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アナスタシア編
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「聞いておいてなんだけれど、ガイラス殿下のことは一旦置いておいて」
「はい」
「貴女が誰なのか、確認させてもらってもいいかしら?」
「はい?」
ゲームの知識はないものの、君となについてはある程度知識があったため簡単に済んだ自己紹介の後、ルリアーナはアデルから関係者一覧の紙を借りてアナスタシアの前に広げる。
「これは今までに判明している転生者の一覧で、恐らく貴女が最後の一人なの」
「は、はあ…?」
「突然で驚くわよね。でも無印から4までのヒロインと悪役令嬢が全員転生者であることはほぼ確定しているわ」
困惑した顔で紙を眺めるアナスタシアにルリアーナは宥めるように笑って見せると、紙に指を滑らせた。
「そして皆の欄に『ストーカー事件』と書いてあるでしょう?これは前世のある事件の仮称なのだけれど、私たちは全員この事件に関わっていたの。だからきっとアナスタシアちゃんも関わっていると思って、それも聞きたくて今日ここにお邪魔したというわけ」
「な、なるほど」
アナスタシアはようやく明かされた来訪目的に頷くと、再び紙を見つめる。
しかし紙には事件内容については書かれていないため、アナスタシアにはこれが何の事件を指しているのか、そして自分が関わっているかどうかがわからなかった。
「えっと、そのストーカー事件の概要を教えていただいても構いませんか?」
紙を見ると『ストーカー事件被害者』と書かれている人もいるので聞いてもいいのか迷ったが、聞かねば何もわからないと腹を括り、断られることも覚悟でルリアーナに問う。
自分も中々に悲惨な死に際だったが、彼女たちもそうだとしたら聞くのは申し訳ないと思ったのだ。
だがそれでも、先に自分の死に際について語る気にはどうしてもなれなかった。
「もちろんよ。私たちが知っている事件のことを話すから、知っていることがあったら教えてね」
けれどそんな葛藤がまるで無駄だったようにルリアーナは明るく了承を返した。
その顔を見て、もしかしたら自分が危惧しているよりこの事件は暗いものではないのかと僅かな希望を抱いたが、そうではなかったとすぐに知ることになる。
「えーっと、この事件はまず、ある男が女子高校生にフラれたことが発端なんだけど、そのせいでその子と同じ高校の制服を着た女の子が6人ほどその男にストーカーされることになって、その内の何人かがこのストーカーに殺されたの」
「え…」
「アナスタシアちゃんは前世で誰かにストーカーされた記憶はある?」
「い、いえ、特には…」
ルリアーナがさらりと始めた説明は、初めから理解し難いものだった。
いや、話としては理解できるが、心情的に理解できなかった、したくなかった、と言う方が正しい。
だって彼女が今言ったことは、端的に言えば『ある高校の制服を着ていただけの女性6人が逆恨みのストーカーに殺された』ということだろう。
同じ女性として、そして同じ世界に生きていた者として、そんな意味のわからない事件に自分が巻き込まれていたかもしれないなんて恐怖しか感じない。
死に際のことといい、前世の自分はどうやら相当運が悪かったようだ。
「というか、アナスタシアちゃんは前世の記憶、どの程度あるの?」
自分の思考に沈んでいたアナスタシアはその言葉にハッと顔を上げると、「多分、割と鮮明に覚えていると思います」とやや焦りながら伝える。
自分に関わった記憶がない以上、当事者の前で必要以上に落ち込んだ姿を見せるべきではないと考えたからだ。
「そっかぁ。でも気づかないうちにとか、忘れていたっていうこともあるかもしれないから、とりあえず聞いてくれる?」
「はい」
ルリアーナはアナスタシアの返事に「ありがと」と笑うと一口紅茶を含み、続きを話し出した。
「問題のストーカー事件だけど、最初の被害者はシャーリーちゃんだったの。彼女は親御さんが警察に相談したお陰で難を逃れたわ。それで、その次の被害者はストーカーから逃げるために引っ越したみたいなんだけど、これが誰なのか今のところわからないの。だからアナスタシアちゃんがそうだと思ったんだけれど…」
違う?とルリアーナが目線で問えば、
「いえ、私は高校の時に引っ越したことはありません」
アナスタシアはきっぱりと否定を示した。
「それに多分、皆さんとは高校が異なると思います。私は地方にある女子校に通っていましたから」
「…あら?」
そしてさらにそう付け加えられたことで、本当に彼女はこの事件とは無関係である可能性が出てきたことにルリアーナは当てが外れたような気分で首を捻った。
「……ということは、もしかしてカロンさんがその方だったのでしょうか」
それまで黙っていたアデルは消去法でそう結論を出し、それにはルリアーナも「かもしれないわね」と頷くしかない。
「それ以外に残っている被害者は美波だけだけれど、カロンは絶対にあの子ではなかったし」
そうなればもう、事件関係者はいないのだが。
「……考えても仕方ない。とりあえず続けるわね?」
まだ説明は始まったばかり。
結論を急ぐ時ではないと、ルリアーナは再び事件のことを語り出した。
「次の犠牲者はイザベルちゃん。彼女はこの事件で最初に男に殺された子よ」
「っ!」
「その次は私ね。私の場合は妹の美波がこの男にストーカーされてて、会社から家に帰ってきたところで偶然鉢合わせちゃって。追われているうちに熱中症で死んじゃったみたいなの」
イザベルの話以降はここにいる人の死が連続する話になるので、ルリアーナはなるべく重くならないように事件のことを語る。
それは事件への関わりも死んだ時の記憶も薄い自分が被害者面して事件を語ることへ対する申し訳なさからくるものでもあり、重い記憶のあるリーネやアデル、ルナに対して自分ができる精いっぱいの気遣いでもあった。
「その次がルナちゃん。ルナちゃんは男に大怪我を負わされて、その後亡くなったそうよ。で、その次のアデルちゃんは最後の犠牲者なんだけど、リーネちゃんのお陰で男との関わりは薄いみたい」
「あ、そうなんですね」
アナスタシアはアデルの話でようやくほっと息を吐いた。
それまでの話がさらっと語られている割にはよくよく考えると重い話で、なんとなく息を詰めていたのだ。
「んー、でもアデル様の場合、私は彼女の先輩だったし、ルリアーナ様の妹さんとはすごく仲が良かったから、精神面での被害が大きいかな?」
しかしその安堵もルナのこの言葉を聞くまで。
やはり彼女もまた辛い思いを抱えていた。
「いえ、私なんかリーネさんに比べれば全然…」
アデルはルナの言葉をやんわりと否定するが、リーネの事情をまだ聞いていないアナスタシアからすれば『辛い経験』だということに変わりはない。
それに誰かより悲惨な経験をしていないからと言って、その人が辛くなかったわけでもないということはわかるつもりだ。
「事情も知らずにごめんなさい…」
だからアナスタシアは謝ったが、アデルは「そんな、全然気にしなくて大丈夫ですから」と慌てて手を振った。
そしてルナも「あ、別にアナスタシア様を責めるとかではなかったんです!無神経にすみません!!」と自身の発言の迂闊さに気がついて謝罪した。
「うんうん、お互いを思い合えるのはいいことよ」
ルリアーナは3人の会話に笑顔で頷きながら、一番近くにいたアデルの頭を「いい子いい子」と撫でる。
それぞれが自分の非を認めたり相手を気遣ったりできるのは心に余裕があるからだ。
この事件の話を何度も繰り返しているが、ここまで冷静に話が進むようになったのは、そろそろ各々がこの事件に折り合いをつけられてきているという証だと思う。
「さて、じゃあ続きだけれど」
言いながらルリアーナがアナスタシアに目で「続けていいかな?」と問えばすぐに頷きが返ってきたので、そのまま続ける。
「残っているのはリーネちゃんね。リーネちゃんは実は前世でイザベルちゃんのお姉ちゃんだったの。まあ私の同級生でもあったんだけど、関係ないから今は置いておくわね」
ちなみにシャーリーちゃんは私の後輩よ、と付け加えながらルリアーナはリーネを見る。
「それで、リーネちゃんはイザベルちゃんの敵を討つために男を探して、3年かけて見つけたの。それがたまたまアデルちゃんがつきまとわれ始めた時期だったから、男がリーネちゃんから逃げるために街からいなくなったおかげでアデルちゃんは助かったの。でもね」
ルリアーナは「ふう」と息を吐いて一旦紅茶を口に含む。
それに紛れてちらりとリーネの様子を確認したが彼女は落ち着いており、そのまま話を続けても問題なさそうであった。
「…その男は追ってきたリーネちゃんを逆襲しようとしたみたいなんだけど、間違って別の女性を刺したらしいの。しかも男は自分が間違って刺したその女性に自分が凶器に使ったナイフで刺されて死んでしまった。だからイザベ」
「ストーカーの男ってあいつかよ!!!!!」
だが問題があったのはアナスタシアの方であった。
突然激昂した彼女はルリアーナの言葉を遮り、ダァンッ!!と大きな音が立つのも構わずにテーブルを殴りつけ、そのままズルズルと力なく項垂れる。
「ちょ、ちょっと、どうしたの?」
「きゃっ、手が…!」
「血が出てるわ!!」
驚くルリアーナの隣ではアデルが彼女の手を見て絶句し、その手を見たルナが駆け出しながらポケットからハンカチを取り出して手のひらに当てる。
テーブルを殴りつけた拍子に握っていた指の爪が手のひらを傷つけたようで、少なくはない量の血が出ていた。
「アナスタシア様…?」
ルナの横にそっとリーネが近づき、彼女の顔を見れば、
「私を殺したのはその男よ!そして、そいつを刺し殺したのも私だわ!!」
顔を上げたアナスタシアは憎悪を映した瞳で怨嗟の念が溶け込んだ涙を流していた。
「そういう繋がりか…」
会ってすぐには歓喜の涙を流させることができたのに、今度は憎悪の涙を流させてしまったことを悔しく思いながらルリアーナは涙に濡れるアナスタシアを見る。
まさか勘違いで巻き込まれただけの女性までが転生しているとは思わず、何の留意もしないまま無遠慮に彼女の最期に触れてしまった。
きっとそれは彼女にとって触れられたくない傷であっただろうに。
今の彼女の目を見ればそれは想像に難くない。
「やっちゃったなぁ…」
自身の失態にルリアーナは悔しさを誤魔化そうとするかのように前髪を掻き上げて、憐憫と悔恨が混ざった目をアナスタシアに向けた。
「はい」
「貴女が誰なのか、確認させてもらってもいいかしら?」
「はい?」
ゲームの知識はないものの、君となについてはある程度知識があったため簡単に済んだ自己紹介の後、ルリアーナはアデルから関係者一覧の紙を借りてアナスタシアの前に広げる。
「これは今までに判明している転生者の一覧で、恐らく貴女が最後の一人なの」
「は、はあ…?」
「突然で驚くわよね。でも無印から4までのヒロインと悪役令嬢が全員転生者であることはほぼ確定しているわ」
困惑した顔で紙を眺めるアナスタシアにルリアーナは宥めるように笑って見せると、紙に指を滑らせた。
「そして皆の欄に『ストーカー事件』と書いてあるでしょう?これは前世のある事件の仮称なのだけれど、私たちは全員この事件に関わっていたの。だからきっとアナスタシアちゃんも関わっていると思って、それも聞きたくて今日ここにお邪魔したというわけ」
「な、なるほど」
アナスタシアはようやく明かされた来訪目的に頷くと、再び紙を見つめる。
しかし紙には事件内容については書かれていないため、アナスタシアにはこれが何の事件を指しているのか、そして自分が関わっているかどうかがわからなかった。
「えっと、そのストーカー事件の概要を教えていただいても構いませんか?」
紙を見ると『ストーカー事件被害者』と書かれている人もいるので聞いてもいいのか迷ったが、聞かねば何もわからないと腹を括り、断られることも覚悟でルリアーナに問う。
自分も中々に悲惨な死に際だったが、彼女たちもそうだとしたら聞くのは申し訳ないと思ったのだ。
だがそれでも、先に自分の死に際について語る気にはどうしてもなれなかった。
「もちろんよ。私たちが知っている事件のことを話すから、知っていることがあったら教えてね」
けれどそんな葛藤がまるで無駄だったようにルリアーナは明るく了承を返した。
その顔を見て、もしかしたら自分が危惧しているよりこの事件は暗いものではないのかと僅かな希望を抱いたが、そうではなかったとすぐに知ることになる。
「えーっと、この事件はまず、ある男が女子高校生にフラれたことが発端なんだけど、そのせいでその子と同じ高校の制服を着た女の子が6人ほどその男にストーカーされることになって、その内の何人かがこのストーカーに殺されたの」
「え…」
「アナスタシアちゃんは前世で誰かにストーカーされた記憶はある?」
「い、いえ、特には…」
ルリアーナがさらりと始めた説明は、初めから理解し難いものだった。
いや、話としては理解できるが、心情的に理解できなかった、したくなかった、と言う方が正しい。
だって彼女が今言ったことは、端的に言えば『ある高校の制服を着ていただけの女性6人が逆恨みのストーカーに殺された』ということだろう。
同じ女性として、そして同じ世界に生きていた者として、そんな意味のわからない事件に自分が巻き込まれていたかもしれないなんて恐怖しか感じない。
死に際のことといい、前世の自分はどうやら相当運が悪かったようだ。
「というか、アナスタシアちゃんは前世の記憶、どの程度あるの?」
自分の思考に沈んでいたアナスタシアはその言葉にハッと顔を上げると、「多分、割と鮮明に覚えていると思います」とやや焦りながら伝える。
自分に関わった記憶がない以上、当事者の前で必要以上に落ち込んだ姿を見せるべきではないと考えたからだ。
「そっかぁ。でも気づかないうちにとか、忘れていたっていうこともあるかもしれないから、とりあえず聞いてくれる?」
「はい」
ルリアーナはアナスタシアの返事に「ありがと」と笑うと一口紅茶を含み、続きを話し出した。
「問題のストーカー事件だけど、最初の被害者はシャーリーちゃんだったの。彼女は親御さんが警察に相談したお陰で難を逃れたわ。それで、その次の被害者はストーカーから逃げるために引っ越したみたいなんだけど、これが誰なのか今のところわからないの。だからアナスタシアちゃんがそうだと思ったんだけれど…」
違う?とルリアーナが目線で問えば、
「いえ、私は高校の時に引っ越したことはありません」
アナスタシアはきっぱりと否定を示した。
「それに多分、皆さんとは高校が異なると思います。私は地方にある女子校に通っていましたから」
「…あら?」
そしてさらにそう付け加えられたことで、本当に彼女はこの事件とは無関係である可能性が出てきたことにルリアーナは当てが外れたような気分で首を捻った。
「……ということは、もしかしてカロンさんがその方だったのでしょうか」
それまで黙っていたアデルは消去法でそう結論を出し、それにはルリアーナも「かもしれないわね」と頷くしかない。
「それ以外に残っている被害者は美波だけだけれど、カロンは絶対にあの子ではなかったし」
そうなればもう、事件関係者はいないのだが。
「……考えても仕方ない。とりあえず続けるわね?」
まだ説明は始まったばかり。
結論を急ぐ時ではないと、ルリアーナは再び事件のことを語り出した。
「次の犠牲者はイザベルちゃん。彼女はこの事件で最初に男に殺された子よ」
「っ!」
「その次は私ね。私の場合は妹の美波がこの男にストーカーされてて、会社から家に帰ってきたところで偶然鉢合わせちゃって。追われているうちに熱中症で死んじゃったみたいなの」
イザベルの話以降はここにいる人の死が連続する話になるので、ルリアーナはなるべく重くならないように事件のことを語る。
それは事件への関わりも死んだ時の記憶も薄い自分が被害者面して事件を語ることへ対する申し訳なさからくるものでもあり、重い記憶のあるリーネやアデル、ルナに対して自分ができる精いっぱいの気遣いでもあった。
「その次がルナちゃん。ルナちゃんは男に大怪我を負わされて、その後亡くなったそうよ。で、その次のアデルちゃんは最後の犠牲者なんだけど、リーネちゃんのお陰で男との関わりは薄いみたい」
「あ、そうなんですね」
アナスタシアはアデルの話でようやくほっと息を吐いた。
それまでの話がさらっと語られている割にはよくよく考えると重い話で、なんとなく息を詰めていたのだ。
「んー、でもアデル様の場合、私は彼女の先輩だったし、ルリアーナ様の妹さんとはすごく仲が良かったから、精神面での被害が大きいかな?」
しかしその安堵もルナのこの言葉を聞くまで。
やはり彼女もまた辛い思いを抱えていた。
「いえ、私なんかリーネさんに比べれば全然…」
アデルはルナの言葉をやんわりと否定するが、リーネの事情をまだ聞いていないアナスタシアからすれば『辛い経験』だということに変わりはない。
それに誰かより悲惨な経験をしていないからと言って、その人が辛くなかったわけでもないということはわかるつもりだ。
「事情も知らずにごめんなさい…」
だからアナスタシアは謝ったが、アデルは「そんな、全然気にしなくて大丈夫ですから」と慌てて手を振った。
そしてルナも「あ、別にアナスタシア様を責めるとかではなかったんです!無神経にすみません!!」と自身の発言の迂闊さに気がついて謝罪した。
「うんうん、お互いを思い合えるのはいいことよ」
ルリアーナは3人の会話に笑顔で頷きながら、一番近くにいたアデルの頭を「いい子いい子」と撫でる。
それぞれが自分の非を認めたり相手を気遣ったりできるのは心に余裕があるからだ。
この事件の話を何度も繰り返しているが、ここまで冷静に話が進むようになったのは、そろそろ各々がこの事件に折り合いをつけられてきているという証だと思う。
「さて、じゃあ続きだけれど」
言いながらルリアーナがアナスタシアに目で「続けていいかな?」と問えばすぐに頷きが返ってきたので、そのまま続ける。
「残っているのはリーネちゃんね。リーネちゃんは実は前世でイザベルちゃんのお姉ちゃんだったの。まあ私の同級生でもあったんだけど、関係ないから今は置いておくわね」
ちなみにシャーリーちゃんは私の後輩よ、と付け加えながらルリアーナはリーネを見る。
「それで、リーネちゃんはイザベルちゃんの敵を討つために男を探して、3年かけて見つけたの。それがたまたまアデルちゃんがつきまとわれ始めた時期だったから、男がリーネちゃんから逃げるために街からいなくなったおかげでアデルちゃんは助かったの。でもね」
ルリアーナは「ふう」と息を吐いて一旦紅茶を口に含む。
それに紛れてちらりとリーネの様子を確認したが彼女は落ち着いており、そのまま話を続けても問題なさそうであった。
「…その男は追ってきたリーネちゃんを逆襲しようとしたみたいなんだけど、間違って別の女性を刺したらしいの。しかも男は自分が間違って刺したその女性に自分が凶器に使ったナイフで刺されて死んでしまった。だからイザベ」
「ストーカーの男ってあいつかよ!!!!!」
だが問題があったのはアナスタシアの方であった。
突然激昂した彼女はルリアーナの言葉を遮り、ダァンッ!!と大きな音が立つのも構わずにテーブルを殴りつけ、そのままズルズルと力なく項垂れる。
「ちょ、ちょっと、どうしたの?」
「きゃっ、手が…!」
「血が出てるわ!!」
驚くルリアーナの隣ではアデルが彼女の手を見て絶句し、その手を見たルナが駆け出しながらポケットからハンカチを取り出して手のひらに当てる。
テーブルを殴りつけた拍子に握っていた指の爪が手のひらを傷つけたようで、少なくはない量の血が出ていた。
「アナスタシア様…?」
ルナの横にそっとリーネが近づき、彼女の顔を見れば、
「私を殺したのはその男よ!そして、そいつを刺し殺したのも私だわ!!」
顔を上げたアナスタシアは憎悪を映した瞳で怨嗟の念が溶け込んだ涙を流していた。
「そういう繋がりか…」
会ってすぐには歓喜の涙を流させることができたのに、今度は憎悪の涙を流させてしまったことを悔しく思いながらルリアーナは涙に濡れるアナスタシアを見る。
まさか勘違いで巻き込まれただけの女性までが転生しているとは思わず、何の留意もしないまま無遠慮に彼女の最期に触れてしまった。
きっとそれは彼女にとって触れられたくない傷であっただろうに。
今の彼女の目を見ればそれは想像に難くない。
「やっちゃったなぁ…」
自身の失態にルリアーナは悔しさを誤魔化そうとするかのように前髪を掻き上げて、憐憫と悔恨が混ざった目をアナスタシアに向けた。
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