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「移動してきたばっかでまだネージュも落ち着いてないし、エルフのこと色々説明するからちょっと出てって」
ハーピスのその言葉に、残っていた国王夫妻と兄も部屋を出て行った。
非常に名残惜しそうではあったが。
「はー、やれやれ、予想よりもみんなテンパってたなぁ」
あははと暢気に笑いながらその原因を作った張本人は俺にまた「座れば?」と言ってソファの自分の隣をポンポンと叩いた。
今度は俺もその言葉に従ってソファにお邪魔する。
ハーピスとの間に人1人分のスペースを開けて。
いやあ、広いソファでよかった。
「…まあいいか」
彼はそのスペースが気に食わないというように眉間に皺を寄せたが、ため息を一つ吐いて妥協したようだ。
「焦んなくても時間はあるしね」とか言っていたが俺は何も聞いていない。
「とりあえずどこから説明しようかな…」
ハーピスに「何から聞きたい?」と目で問われ、俺はちょっと考えた後、
「迫害が大事ではないという件からで」
ここでの自分の立場に関係ありそうなものから聞くことにした。
いくら短い期間で実害がほとんどなかったとはいえ、スノーリット王国の王族である側妃が明確に「エルフ族を迫害します」と言ったこと自体が問題だろうに、何故それが大したことないと言えるのか。
「ああ、それはね」
ハーピスは「簡単だよ」とからからと笑い、
「本気でスノーリットが敵対行動を取ったところで、俺たちには全然脅威にならないからだよ」
至極あっさりとそう言った。
俺はあっけらかんと言われた言葉の意味を吟味し、
「ああ、そりゃそうか」
とすぐに納得した。
言われてみれば簡単なことだ。
戦争で物理と魔法、どちらがより脅威かと言われれば当然魔法だろう。
遠距離からドッカンドッカン広範囲魔法をぶち込まれれば、剣と槍ではどうやっても防ぐことはできない。
この世界に魔法を封じる術はなかったはずだから、いざ戦争となればエルフ族の勝利は確実だった。
「まあ、側妃もそれがわかってたから俺に軍事利用できる術式を開発するように言ってたんだけどね」
あの人俺がエルフだって知らなかったし、と引き続き笑いながらハーピスが言う。
そういえばこいつが監獄島に来た理由って、側妃に軍事利用可能な術式の開発を命じられて断ったからだったけど、もしかしてそれってエルフ族との戦争用の技術だったのか?
そりゃ自分の一族を害する技術を開発しろと言われたら誰だって頷くわけはない。
俺がよく考えもしないで決めた設定がまさかこんな形で影響しているとは…。
「ていうかそれがわかってたからラインハルト公は必死にエルフを守ったんだよ。怒った俺たちにスノーリットが滅ぼされないようにって」
実際は歯牙にもかけられていなかったようだが、確かにその可能性に思い至ればなにもしないでいることなどできなかっただろう。
ゲームにはいなかったラインハルト公爵だが、スノーリット王国は彼によって守られていたようなものだったと俺はようやく理解した。
「じゃあ次は?」
この話は解決とばかりにハーピスが次の質問を促す。
俺は再び考え、
「敵対の可能性が濃厚だったスノーリットの王族を嫁として歓迎する理由は?」
断じて認めてはいないが、王族が嫁候補と聞いて何故あんなにも喜んだのかが気になったので聞くことにした。
するとハーピスはまたも笑って、
「それも簡単。いくら楽勝とは言っても別に進んで戦争をしたいわけじゃない俺たちからすれば、目に見える和平の形として王族同士の結婚ほど明らかなものはないからだよ」
と、確かによく考えればわかることを答えとして返してきた。
つまり、俺が嫁として歓迎された理由は『確実に勝てるが望んではいない戦争を回避するためにはベストな人材だったから』ということか。
やはりこんなのでも王族なのだろう、ハーピスはその辺を全て鑑みて俺をここに連れてきたに違いない。
気に入ったとか言っていたけど、やっぱりあれはただの口実なのだ。
まあ、エルフ族の内情を知りすぎていたがための娶りというのは本当かもしれないけど。
いずれにしろ『俺個人』ではなく『スノーリット王国の第一王女』を娶りたかったと、結局はそういうことなのだ。
だから俺が元男だろうが、現在が女であれば関係なかったんだ。
……ツキン
何故かそれが、妙に胸に刺さった。
「さて、他にもまだ疑問はある?」
ハーピスに声を掛けられハッとした俺は顔を上げて彼を見る。
監獄島にいた時とは違い、にこにこと笑いながら俺を見るその綺麗すぎる顔がふいに歪んだ気がした。
咄嗟に顔を逸らして隠したが、なんで俺はあいつの顔を見て泣きそうになっているんだろうか。
「ネージュ?」
あまりにも不自然に顔を逸らしたせいか、ハーピスが「どうしたの?」と俺の顔を覗き込んで来ようとする。
「な、なんでもない」
それも躱して、俺は立ち上がって窓際まで逃げるように移動した。
そして見慣れない景色でなんとか心を落ち着かせて再び考えたが、
「もう特に質問はない、かな」
『なんで男の俺でもいいと思ったのか』という先ほど解決してしまった質問を飲み込んでそう答えた。
ハーピスのその言葉に、残っていた国王夫妻と兄も部屋を出て行った。
非常に名残惜しそうではあったが。
「はー、やれやれ、予想よりもみんなテンパってたなぁ」
あははと暢気に笑いながらその原因を作った張本人は俺にまた「座れば?」と言ってソファの自分の隣をポンポンと叩いた。
今度は俺もその言葉に従ってソファにお邪魔する。
ハーピスとの間に人1人分のスペースを開けて。
いやあ、広いソファでよかった。
「…まあいいか」
彼はそのスペースが気に食わないというように眉間に皺を寄せたが、ため息を一つ吐いて妥協したようだ。
「焦んなくても時間はあるしね」とか言っていたが俺は何も聞いていない。
「とりあえずどこから説明しようかな…」
ハーピスに「何から聞きたい?」と目で問われ、俺はちょっと考えた後、
「迫害が大事ではないという件からで」
ここでの自分の立場に関係ありそうなものから聞くことにした。
いくら短い期間で実害がほとんどなかったとはいえ、スノーリット王国の王族である側妃が明確に「エルフ族を迫害します」と言ったこと自体が問題だろうに、何故それが大したことないと言えるのか。
「ああ、それはね」
ハーピスは「簡単だよ」とからからと笑い、
「本気でスノーリットが敵対行動を取ったところで、俺たちには全然脅威にならないからだよ」
至極あっさりとそう言った。
俺はあっけらかんと言われた言葉の意味を吟味し、
「ああ、そりゃそうか」
とすぐに納得した。
言われてみれば簡単なことだ。
戦争で物理と魔法、どちらがより脅威かと言われれば当然魔法だろう。
遠距離からドッカンドッカン広範囲魔法をぶち込まれれば、剣と槍ではどうやっても防ぐことはできない。
この世界に魔法を封じる術はなかったはずだから、いざ戦争となればエルフ族の勝利は確実だった。
「まあ、側妃もそれがわかってたから俺に軍事利用できる術式を開発するように言ってたんだけどね」
あの人俺がエルフだって知らなかったし、と引き続き笑いながらハーピスが言う。
そういえばこいつが監獄島に来た理由って、側妃に軍事利用可能な術式の開発を命じられて断ったからだったけど、もしかしてそれってエルフ族との戦争用の技術だったのか?
そりゃ自分の一族を害する技術を開発しろと言われたら誰だって頷くわけはない。
俺がよく考えもしないで決めた設定がまさかこんな形で影響しているとは…。
「ていうかそれがわかってたからラインハルト公は必死にエルフを守ったんだよ。怒った俺たちにスノーリットが滅ぼされないようにって」
実際は歯牙にもかけられていなかったようだが、確かにその可能性に思い至ればなにもしないでいることなどできなかっただろう。
ゲームにはいなかったラインハルト公爵だが、スノーリット王国は彼によって守られていたようなものだったと俺はようやく理解した。
「じゃあ次は?」
この話は解決とばかりにハーピスが次の質問を促す。
俺は再び考え、
「敵対の可能性が濃厚だったスノーリットの王族を嫁として歓迎する理由は?」
断じて認めてはいないが、王族が嫁候補と聞いて何故あんなにも喜んだのかが気になったので聞くことにした。
するとハーピスはまたも笑って、
「それも簡単。いくら楽勝とは言っても別に進んで戦争をしたいわけじゃない俺たちからすれば、目に見える和平の形として王族同士の結婚ほど明らかなものはないからだよ」
と、確かによく考えればわかることを答えとして返してきた。
つまり、俺が嫁として歓迎された理由は『確実に勝てるが望んではいない戦争を回避するためにはベストな人材だったから』ということか。
やはりこんなのでも王族なのだろう、ハーピスはその辺を全て鑑みて俺をここに連れてきたに違いない。
気に入ったとか言っていたけど、やっぱりあれはただの口実なのだ。
まあ、エルフ族の内情を知りすぎていたがための娶りというのは本当かもしれないけど。
いずれにしろ『俺個人』ではなく『スノーリット王国の第一王女』を娶りたかったと、結局はそういうことなのだ。
だから俺が元男だろうが、現在が女であれば関係なかったんだ。
……ツキン
何故かそれが、妙に胸に刺さった。
「さて、他にもまだ疑問はある?」
ハーピスに声を掛けられハッとした俺は顔を上げて彼を見る。
監獄島にいた時とは違い、にこにこと笑いながら俺を見るその綺麗すぎる顔がふいに歪んだ気がした。
咄嗟に顔を逸らして隠したが、なんで俺はあいつの顔を見て泣きそうになっているんだろうか。
「ネージュ?」
あまりにも不自然に顔を逸らしたせいか、ハーピスが「どうしたの?」と俺の顔を覗き込んで来ようとする。
「な、なんでもない」
それも躱して、俺は立ち上がって窓際まで逃げるように移動した。
そして見慣れない景色でなんとか心を落ち着かせて再び考えたが、
「もう特に質問はない、かな」
『なんで男の俺でもいいと思ったのか』という先ほど解決してしまった質問を飲み込んでそう答えた。
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