ!!」
「いや、お前だってちょっとは伸びてんじゃん…」
最初は隣に立ったスミスが以前よりも男らしくなっていることに俺が文句を言ってスミスがそれを軽くいなしていたのだ。
成長したのはお互い様だろうと。
しかし身体を動かして楽しくなってきたらしいスミスが「久々に組み手しようぜ」と言った後から状況が変わった。
一手、二手と組みつつ、「たまにはこういうのもいいな、学園以来だ」「そういや俺ってもしかしてまだ卒業してない?」「あ、そうかも」などと暢気に会話を楽しむ余裕があったのも束の間、
「なぁ、レィヴァン」
「んー?」
不意にスミスの声が低くなり、もしかして具合でも悪くなったのかと俺が首を傾げると、
「お前、俺がいない間にめちゃくちゃ強くなっただろ?」
「わっ!?」
その首目掛けて鋭い手刀が飛んできて、俺は慌ててそれを避けた。
もしかしなくても、今のは避けなければ首に結構なダメージが入ったのでは?
「おまっ、なにすん」
「やっぱり。なんか身のこなしが別人なんだよ!」
俺が抗議の声を上げようとすると、それを遮るようにスミスは蹴りを見舞ってくる。
気のせいかそのフォームを前世で年末辺りに特番で見た気がする。
「そう言うお前こそ、なんだそれ!?」
「ネットの動画で覚えたキックボクシングとかムエタイとかブラジリアン柔術とか、後は軍隊格闘技とかだな」
「お前の方がグレードアップしてんじゃねぇか!!」
俺はツッコミながらもスミスの蹴りをまたも躱す。
てかこいつ、さっきからやたら蹴り攻撃に重点を置いているような…。
あ、足が長いから?
「ふざけんな滅びろ!!」
「くっ!!?」
俺は自分の思考による嫉妬からスミス目掛けて回し蹴りを放つ。
踏み込んだ分遠くまで届くから慣れてないと回避は難しいはずだが、スミスは辛うじて躱しやがった。
「避けられたか…」
「ギリッギリだけどな!!」
スミスは額から流れる汗を袖で乱暴に拭う。
精悍さが加わったせいでそれが妙に様になっていることがまたムカついてくる。
ええ、これも嫉妬ですよ!
「つかお前昔回し蹴りなんてしなかっただろ!?剣の方が遠くまで届くっつって」
「ふ、あの頃は若かったんだよ…」
「ぬかせっ!」
今度はスミスが切り返して飛び蹴りを放ってくる。
俺は入れ違うようにくるりと位置を変え、難なく(のようで実はギリギリ)避けた。
「じゃあお前のそれは何なんだよ?先生とも違うぞ!?」
ひらりと躱されたことに面白くなさそうに頬を膨らますスミスは距離を取って俺に問う。
話しながらでは不利だが理由は知りたいから、ということだろう。
「ああ、実は色々あった結果、俺、竜に会ってさぁ」
「は?」
「んで偶然にもその竜の娘さんがキアラさんじゃない方の伝説級の人でさ」
「はあ?」
「その人のところで三ヶ月だけだけど、修行させてもらった」
「はあああ!!?」
俺は隠してもその内どこかからバレるだろうと思って素直に教えたのだが、それに対するスミスの反応は何故か(わかってるけど)怒りだった。
「てんめー、レィヴァンゴラァ!!なんだそりゃずりぃぞ!!」
スミスがそう言った瞬間、伸びた彼の髪が風もないのにぶわりと翻る。
全快ではないせいでドライガの時ほどではないが、スミスはまたしても可視化できそうな程に魔力を高めていた。
「ちょ、馬鹿スミス!お前病み上がりなんだからもうちょっと」
流石にそれはやり過ぎだと慌てて俺が止めようとすれば、
「問答無用だ!!勝手に一人で強くなりやがって!!」
と、スミスの怒りに油を注いだだけに終わった。
「不可抗力!!」
俺はお前らを助けるために奔走したのに、と言う言葉を飲み込んで、俺はスミスの攻撃で家に被害がいかないようにしなければと立ち位置を考えていたところで、
「たぁすぅけぇてぇ~…」
そんな女性の情けない声を聞いた。
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