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最終編

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神狩の件はとりあえず解決として、ルリアーナたちは次に解決すべきことに目を向ける。
魔王は相変わらずきょとんとしているし、カロンは目を閉じたまま。
ならば意識のある魔王から解決していくべきだろうと彼に話し掛けてみた。
「今まで放っておいてごめんなさい。えっと、貴方は魔王、なのかしら?」
この場で自分が話し掛けるのが正しいのかはわからなかったが、自分に何かあってもルカリオとベリアルが守るはずだという思いからルリアーナが口を開く。
今までの様子を見る限りいきなり襲い掛かられることはなさそうだが、だからと言って油断はできない。
『……そうなのかな?』
「違うの?」
『うーん、わかんない』
そう思ったのに、肝心の魔王は自分が誰かもわかっていないようだった。
話し方も言葉は通じているようだがなんだか小さい子供のようで、見た目とのギャップが酷い。
黒髪ロングの如何にも魔王といった雰囲気の美丈夫があどけない口調で話すその様に、ギャップ萌えが大好きなルナは「はわわわ…」と目をキラキラさせている。
「じゃあ、貴方がなんでここにいるのかは、わかる?」
ルリアーナも毒気を抜かれたように言葉遣いを優しくさせた。
例え見た目が20代後半から30代前半に見えようと称号が魔王であろうと、今目の前にいる男性の本質は幼い子供と変わらないと感じたからだ。
『気がついたら誰かの中にいたの。意識はあったけど自分じゃ動くこともできなかったから、僕は何なんだろうってずっと思ってた。でも今、僕は僕で、身体があって自由に動かせる。それがなんでなのかはわかんない』
魔王は『んー?』と首を傾げながら自分が理解していることを伝えてくれる。
その認識から言葉遣いこそ幼いが知能はそれなりに育っていそうだということがわかった。
「そう。じゃあ説明してもいいかしら?」
『うん』
だからルリアーナがそう言えば、嬉しそうに頷いて笑顔を見せる。
後ろの方でルナの呻きが聞こえたがルリアーナは聞こえなかったことにして魔王に笑顔を返し、彼の状況を話し始めた。
「貴方は魔王としてこの世界に生まれるはずだった存在らしいわ。あ、魔王ってわかる?」
『ちょっと待ってね。えーと……魔王、はバランスの崩れた世界を壊してあるべき姿に戻すための存在。封印と同時に消滅し、また生まれることで蘇ったとされる世界自身が生み出す自浄作用……、だって!』
「え?」
すると魔王が突然そんなことを言い、ルリアーナは戸惑って優里花に目を遣る。
この世界の理を作った彼女なら今魔王が言ったことについてなにか知っているだろうかと思ったからだが、優里花は首を振った。
「魔王は突然蘇って破壊の限りを尽くす存在で、異世界の乙女にしか封じることができないという設定以外はありません」
しかし彼女もそのことは知らないらしい。
そして離れたところで話を聞いているトプルを見ても、彼も知らないと首を振るばかりだった。
では今魔王が言ったことはなんなのか。
そして、何故答えが『伝聞系』だったのか。
まさか魔王にしか見えない誰かがこの場にいて耳打ちしたわけでもあるまいに。
「えーっと?それは、あの、どういうことかしら?」
だからルリアーナは答えた本人である魔王に問い掛けた。
だが肝心の本人は自分がどれだけこの世界の常識を覆したのかもわからない様子できょとんとしている。
『どうって?』
逆に不思議そうな魔王の問い返しに困るばかりだ。
「なんでそれを知ってるのかって聞けばいいんじゃないか?」
互いに困惑した様子の2人を見ていたルカリオが口を挟む。
彼も魔王の言い方が気になったのか、「誰かに聞いたのか、それとも元々知ってたのかってさ」と言って促すように魔王に目を戻した。
「そうね。それを教えてくれる?」
ルリアーナが改めて魔王にお願いすると、彼はこくんと頷くと、
『えっとね、僕の頭の中はアカシックレコード?っていうのと繋がってるんだって。僕が頭に疑問を浮かべると勝手にそこから答えが返ってくるんだ』
便利だけど不思議だよね、とその答えを教えてくれた。
けれど彼が答えた内容が理解できた者はごく少数だった。
「アカシックレコードの概念ってこの世界にもあるんですね…?」
『ほう、貴方は常にあれと繋がっているので?』
その少数とは驚いて目を丸くしているアナスタシアとベリアルの2人のことで、彼女たちの言葉からアナスタシアは前世の知識で知っていて、ベリアルはこの世界に実在していることを知っているからだということがわかる。
ということは魔王の言う通り、この世界には前世に存在するかもしれないとされていたアカシックレコードが本当にあるということだ。
この世の成り立ちから未来までの一切が記されているという情報の泉が。
『うん。だから魔王ってなに?って思ったらさっきの言葉が浮かんできたんだ。だから答えられたんだ』
魔王はベリアルの言葉に頷く。
そしてアナスタシアからアカシックレコードの概要を聞いたルリアーナに「っていうことなんだけど…」と不安そうな上目遣いでもじもじしながら言った。
「そう、なの…」
後ろから聞こえる「ぐっはぁっ!?」という声をまたも無視しながらルリアーナは眉を寄せて考え込む。
もしかして魔王とは本来なら復活という名の生まれ変わりが起きた瞬間に『ここはどこだ』『私は誰だ』『何のために存在している』などの疑問を感じて、それに対し繋がりを持つアカシックレコードが答えることで自分が魔王でありこの世界を滅ぼす存在であると知るのではなかろうか。
だがこの魔王は生まれてからその疑問を抱く前にクレッセンに取り込まれたからか、まだ自分が魔王でこの世界を滅ぼす存在だと知らなかったのではないか。
意識はあったようだから絶対とは言えないが、魔王が何かを知らなかった様子からその可能性があるとルリアーナは考えた。
だから今なら、彼の魔王としての覚醒を止めることができるのではないかと。
「わかったわ。ありがとう」
もしそれができるなら、この魔王は封じなくても、消滅させなくても済むかもしれない。
生まれたばかりの無垢な赤子と変わらない、この純粋な魔王を。
魔王というのが世界が自浄のために生み出した存在だとしても、結果として封じられて消えてしまうくらいなら。
私がもらったって、いいわよね?
「それなら、バランスが崩れていないこの世界を滅ぼす必要のない貴方は魔王ではないわ」
ルリアーナはにっこりと魔王に笑い掛ける。
一歩二歩と前に出て、彼に右手を差し出し、
「今日から貴方は、私のお友達よ」
戸惑った顔でその手を見つめる魔王の手を左手で掴んで、自分の右手へと導いてしっかりと握りしめた。
「もちろん、ここにいる皆ともね!」
そして自分の後ろに居並ぶヴァルトたちを示し、彼が友達の意味を知って喜び笑顔を見せるまでその手を離さなかった。
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