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「……困った時は寝るに限るな」
そうすれば夢でチーフがヒントをくれるらしい。
お陰で俺はまだゲームの設定に囚われ過ぎていたことに気がつけた。
エンドへの道は一つではない。
大団円ルートがダメなら、王子ルートへ行けばいいのだ。
だってこの2つは、ほとんど同じシナリオなのだから。
そして大団円ルートが潰えた今、残された道で最善策を選ぶなら。
王子ルートの最後でうまいこと逃げる。
これしかない。
「できるかどうかはわからないけど」
ゲームではどうやっても助けられないターギ司祭の命を救えたのだ。
なら努力次第で王子ルートからでも俺の望むエンディングが叶わないわけじゃないと思う。
まあ、最悪の場合は既に修道女の身であることを盾に王子との結婚を断ればいい。
「やってみる価値はある」
ぐっと拳を握りしめ、決意を新たに食堂へと向かう。
思いの外がっつりと昼寝をしたから、もう夕食の時間が迫っていた。



「皆さん、ちょっとお時間よろしいですか?」
夕食が終わり、これからは各々の時間というタイミングで申し訳ないと思ったが、皆が集まる機会は食事時くらいしかないので仕方ない。
俺は先ほどの計画を実行するのに必要な条件を整えようと、ある提案を皆に伝える。
「ずっと悩んでいたのですが、明日から私も見回りに同行したいと思います」
それはずっと避けてきた戦闘パート実施の提案だ。
なんのためかと問われれば、王子ルートのラスボス出現条件『全員のレベルMAX』を達成するためである。
ゲームでは『強くなって2周目』の際に知らずに達成していたり、ボス戦を戦い抜くために王子ルート発生後からラスボス戦までの間で達成したりするものだが、俺は発想を変えてみた。
『王子ルートを滞りなく進める条件が全て揃っていれば、王子がこの島に訪れるのではないか』と。
つまり『ラスボス戦までに条件を整えていればいい』という前提が通用しない可能性を考えたのだ。
それが合っているか否か知りようがないが、いずれにしろこれは達成しなければならない条件ではあるので、これを機にやっておくことにする。
「ずいぶん突然だな」
「貴女はまだ心の傷が癒えていないでしょう。そんな状態で魔物と戦闘なんて危険すぎます」
「…ネージュは危ないことなんて、しなくていいよ」
俺の提案にグランプは戸惑ったように、ドクトは断固として、バッシルは気遣うように、それぞれ否やを唱える。
視線を巡らせれば、他のメンバーも同じ意見のようだ。
ハーピスだけは「何故そんなことを?」と目で問うてきたが、今この場では答えることができないのでスルーする。
そもそも暗殺者事件から1週間くらいしか経っていないから反対されると思ってはいたが、予想通りだった。
「先日の暗殺者の件があったからこそです」
だから俺は今回も予め用意していた言い訳もとい説明を始める。
「何故私が暗殺者に狙われたのかは未だにわからないままですが、今後また襲撃がないとも限りません」
ちらりとハーピスを見る。
彼には側妃の企みであることを伝えていたので様子を窺ったが、彼はそれをおくびにも出さずに黙って俺の話に耳を傾けていた。
流石頭脳明晰冷静沈着のエルフ族、腹芸はお手の物だ。
「ですから、自衛のために私も鍛えたいのです。勝てなくても抵抗したり逃げることができれば、前回のように皆さんに助けを求めることもできます」
俺は視線を戻し、全員を見回しながら頭を下げる。
「貴方たちに頼らなければならない我が身に恥じ入るばかりですがお願いです。私の命を長らえる手伝いをしてはいただけませんか」
これは言い訳ではない俺の心からの言葉だ。
だからこそ皆に俺の気持ちが伝わるはず。
「ターギ司祭の味方を減らすわけにはいかないのです」
そしてこっちは言い訳だが、先ほどの感情が残っているので少しは説得力が出ていると思いたい。
僅かな沈黙の後、口を開いたのは意外にもドーパだった。
「そういうことなら別にいいんじゃねぇか?」
彼は腕を組み難しい顔をしていたが、俺を見る目には優しさが込められているように見える。
「一人で対抗して倒したいってんなら反対だが、俺らを頼って助けを求めるための時間稼ぎ方法だってんなら、俺は反対しねぇよ」
「ドーパ…」
「最初からあんたを助けるつもりではいたが、そこに余裕が生まれて助ける確率が上がるならむしろ願ったり叶ったりだしな」
俺を真っ直ぐに見つめ、ドーパは薄く笑った。
それは初めて見た彼の笑顔だった。
「…ありがとうございます」
彼が笑ってくれたことが嬉しくてうっかり泣きそうになったが何とか堪え、俺は礼を言った。
本来彼が笑顔を見せてくれるのは攻略ルートに入ってからだが、今のは恋愛感情が絡んだ笑みではないので、単純に絆のようなものが深まったのだと思おう。
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