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「ガルディアナの現国王もこの呪いにかかっているのね」
「そうですね。というかこれ以降の国王全員がその呪いにかかっているようです」
「え?」
私の確認に対するアゼリアの答えは肯定であったが、その範囲は私の想像を超えていた。
まさか歴代の国王全員が呪われていただなんて思ってもみなかったもの。
「何故?」
アゼリアならきっとそこまで調べているはずだと思い尋ねる。
すると彼女はやるせないといった顔をした。
「戒めと呪縛」
しかしそんな彼女から与えられた答えを私は理解できない。
「戒めと、呪縛?」
「はい」
繰り返しただけの私の言葉にアゼリアは首肯する。
私が落としてしまった絵本を拾い上げて最後の頁を開いた。
『この本を読みし我が子孫に希う、私が犯した過ちを決して忘れることなく、また繰り返すことがないようにと。』
最後の頁は真ん中にこの文章が一文書いてあるだけだった。
その右下の隅には『第二代国王 アーガンソン・ディルフィール・ガルディアナ』と署名がしてある。
それは二代目国王、つまりあの兄王子の言葉だった。
この本の著者も彼なのかどうかはわからないが、これを読んだ後に彼からの言葉を聞くと胸が痛くなる思いがする。
私が犯した過ちとあるが、決して彼が悪いわけではないのに。
「この言葉が戒めなのね」
「はい。呪いの声に負け弟を失ってしまったことを彼は生涯悔いていたという話がこの本とともに公爵家に伝わっているそうです」
アゼリアは本を閉じて自身の傍らに置く。
そして椅子に座り、手を祈るように組むと目を閉じて静かに口を開いた。
「エディノス・ユングルが記した『各国逸話大全』の中にこんな記述もありました」
『ガルディアナ王家では王太子が二十歳を迎えると成人の儀を開いて王の資質を問うという。内容までは伝わっていないが、ある侍女の話では「儀式の後殿下が指先から血を流していた」「殿下が頭を抱えて泣いていた」「この儀式の後から殿下は人が変わったようだった」とのことだった。人が変わったようだという王太子の変化についてさらに尋ねると「殿下は茶目っ気があり、寡黙で勤勉な陛下と違って飄々とした印象だった。しかし儀式の後久々に公に姿を見せた殿下はまるで陛下の生き写しだった」と言うのだ。面白いと思って調べてみると、他にも幼少時代には多くの武勇伝があるのに儀式の後はそういった話が一切ない国王たちが数多く見つかった。しかも国王になった時の評価が全員『寡黙で勤勉』であるとなっているのだ。この儀式が歴代ガルディアナ国王たちの気質を作っていると言っても過言ではないだろう。』
「この指先からの血が『狂王の針』によって刺されたものゆえであると仮定すれば、ガルディアナでは王太子が二十歳になると儀式と称して針による呪いをかけ続けているものと思われます」
静かにアゼリアから齎された情報はまたも私の理解を超えていた。
何故わざわざ呪いなどをかけるのか。
しかも今後国王になって国を背負う王太子に。
「これが呪縛です。文字通り呪いに縛られるのでしょう。その理由はわかりませんが、推測することはできます」
ごくりと喉が鳴る。
手に滲む汗を感じながらアゼリアの言葉を待った。
わざわざ国王を呪う、しかも親の命令で子どもが呪われる理由とはなんなのか。
「けれどその推測を今言うことは控えさせていただきたいのです」
「って、ええええ?」
なのにアゼリアはここに来てそう言うと席を立ってしまった。
肩透かしにも程がある。
「申し訳ありません。ですがさらなる情報を得られるようにと家の者をガルディアナの公爵家へ向かわせています。ガルディアナ王家のことは無理でも『狂王の針』については何かわかるかもしれませんので、その情報を待たせてください」
しかし頭を下げてそんなことを言われては待たないわけにはいかず。
「……ああもう!」
気になって仕方ないが私は黙って続報を待つことにした。
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