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取ってきた食材をまとめて置いてある物置へ取りに行くというので、ついでにグランプが釣ってきたカジキを汚れてもいい屋外で捌いてしまおうと、俺たちは全員で場所を移動することにした。
春とは言え常温の中放置していたと聞いて大丈夫かと心配になったが、ハーピスが氷魔方陣を使って物置の一部に簡易冷蔵場所を作ってくれていたらしい。
魔法研究所員ならば絶叫しそうな使用方法だが、状況に応じた素晴らしい能力の活用法だ。
ちなみに普段は生鮮食品など滅多に食べられないので、冷蔵施設はこの島にない。
また、騎士団の野営演習でグランプが魚の血抜きを学んでいたのもよかった。
お陰でカジキは出来うる限り最高の状態で保管されていた。
その最高状態のカジキをグランプが抱え、ドクトが斧を片手に歩き、ドーパが道中拾った巨大な丸太を持ち、バッシルとハーピスがそれぞれ砥がれた剣を持って、俺たちは今海岸へ向かって歩いている。
この2人が持っている剣は俺が朝ベッドの下に隠していた『古びた剣×2』だったものだ。
「なんだ、嬢ちゃんが持ってたのか。ん?なんでだ?」
カジキを取りに行った物置で古びた剣とこん棒がなくなっているとの話が出て、それに思わず「あ」と声を上げてしまった俺は咄嗟に「部屋に魔物についての本があったから、参考にしたら改良できないかと思って持ってきてました」という嘘を吐いてしまった。
その言葉に先刻以来俺の両手をそれぞれ握って離さない双子が「お姉ちゃんそんなことまでやってくれようとしてたの?」「すごいね、偉いねー」とにこにこ笑って褒めてくれているのが心に痛い。
そしてとりあえず剣は砥いだ方がいいのではとの話になり、悪いとは思ったが部屋にいた本職のドーパにお願いすることになって、彼も合流した。
俺を見た表情はセンブリ茶でも飲んだのかというようなものだったが、それでも嫌悪感が見えなくてほっとした。
そうして剣を砥いでもらっていると、冬の薪割り用にと加工場の奥にしまわれてあった斧をドクトが持ってきたのを見て、俺は今朝の行動が無意味ではないがあまり意味がないものであったのを知った。
そもそもよく考えればみんな俺よりも前からこの島にいるのだから、戦闘経験が皆無なわけがなかった。
やはりあれはあくまでゲームの隠しルート解放設定なのだと痛感する。
とはいえ王子が来なかった場合のリカバリー方法がないので、武器は戻すが念のため彼らに戦わせないように気をつけよう。
どんなに準備していようとなるようにしかならないので、防げなかった時のことは考えないことにした。
と思った矢先。
「グルキシャアアァァァ!!」
「はいはい邪魔ですよっと」
海岸に着くなり咆哮を上げて海から飛び出てきた魔物をドクトが斧の一撃で葬っていた。
えええー…、いきなり暗礁じゃん。
てかゲームスタート直後のこの時点で一撃って、どういうこと?
斧ってそんなに強いの?
ええええええー…?
偶然属性が合ったのかもしれないが、両手を塞がれていたとはいえ背中のイクスキャリバーに手を伸ばすまでもなく終わってしまった戦闘に俺は項垂れるしかできなかったのである。
魔物が去った後、ドーパが持っていた丸太を斧で削り、解体用の簡易テーブルを作って動かないよう下部を少し砂に埋める。
「あらよっと」
そこにカジキをどさりと置いたグランプはこれからの作業に向けてか、気合を入れるようにぐるぐると肩を回す。
包丁では捌けそうもないと剣でカジキを捌くことになったので、騎士である彼の活躍が期待できそうだ。
グランプは徐にこちらを振り返ると、白い歯を見せニカッと笑い、
「んじゃ頼まあ」
と、いつの間にかバッシルから剣を受け取っていたドクトにバトンタッチした。
って、お前が切るんじゃないんかーい!!
お前騎士だろ?
なんで医者に剣持たせてんだよ!
魔物のショックが抜けていない俺の心の中は中々の荒れ模様で、ついついツッコんでしまう。
うっかり声に出さないように気をつけなければ。
一方頼まれたドクトは苦笑し、グランプの後ろにあるカジキの頭を指差す。
「待ってください。頭を切り落とすのだけやってもらっていいですか?流石に腕力が足りないので」
さっき斧を振った時のような力があっても、さすがに骨を切るとなると辛いようだ。
普通の魚でも骨はやたらと硬いのだから、この大きさにもなれば致し方ない。
「人ならどこでも切れるんですけどねぇ」
一人納得していたのに、ふふふと穏やかな笑みに包まれた物騒な発言が聞こえてきた。
聞かなかったことにした。
「そりゃそうか。ハーピス、俺にも剣くれ」
「はいよ」
一方のグランプはドクトの発言が聞こえなかったのか聞いても気にしていないのか、彼の言葉に頷くと剣を受け取る。
そしてカジキを前にうーんと頭を捻る。
「この辺か?」
剣先でヒレの辺りを示し、ドクトを振り返る。
どうやら大きすぎてどこを切ったらいいのか迷ってしまい、指示を仰ごうとしているようだ。
「もうちょっと上でいいですよ。エラの辺り」
「こんくらいか」
ドクトの言葉に移動させた剣先でちょんとしるしをつけると、彼はその前に真っ直ぐに立った。
剣を構え、ふうと一つ息を吐けば、そこには普段の快活な好青年の姿はなく、ただ1人の騎士の男が立っていた。
「はっ!」
ピンと空気が張り詰めた一瞬に短い気合の声を上げ、彼は剣を振り下ろす。
その軌跡が白い線に見えるほどの速度で振り抜かれた剣は、数ミリのズレもなくしるしを穿ち、その下の砂浜ギリギリで止まっていた。
……ドサリ
間をおいてゆっくりとカジキの頭が砂浜に落ちる。
「こんなもんか」
「完璧です」
それを見て声を掛け合う2人を見て俺が再度心の中でツッコんでしまったのは仕方のないことだと思う。
いやだからどんだけ強えんだよ!!
そこからの処理も早かった。
剣を包丁というよりはメスのようにスーッと操り、ドクトはあっという間にカジキを背側、腹側2つずつの切り身と背骨にわけてしまった。
テレビで見たマグロの解体ショーのようで、鮮やかな手並みに拍手を送りたくなる。
だが双子ががっちり両手を掴んでいるのでそれは叶わなかった。
「流石、肉を切り慣れてるねー」
ハーピスも俺と同じ気持ちだったのだろう、こちらは手が自由だったのでバッシルやグランプと共に拍手を送っている。
「なんだか人聞きの悪い言い方ですね」
ドクトは先ほどの自分の発言は棚に上げて「それ褒めてます?」と苦笑しつつも一応賛辞と受け取ったようだ。
そして彼はすっと目の前に剣を掲げると、
「でもこのよく切れるようになった剣がなければ、こんなにすぐにはできませんでしたよ」
そう言ってドーパを見た。
なんとなく全員がその視線を追い、結果的にドーパを視線で包囲してしまう。
「放置してて悪かったよ」
目を向けられた彼はばつが悪そうに頭に手をやると、一つため息を吐き、
「それに、今までのことも」
と言って全員の方を振り返る。
「お前らが悪いわけじゃないことはわかってんだが、ちょっと気持ちの整理がつかなくて、八つ当たりみてぇなもんだったと思う。すまんかった」
自分の非を認め、誠心誠意頭を下げる。
ドーパの謝罪は潔かった。
同じ工場で働く人間に陥れられたことで人間不信となっていたことや冤罪で投獄されたことなど、彼には事情も理由もあったのに言い訳は一切しない。
自分の事情など関係なく、自分が彼らに対して取った態度のみを顧み、結果自分が悪かったと心から思っていることが如実に伝わってくるものだった。
「はは、お前漸くちゃんと喋ったな!」
そんなドーパに一番に声を掛け、背を力強く叩いたのはグランプだった。
「いっつもなんか堪えてるみたいな思い詰めた顔してさ。お前に相当な事情があることはなんとなくわかってたさ」
彼はそう言うとドーパの肩に腕を回し、大丈夫だと言うように笑う。
「そうですね。貴方が他人に対して不信感を抱いているというのは見て取れましたが、かと言って暴れるわけでもなく、あまりしゃべらないだけでしたから。多少不便でしたけど、でもそれだけでしたし、私たちもそっとしておこうと貴方に声をかけなかったのだから、貴方だけが謝ることではありませんよ」
「そーそー。別になんも損害被ってないし、俺は気にしてないよ」
「…俺も人のこと言えないし」
「僕らは近寄らないでおこーって思ってたから関係ないし」
「ねー」
続いてドクト、ハーピス、バッシル、双子とそれぞれ思うところを話す。
苦笑気味であったり、あっけらかんとしていたりと表情はそれぞれだが、そのどれにも非難の色がなかったことにドーパは逆に戸惑っているようだった。
「人というのは見ていないようで案外他者のことをよく見ているものです」
この中で一番出会って間もない俺がこの流れの中に参加してもいいのか迷ったが、口を挟むことにした。
だって生みの親なんだ、我が子たちには仲良くしてほしい。
「貴方にお話しした通り、私はみんなのことを調べました。だからこそ断言できます。ここにいるのはみな謂れのない罪で投獄された貴方の仲間ですよ」
その言葉にドーパはハッとしたように顔を上げる。
子どもを助けようとしただけのドクト、貴族の不正を指摘したグランプ、母を助けようとした双子、王子の知ったかぶりを諫めたバッシル、王家の非人道的な意向に逆らったハーピス。
まあこの中で貴族を殴ったグランプと側妃から盗みを働いた双子は完全に無実とは言えないが、それでも私利私欲のために罪を犯したのではない。
ゲームとして発売するにあたり、快楽殺人犯や愉快犯のような本人の本質故に犯罪に走って投獄されたような設定は『世間の犯罪を助長する』などの批判が来そうだったので避けた経緯もあり、ここにいるメンバーは全員現代日本では罪にならないか、なっても執行猶予がつくようなレベルの犯罪しか犯させていないのだ。
「だから信じろとはいいませんが、肩の力くらいはもう少し抜いてみませんか?」
ね?と促すように笑いかければ、彼は戸惑いつつも小さく頷いてくれた。
俺がこの世界に転生した理由は前世の皆が俺の幸せを願ってくれていたからだった。
だったら今世の俺は、ここにいる彼らの幸せを願い、助けたいと思う。
それが強制的に不幸を抱えさせた俺の彼らに対する贖罪だと思うから。
そして、やり直しの機会を与えてくれた前世の皆の優しさに対する俺なりの礼にしたいから。
春とは言え常温の中放置していたと聞いて大丈夫かと心配になったが、ハーピスが氷魔方陣を使って物置の一部に簡易冷蔵場所を作ってくれていたらしい。
魔法研究所員ならば絶叫しそうな使用方法だが、状況に応じた素晴らしい能力の活用法だ。
ちなみに普段は生鮮食品など滅多に食べられないので、冷蔵施設はこの島にない。
また、騎士団の野営演習でグランプが魚の血抜きを学んでいたのもよかった。
お陰でカジキは出来うる限り最高の状態で保管されていた。
その最高状態のカジキをグランプが抱え、ドクトが斧を片手に歩き、ドーパが道中拾った巨大な丸太を持ち、バッシルとハーピスがそれぞれ砥がれた剣を持って、俺たちは今海岸へ向かって歩いている。
この2人が持っている剣は俺が朝ベッドの下に隠していた『古びた剣×2』だったものだ。
「なんだ、嬢ちゃんが持ってたのか。ん?なんでだ?」
カジキを取りに行った物置で古びた剣とこん棒がなくなっているとの話が出て、それに思わず「あ」と声を上げてしまった俺は咄嗟に「部屋に魔物についての本があったから、参考にしたら改良できないかと思って持ってきてました」という嘘を吐いてしまった。
その言葉に先刻以来俺の両手をそれぞれ握って離さない双子が「お姉ちゃんそんなことまでやってくれようとしてたの?」「すごいね、偉いねー」とにこにこ笑って褒めてくれているのが心に痛い。
そしてとりあえず剣は砥いだ方がいいのではとの話になり、悪いとは思ったが部屋にいた本職のドーパにお願いすることになって、彼も合流した。
俺を見た表情はセンブリ茶でも飲んだのかというようなものだったが、それでも嫌悪感が見えなくてほっとした。
そうして剣を砥いでもらっていると、冬の薪割り用にと加工場の奥にしまわれてあった斧をドクトが持ってきたのを見て、俺は今朝の行動が無意味ではないがあまり意味がないものであったのを知った。
そもそもよく考えればみんな俺よりも前からこの島にいるのだから、戦闘経験が皆無なわけがなかった。
やはりあれはあくまでゲームの隠しルート解放設定なのだと痛感する。
とはいえ王子が来なかった場合のリカバリー方法がないので、武器は戻すが念のため彼らに戦わせないように気をつけよう。
どんなに準備していようとなるようにしかならないので、防げなかった時のことは考えないことにした。
と思った矢先。
「グルキシャアアァァァ!!」
「はいはい邪魔ですよっと」
海岸に着くなり咆哮を上げて海から飛び出てきた魔物をドクトが斧の一撃で葬っていた。
えええー…、いきなり暗礁じゃん。
てかゲームスタート直後のこの時点で一撃って、どういうこと?
斧ってそんなに強いの?
ええええええー…?
偶然属性が合ったのかもしれないが、両手を塞がれていたとはいえ背中のイクスキャリバーに手を伸ばすまでもなく終わってしまった戦闘に俺は項垂れるしかできなかったのである。
魔物が去った後、ドーパが持っていた丸太を斧で削り、解体用の簡易テーブルを作って動かないよう下部を少し砂に埋める。
「あらよっと」
そこにカジキをどさりと置いたグランプはこれからの作業に向けてか、気合を入れるようにぐるぐると肩を回す。
包丁では捌けそうもないと剣でカジキを捌くことになったので、騎士である彼の活躍が期待できそうだ。
グランプは徐にこちらを振り返ると、白い歯を見せニカッと笑い、
「んじゃ頼まあ」
と、いつの間にかバッシルから剣を受け取っていたドクトにバトンタッチした。
って、お前が切るんじゃないんかーい!!
お前騎士だろ?
なんで医者に剣持たせてんだよ!
魔物のショックが抜けていない俺の心の中は中々の荒れ模様で、ついついツッコんでしまう。
うっかり声に出さないように気をつけなければ。
一方頼まれたドクトは苦笑し、グランプの後ろにあるカジキの頭を指差す。
「待ってください。頭を切り落とすのだけやってもらっていいですか?流石に腕力が足りないので」
さっき斧を振った時のような力があっても、さすがに骨を切るとなると辛いようだ。
普通の魚でも骨はやたらと硬いのだから、この大きさにもなれば致し方ない。
「人ならどこでも切れるんですけどねぇ」
一人納得していたのに、ふふふと穏やかな笑みに包まれた物騒な発言が聞こえてきた。
聞かなかったことにした。
「そりゃそうか。ハーピス、俺にも剣くれ」
「はいよ」
一方のグランプはドクトの発言が聞こえなかったのか聞いても気にしていないのか、彼の言葉に頷くと剣を受け取る。
そしてカジキを前にうーんと頭を捻る。
「この辺か?」
剣先でヒレの辺りを示し、ドクトを振り返る。
どうやら大きすぎてどこを切ったらいいのか迷ってしまい、指示を仰ごうとしているようだ。
「もうちょっと上でいいですよ。エラの辺り」
「こんくらいか」
ドクトの言葉に移動させた剣先でちょんとしるしをつけると、彼はその前に真っ直ぐに立った。
剣を構え、ふうと一つ息を吐けば、そこには普段の快活な好青年の姿はなく、ただ1人の騎士の男が立っていた。
「はっ!」
ピンと空気が張り詰めた一瞬に短い気合の声を上げ、彼は剣を振り下ろす。
その軌跡が白い線に見えるほどの速度で振り抜かれた剣は、数ミリのズレもなくしるしを穿ち、その下の砂浜ギリギリで止まっていた。
……ドサリ
間をおいてゆっくりとカジキの頭が砂浜に落ちる。
「こんなもんか」
「完璧です」
それを見て声を掛け合う2人を見て俺が再度心の中でツッコんでしまったのは仕方のないことだと思う。
いやだからどんだけ強えんだよ!!
そこからの処理も早かった。
剣を包丁というよりはメスのようにスーッと操り、ドクトはあっという間にカジキを背側、腹側2つずつの切り身と背骨にわけてしまった。
テレビで見たマグロの解体ショーのようで、鮮やかな手並みに拍手を送りたくなる。
だが双子ががっちり両手を掴んでいるのでそれは叶わなかった。
「流石、肉を切り慣れてるねー」
ハーピスも俺と同じ気持ちだったのだろう、こちらは手が自由だったのでバッシルやグランプと共に拍手を送っている。
「なんだか人聞きの悪い言い方ですね」
ドクトは先ほどの自分の発言は棚に上げて「それ褒めてます?」と苦笑しつつも一応賛辞と受け取ったようだ。
そして彼はすっと目の前に剣を掲げると、
「でもこのよく切れるようになった剣がなければ、こんなにすぐにはできませんでしたよ」
そう言ってドーパを見た。
なんとなく全員がその視線を追い、結果的にドーパを視線で包囲してしまう。
「放置してて悪かったよ」
目を向けられた彼はばつが悪そうに頭に手をやると、一つため息を吐き、
「それに、今までのことも」
と言って全員の方を振り返る。
「お前らが悪いわけじゃないことはわかってんだが、ちょっと気持ちの整理がつかなくて、八つ当たりみてぇなもんだったと思う。すまんかった」
自分の非を認め、誠心誠意頭を下げる。
ドーパの謝罪は潔かった。
同じ工場で働く人間に陥れられたことで人間不信となっていたことや冤罪で投獄されたことなど、彼には事情も理由もあったのに言い訳は一切しない。
自分の事情など関係なく、自分が彼らに対して取った態度のみを顧み、結果自分が悪かったと心から思っていることが如実に伝わってくるものだった。
「はは、お前漸くちゃんと喋ったな!」
そんなドーパに一番に声を掛け、背を力強く叩いたのはグランプだった。
「いっつもなんか堪えてるみたいな思い詰めた顔してさ。お前に相当な事情があることはなんとなくわかってたさ」
彼はそう言うとドーパの肩に腕を回し、大丈夫だと言うように笑う。
「そうですね。貴方が他人に対して不信感を抱いているというのは見て取れましたが、かと言って暴れるわけでもなく、あまりしゃべらないだけでしたから。多少不便でしたけど、でもそれだけでしたし、私たちもそっとしておこうと貴方に声をかけなかったのだから、貴方だけが謝ることではありませんよ」
「そーそー。別になんも損害被ってないし、俺は気にしてないよ」
「…俺も人のこと言えないし」
「僕らは近寄らないでおこーって思ってたから関係ないし」
「ねー」
続いてドクト、ハーピス、バッシル、双子とそれぞれ思うところを話す。
苦笑気味であったり、あっけらかんとしていたりと表情はそれぞれだが、そのどれにも非難の色がなかったことにドーパは逆に戸惑っているようだった。
「人というのは見ていないようで案外他者のことをよく見ているものです」
この中で一番出会って間もない俺がこの流れの中に参加してもいいのか迷ったが、口を挟むことにした。
だって生みの親なんだ、我が子たちには仲良くしてほしい。
「貴方にお話しした通り、私はみんなのことを調べました。だからこそ断言できます。ここにいるのはみな謂れのない罪で投獄された貴方の仲間ですよ」
その言葉にドーパはハッとしたように顔を上げる。
子どもを助けようとしただけのドクト、貴族の不正を指摘したグランプ、母を助けようとした双子、王子の知ったかぶりを諫めたバッシル、王家の非人道的な意向に逆らったハーピス。
まあこの中で貴族を殴ったグランプと側妃から盗みを働いた双子は完全に無実とは言えないが、それでも私利私欲のために罪を犯したのではない。
ゲームとして発売するにあたり、快楽殺人犯や愉快犯のような本人の本質故に犯罪に走って投獄されたような設定は『世間の犯罪を助長する』などの批判が来そうだったので避けた経緯もあり、ここにいるメンバーは全員現代日本では罪にならないか、なっても執行猶予がつくようなレベルの犯罪しか犯させていないのだ。
「だから信じろとはいいませんが、肩の力くらいはもう少し抜いてみませんか?」
ね?と促すように笑いかければ、彼は戸惑いつつも小さく頷いてくれた。
俺がこの世界に転生した理由は前世の皆が俺の幸せを願ってくれていたからだった。
だったら今世の俺は、ここにいる彼らの幸せを願い、助けたいと思う。
それが強制的に不幸を抱えさせた俺の彼らに対する贖罪だと思うから。
そして、やり直しの機会を与えてくれた前世の皆の優しさに対する俺なりの礼にしたいから。
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