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急に齎された新たな手掛かり

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さてあれからどうなったかというと。
「ローゼ様、おはようございます」
「おはようございます、マリー様」
「あ、アンネローゼ様におかれましては本日もご機嫌麗しく」
「……たった今麗しくなくなりそうになっているわ」
「ひぃっ!!?」
今日のようにマリー様とのお茶会に時たまハリスが加わるようになった。
私の癒しの時間、心の安らぎを得られる貴重な時間にあの男が加わっているのだ。
正直面白くない。
そのせいでもしかしたら私は前よりもこの男が嫌いになっているかもしれなかった。
ちなみに侯爵から「こいつに敬称など付ける必要はないでしょう」と言われたので今は呼び捨てだ。
元々途中からは嫌味で付けていただけの敬称であったので、私は即日その通りにしてやったのだ。
「もう、ローゼ様、いい加減ハリスで遊ぶのはおやめくださいな」
「……だって、私とマリー様のお茶会なのに」
苦笑したマリー様にやんわりと窘められる。
それは自分の婚約者となったハリスをぞんざいに扱うなという意味ではなく、単に彼が毎度酷く青褪めるからやめてあげてほしいと庇っているに過ぎないのだが、だからこそ余計に腹が立つ。
いい歳こいた男がか弱い令嬢の背に庇われてんじゃないわよ!!
「あの、じ、実は」
「ああん?」
「ひぃっ!?やっぱり何でもないです、はい」
親指の爪をガジガジと噛みたい衝動を必死で押さえながらハリスを睨めば、あいつは私に何事かを言いかけた。
それをつい睨んでしまったのだが、そんな私を今度はマリー様が睨む。
「もう!お2人ともいい加減にしてくださいな!」
そういうマリー様のぷっくりと膨れ上がったほっぺがとても可愛かった。
けれどそれを言ってしまえばより一層怒らせてまた可愛い顔が見られ、じゃなくて、不機嫌な顔にさせてしまうだろう。
私はすぐに「ごめんなさい」とマリー様に謝罪した。
そして同じくマリー様に頭を下げたハリスに「それで?」と水を向けたところ、なんとびっくり。
彼の用向きは呪具の行方に関してのことだった。
「実はアゼリアと手分けをして我が家の蔵書を全て読み直し、呪具に関する記載や騎士と降嫁した王女の行方について記載されている書物がないものかと探していたのですが、昨日アゼリアがこれを」
ハリスは鞄の中から一冊の本を取り出した。
それは中々に古い本のようで、一見綺麗に見えるがよく見ると鮮やかな赤であったのだろう表紙はやや色褪せ、僅かに装丁が剥がれた部分がある。
「これは?」
言いながらパラリと表紙をめくる。
紙のふちが日に焼けて少し黄ばんではいるが、文字は問題なく読めそうだ。
「こちらは約60年前の異国見聞録です。著者の出身国は不明ですが、我が国を含め近隣諸国を旅していたようで」
ハリスの言葉を聞きながらさらに一枚ペラリとめくると目次があり、「オークリッド編」「ジャスパル編」「ガルディアナ編」などがあった。
なるほど確かに著者はこの辺りの国を旅したのだと思われる。
改めて本の背を見ると著者名はエディノス・ユングルとなっていたが、他の書では見たことのない名前だった。
なのに不思議とどこかで耳にしたような気がする名前でもある。
「本の内容自体は大したことのない漫遊記のようなものです。しかし時々噂話を集めているような描写がありまして、ジャスパル編に気になる記述があったのです」
ハリスは「失礼」と一気に頁をめくる。
どうやら小さな紙を栞代わりに挟めていたようで、目的の頁はすぐに開かれた。
「……ここからです」
そう言ってハリスが示した頁には。
『ここは小さいながらも活気のある街だ。人々は老人から子供に至るまで皆笑顔で、強い日差しがそれを眩しく彩っている。申し訳程度に巡回の騎士もいるが、果たして腰に下げられたあの剣を抜く機会などあるのだろうか?そうだ、毎日この街を眺めている彼らからなら何か面白い話が聞けるかもしれない。物は試しだと近くにいた巡回兵に声をかけた。彼は「もうすぐ仕事が終わるのでその後であれば構わない」と言うので、彼のおすすめの酒場で落ち合う約束をして街を見て回りながらひと足先にそこへ向かった』
「いやどこよ」
「あ、すみません、もう少し先です」
「…そう」
結論を急ぎ過ぎたようだ。
私は再び文章を目で追う。
面倒なので関係のなさそうな部分は字を追うだけで読み飛ばした。
そして再び騎士との話が出てきたので、そこからはちゃんと目を通す。
ハリスが読ませたかったのはこの部分だと思ったからだ。
なんでわかったかって、この頁あと2行しかないのよ。
『……ほどなく酒場で合流した騎士、名をグレッグというそうで、彼からは様々な話を聞くことができた。例えば名物、名産品、名所。さらには「自分には某国の王族の血が流れている」などと語る』
文章が終わったので頁をめくる。
『一風変わった同僚の話。彼が言うには「自分の祖先はとある大国の王女と騎士だ」と言うのだそうだ。酒の席での話だったとのことだが、もしそれが事実ならこの周辺にある大国、もしかしたらオークリッド国の王族に連なるとでも言うのだろうか。とんだ与太話もあったものだと私は大いに気をよくし、グレッグにできればその男に話を聞いてみたいので所在を教えてほしいと請うた』
文章を読み進めていく毎に手が僅かに震える。
この先に書いてある言葉を見るのが怖くなっていき、一旦騎士の話が終わって関係のない話題に変わっていったことにむしろ安堵を覚えながら再び数頁をめくった。
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