47 / 57
46
しおりを挟む
『俺には三根純という前世がある』
そう言ってから2人が口を開くまで結構な時間があった。
どのくらいかというと、肩で息をしていた俺の息が整い、緊張が治まって冷静になって、固まったままの2人の目の前でおーい、もしもーしと手を振れるくらいの時間だ。
「…ハーピス?…須藤くーん?」
ふりふりと左手と右手でそれぞれハーピスと須藤君の眼前でそれを振れば、
がっしぃ!!
「ひっ!?」
突然右手を凄い力で握られた。
「……本当ですか?」
そう言って爛々と輝く瞳で俺を見たのは須藤君で、音がしそうなほどの力で俺の右手を握って、いや最早握り潰している。
「本当に、三根さん、なんですか?」
普段の彼からは想像もつかない力に俺は驚きつつ、なんとか一度手を放してもらおうと左手で彼の手を掴もうとした。
がしっ
けれど一瞬判断が遅かったようで、その左手はハーピスに掴まれてしまう。
「ねえ、あんた今俺って言ったよね?なに、中身男なの?」
ハーピスがそう言う間にギリギリと次第に掴んでいる手に力が入っていき、彼の爪が俺の手に食い込んでくる。
ギリギリギリ…って、ちょ、痛い痛い痛い!
「あの、2人とも手を放して…」
「三根さん、ああ、三根さーん!!!」
「ねぇ、どうなの?男なの?」
ぎゅぎゅぎゅーっ
ギリギリギリ…
俺の手を掴んで大声で泣き出す須藤君と、瞳孔開いてませんか?という目で問い詰めてくるハーピス。
やべぇこれ、どっちも振りほどけない…。
両手の痛みに耐えながら、俺は途方に暮れた。
1分後。
「っいい加減にしやがれー!!」
ダダンッ
「だっ!?」
「いっつ!?」
ついに堪え切れなくなった俺は2人の足を踏んだ。
足の甲を思いっきり踏まれた2人は痛みで掴んでいた手をようやく放した。
解放された手を見ると、右手は血が止まっていたせいで紫色に変色しており、左手にはいくつもの爪痕が赤く浮き出ていた。
「…一旦落ち着きましょうか」
「…そうですね」
「…うん、一回冷静になろ」
それぞれがそれぞれの痛みをやり過ごしまともに話ができるようになったところで、俺たちは元通りベッドと椅子と壁際に戻った。
そして口を開いたのは須藤君。
「改めて、貴女は本当に三根さんなんですか?」
信じられません…、と彼は項垂れ頭を振る。
それは自分以外の転生者がいることが信じられないというのと、ネージュが三根であることが信じられないのと、2つの意味での言葉だろう。
俺だってルイスが須藤君だって知った時そう思ったからよくわかる。
「本当だよ。第一この世界で三根純の名前を知っている人なんていないでしょ?」
俺が苦笑と共に告げれば「まあ、そうですよね」と頷く。
「まさか生みの親とは…。そりゃあ色々と知りすぎるほど知っているわけだ」
須藤君はそう言うと自分の中で折り合いがついたのか顔を上げるとじっと俺を見た。
「…三根さん」
「なに?」
顔を上げてこちらを凝視する須藤君が妙に真剣な顔をするので、俺はなんとなく背筋を正した。
その姿を改めて上から下まで見て、再度視線を俺の顔に戻すと、
「めっちゃ美少女になりましたね」
瞳を涙に濡らし鼻を啜りながらもグッと親指を立てて俺に見せた。
「そこかよ!?」
ついツッコんでしまった俺は悪くない。
そう言ってから2人が口を開くまで結構な時間があった。
どのくらいかというと、肩で息をしていた俺の息が整い、緊張が治まって冷静になって、固まったままの2人の目の前でおーい、もしもーしと手を振れるくらいの時間だ。
「…ハーピス?…須藤くーん?」
ふりふりと左手と右手でそれぞれハーピスと須藤君の眼前でそれを振れば、
がっしぃ!!
「ひっ!?」
突然右手を凄い力で握られた。
「……本当ですか?」
そう言って爛々と輝く瞳で俺を見たのは須藤君で、音がしそうなほどの力で俺の右手を握って、いや最早握り潰している。
「本当に、三根さん、なんですか?」
普段の彼からは想像もつかない力に俺は驚きつつ、なんとか一度手を放してもらおうと左手で彼の手を掴もうとした。
がしっ
けれど一瞬判断が遅かったようで、その左手はハーピスに掴まれてしまう。
「ねえ、あんた今俺って言ったよね?なに、中身男なの?」
ハーピスがそう言う間にギリギリと次第に掴んでいる手に力が入っていき、彼の爪が俺の手に食い込んでくる。
ギリギリギリ…って、ちょ、痛い痛い痛い!
「あの、2人とも手を放して…」
「三根さん、ああ、三根さーん!!!」
「ねぇ、どうなの?男なの?」
ぎゅぎゅぎゅーっ
ギリギリギリ…
俺の手を掴んで大声で泣き出す須藤君と、瞳孔開いてませんか?という目で問い詰めてくるハーピス。
やべぇこれ、どっちも振りほどけない…。
両手の痛みに耐えながら、俺は途方に暮れた。
1分後。
「っいい加減にしやがれー!!」
ダダンッ
「だっ!?」
「いっつ!?」
ついに堪え切れなくなった俺は2人の足を踏んだ。
足の甲を思いっきり踏まれた2人は痛みで掴んでいた手をようやく放した。
解放された手を見ると、右手は血が止まっていたせいで紫色に変色しており、左手にはいくつもの爪痕が赤く浮き出ていた。
「…一旦落ち着きましょうか」
「…そうですね」
「…うん、一回冷静になろ」
それぞれがそれぞれの痛みをやり過ごしまともに話ができるようになったところで、俺たちは元通りベッドと椅子と壁際に戻った。
そして口を開いたのは須藤君。
「改めて、貴女は本当に三根さんなんですか?」
信じられません…、と彼は項垂れ頭を振る。
それは自分以外の転生者がいることが信じられないというのと、ネージュが三根であることが信じられないのと、2つの意味での言葉だろう。
俺だってルイスが須藤君だって知った時そう思ったからよくわかる。
「本当だよ。第一この世界で三根純の名前を知っている人なんていないでしょ?」
俺が苦笑と共に告げれば「まあ、そうですよね」と頷く。
「まさか生みの親とは…。そりゃあ色々と知りすぎるほど知っているわけだ」
須藤君はそう言うと自分の中で折り合いがついたのか顔を上げるとじっと俺を見た。
「…三根さん」
「なに?」
顔を上げてこちらを凝視する須藤君が妙に真剣な顔をするので、俺はなんとなく背筋を正した。
その姿を改めて上から下まで見て、再度視線を俺の顔に戻すと、
「めっちゃ美少女になりましたね」
瞳を涙に濡らし鼻を啜りながらもグッと親指を立てて俺に見せた。
「そこかよ!?」
ついツッコんでしまった俺は悪くない。
0
お気に入りに追加
13
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢の慟哭
浜柔
ファンタジー
前世の記憶を取り戻した侯爵令嬢エカテリーナ・ハイデルフトは自分の住む世界が乙女ゲームそっくりの世界であり、自らはそのゲームで悪役の位置づけになっている事に気付くが、時既に遅く、死の運命には逆らえなかった。
だが、死して尚彷徨うエカテリーナの復讐はこれから始まる。
※ここまでのあらすじは序章の内容に当たります。
※乙女ゲームのバッドエンド後の話になりますので、ゲーム内容については殆ど作中に出てきません。
「悪役令嬢の追憶」及び「悪役令嬢の徘徊」を若干の手直しをして統合しています。
「追憶」「徘徊」「慟哭」はそれぞれ雰囲気が異なります。
マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました
東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。
攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる!
そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。
悪役令嬢の独壇場
あくび。
ファンタジー
子爵令嬢のララリーは、学園の卒業パーティーの中心部を遠巻きに見ていた。
彼女は転生者で、この世界が乙女ゲームの舞台だということを知っている。
自分はモブ令嬢という位置づけではあるけれど、入学してからは、ゲームの記憶を掘り起こして各イベントだって散々覗き見してきた。
正直に言えば、登場人物の性格やイベントの内容がゲームと違う気がするけれど、大筋はゲームの通りに進んでいると思う。
ということは、今日はクライマックスの婚約破棄が行われるはずなのだ。
そう思って卒業パーティーの様子を傍から眺めていたのだけど。
あら?これは、何かがおかしいですね。
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。
しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。
冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!
わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?
それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?
乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う
ひなクラゲ
ファンタジー
ここは乙女ゲームの世界
悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…
主人公と王子の幸せそうな笑顔で…
でも転生者であるモブは思う
きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…
どうして私が我慢しなきゃいけないの?!~悪役令嬢のとりまきの母でした~
涼暮 月
恋愛
目を覚ますと別人になっていたわたし。なんだか冴えない異国の女の子ね。あれ、これってもしかして異世界転生?と思ったら、乙女ゲームの悪役令嬢のとりまきのうちの一人の母…かもしれないです。とりあえず婚約者が最悪なので、婚約回避のために頑張ります!
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる