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アナスタシア編
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準備が整えられた応接間に連れて来られたガイラスは、予想以上の人の多さに少しだけ目を瞠る。
各国を巡りながら色々な人間と関わっているとは聞いていたが、こんな大所帯で移動しているとまでは予想していなかったのだ。
「どうせだからガイラス王子も巻き込んじゃおうと思って、皆も呼んでおきました」
フージャと共にガイラスの前を歩いていたルリアーナは、扉を開けて中にいるメンバーを手で示しながらにっこりと笑う。
その顔は自身の婚約者に勝るとも劣らない美貌だと思ったが、何故か妙に油断できない光を孕んでいるようにも感じられた。
武に長けたガイラスは恐らく戦士の直感のようなものでなにかを感じ取ったのだろうが、正体まではわからなかった。
「ガイラス様、お久しぶりです」
ガイラスが一人冷や汗をかいていると、見知った女性が自分の方に駆けてくる。
「リーネ!久しいな」
それは学園にいる時に日常面では世話をし、恋愛面では世話にもなった平民出の娘、リーネだった。
学園を卒業してから会っていなかったが、少し大人びた彼女の笑顔はあの頃と変わっていない。
身の程を弁えつつも貴族社会には染まっていない、彼にとって奇跡のような救いの少女がそこにいた。
「本当に。こうしてまた会えましたこと、光栄に存じます」
リーネはそう言って笑うと、「そうだ!」と手を打ち合わせて破顔した。
「実は先日、探していた私の妹が見つかったのです」
「なんと!それはめでたいことだ」
リーネの笑顔の報告に、ガイラスもまた嬉しそうに目を細める。
妹を探すためだけに必死に勉強をして学園の門を叩いたと聞いて同情し、在学中はそれとなく協力していたが、とうとう悲願を成し遂げたのだと聞けば喜ぶのは当然だ。
「ありがとうございます!全部、めいちゃ、ルリアーナ様のお陰なんです!」
リーネはルリアーナを指し、彼女が自分と妹の恩人だと教える。
彼女はライカやハーティアだけでなく、自分の友人をも救ってくれていたのかと、ガイラスは驚くと同時に先ほど感じた正体不明の感情にやっと理解が及んだ。
あれは支配者に対して抱く強い恐怖にも似た、偉大過ぎる人物に抱く畏敬の念だったのだと。
初めはすぐに帰るつもりだったガイラスもルリアーナの発案で巻き込まれることになり、ならばライカやヴァルト同様一から十まできっちり説明するべきだという話から、改めて彼を歓待するべく場が整えられた。
と言ってもすでに片付けられた応接室に飲み物や軽食、菓子などを運び込むだけだったので、彼らはソファに座りながらその様子を眺めたり隣の者と雑談に興じている。
「そういえばリーネの妹はどちらだ?」
「へ?」
その中でガイラスは既知であるリーネとフージャと話していたのだが、不意にそんなことを言い出した。
「いや、あちらにいるルリアーナ殿と隣の青髪の女性は恰好から高位貴族であるとわかるが、その隣にいる2人の女性は平民だろう?ならばどちらかが君の妹なのではと思ったのだが」
違うのだろうかとガイラスは首を傾げた。
「ああ、そっか」
「だよなぁ…」
きょとんとしていた2人はガイラスの勘違いの理由を悟ると揃って苦笑し、しかしどうやって説明したものかと迷ったので、
「私の妹は現在ハーティアで療養しておりまして、あの2人は新しい友人ですわ」
と、簡単に説明して「詳細は後ほどまとめてお知らせしますから」と言って誤魔化すことにした。
そこを説明するためには一から十までのうち、一から八くらいまでの説明が必要になってしまうからだ。
「ふむ?まあわからんが後で説明してくれるならいい」
ガイラスは顎を摩りながらもそう言ってくれたので、2人はほっと胸を撫で下ろした。
「さてと。ではガイラス殿下にご説明申し上げますが、その前に」
場が整い、いざ説明をと身を乗り出したガイラスに、ルリアーナは「こほん」と小さく咳払いをすると、
「ここにいる皆について、軽く紹介させてくださいな」
と言って、隣にいるアデルを手で示す。
ガイラスはいきなり肩透かしを食らったような気分ではあったが、確かに誰が誰かもわからない状況に一国の王子がいるのは良くないと、ルリアーナに頷き「よろしく頼む」と伝える。
「彼女はライカ様の婚約者でアデル・ウィレル嬢ですわ」
ガイラスの判断に笑みを浮かべたルリアーナに紹介されたアデルは、彼女の言葉と同時に立ち上がりガイラスにカーツィをする。
「ああ、君が。ライカから話は聞いている」
それに頷きを返したガイラスはにこりと微笑むとアデルに楽にするよう示した。
「改めまして、アデル・ウィレルと申します。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」
「いや、こちらこそ。それにここは公式の場ではないのだからなにも問題はない」
「そうそう、身分は大切だけど、ここでの最優先はそれではないわ」
2人のやり取りに、今はまだ客であるガイラスと同程度に身分の高いルリアーナがその次に高いアデルにそう言って口を挟んだことで、暗にこの場では身分による差別を行わないことをガイラスに示した。
「…そうだな。今後もルリアーナ殿同様、リーネと仲良くしてやってくれ」
それを読み取ったガイラスは了承を口にする代わりに、平民であるリーネとの友情を認めることで容認を示した。
「もちろんよね、アデルちゃん」
「はい」
その答えに満足したルリアーナはにっこりと笑うとアデルの頭を撫で、次にシャーリーを紹介した。
「そちらの銀髪の子はシャーリー。…ハーティアのリーネみたいな存在ですわ」
「紹介雑っ!!」
「し、仕方ないですよ、なんの説明もしていない状況では」
しかしその紹介の仕方がまさかの方法だったのでルカリオにツッコまれる。
そしてそれを取りなしたのは雑な紹介のされ方をしたシャーリー本人で、ガイラスは「どうすれば?」とフージャにアイコンタクトを送る。
「……今はそのまま受け取っとけ」
けれど返された返答はこれまた雑なもので、ガイラスはまたもや首を傾げることになった。
「で、その奥にいるストロベリーブロンドの子がルナっていう、クローヴィアのリーネです」
「…言うと思いましたよ」
「ごめんて」
さらにもう一人の少女までもがそう紹介されたので、いよいよガイラスの頭はこんがらがってきた。
「えーと、リーネちゃんとフージャ君はいいから、ルカリオで最後ね」
ルリアーナはそんなガイラスの心情になど気づかず、とどめの最大級の爆弾を彼に投下した。
「この可愛らしい男の子が世間では『金影』って呼ばれている暗殺者で、今は私の護衛をしているルカリオ君です!」
しん、と静まり返ること5秒ほど。
「……は?」
ガイラスは笑顔のまま固まった。
各国を巡りながら色々な人間と関わっているとは聞いていたが、こんな大所帯で移動しているとまでは予想していなかったのだ。
「どうせだからガイラス王子も巻き込んじゃおうと思って、皆も呼んでおきました」
フージャと共にガイラスの前を歩いていたルリアーナは、扉を開けて中にいるメンバーを手で示しながらにっこりと笑う。
その顔は自身の婚約者に勝るとも劣らない美貌だと思ったが、何故か妙に油断できない光を孕んでいるようにも感じられた。
武に長けたガイラスは恐らく戦士の直感のようなものでなにかを感じ取ったのだろうが、正体まではわからなかった。
「ガイラス様、お久しぶりです」
ガイラスが一人冷や汗をかいていると、見知った女性が自分の方に駆けてくる。
「リーネ!久しいな」
それは学園にいる時に日常面では世話をし、恋愛面では世話にもなった平民出の娘、リーネだった。
学園を卒業してから会っていなかったが、少し大人びた彼女の笑顔はあの頃と変わっていない。
身の程を弁えつつも貴族社会には染まっていない、彼にとって奇跡のような救いの少女がそこにいた。
「本当に。こうしてまた会えましたこと、光栄に存じます」
リーネはそう言って笑うと、「そうだ!」と手を打ち合わせて破顔した。
「実は先日、探していた私の妹が見つかったのです」
「なんと!それはめでたいことだ」
リーネの笑顔の報告に、ガイラスもまた嬉しそうに目を細める。
妹を探すためだけに必死に勉強をして学園の門を叩いたと聞いて同情し、在学中はそれとなく協力していたが、とうとう悲願を成し遂げたのだと聞けば喜ぶのは当然だ。
「ありがとうございます!全部、めいちゃ、ルリアーナ様のお陰なんです!」
リーネはルリアーナを指し、彼女が自分と妹の恩人だと教える。
彼女はライカやハーティアだけでなく、自分の友人をも救ってくれていたのかと、ガイラスは驚くと同時に先ほど感じた正体不明の感情にやっと理解が及んだ。
あれは支配者に対して抱く強い恐怖にも似た、偉大過ぎる人物に抱く畏敬の念だったのだと。
初めはすぐに帰るつもりだったガイラスもルリアーナの発案で巻き込まれることになり、ならばライカやヴァルト同様一から十まできっちり説明するべきだという話から、改めて彼を歓待するべく場が整えられた。
と言ってもすでに片付けられた応接室に飲み物や軽食、菓子などを運び込むだけだったので、彼らはソファに座りながらその様子を眺めたり隣の者と雑談に興じている。
「そういえばリーネの妹はどちらだ?」
「へ?」
その中でガイラスは既知であるリーネとフージャと話していたのだが、不意にそんなことを言い出した。
「いや、あちらにいるルリアーナ殿と隣の青髪の女性は恰好から高位貴族であるとわかるが、その隣にいる2人の女性は平民だろう?ならばどちらかが君の妹なのではと思ったのだが」
違うのだろうかとガイラスは首を傾げた。
「ああ、そっか」
「だよなぁ…」
きょとんとしていた2人はガイラスの勘違いの理由を悟ると揃って苦笑し、しかしどうやって説明したものかと迷ったので、
「私の妹は現在ハーティアで療養しておりまして、あの2人は新しい友人ですわ」
と、簡単に説明して「詳細は後ほどまとめてお知らせしますから」と言って誤魔化すことにした。
そこを説明するためには一から十までのうち、一から八くらいまでの説明が必要になってしまうからだ。
「ふむ?まあわからんが後で説明してくれるならいい」
ガイラスは顎を摩りながらもそう言ってくれたので、2人はほっと胸を撫で下ろした。
「さてと。ではガイラス殿下にご説明申し上げますが、その前に」
場が整い、いざ説明をと身を乗り出したガイラスに、ルリアーナは「こほん」と小さく咳払いをすると、
「ここにいる皆について、軽く紹介させてくださいな」
と言って、隣にいるアデルを手で示す。
ガイラスはいきなり肩透かしを食らったような気分ではあったが、確かに誰が誰かもわからない状況に一国の王子がいるのは良くないと、ルリアーナに頷き「よろしく頼む」と伝える。
「彼女はライカ様の婚約者でアデル・ウィレル嬢ですわ」
ガイラスの判断に笑みを浮かべたルリアーナに紹介されたアデルは、彼女の言葉と同時に立ち上がりガイラスにカーツィをする。
「ああ、君が。ライカから話は聞いている」
それに頷きを返したガイラスはにこりと微笑むとアデルに楽にするよう示した。
「改めまして、アデル・ウィレルと申します。ご挨拶が遅くなり申し訳ございません」
「いや、こちらこそ。それにここは公式の場ではないのだからなにも問題はない」
「そうそう、身分は大切だけど、ここでの最優先はそれではないわ」
2人のやり取りに、今はまだ客であるガイラスと同程度に身分の高いルリアーナがその次に高いアデルにそう言って口を挟んだことで、暗にこの場では身分による差別を行わないことをガイラスに示した。
「…そうだな。今後もルリアーナ殿同様、リーネと仲良くしてやってくれ」
それを読み取ったガイラスは了承を口にする代わりに、平民であるリーネとの友情を認めることで容認を示した。
「もちろんよね、アデルちゃん」
「はい」
その答えに満足したルリアーナはにっこりと笑うとアデルの頭を撫で、次にシャーリーを紹介した。
「そちらの銀髪の子はシャーリー。…ハーティアのリーネみたいな存在ですわ」
「紹介雑っ!!」
「し、仕方ないですよ、なんの説明もしていない状況では」
しかしその紹介の仕方がまさかの方法だったのでルカリオにツッコまれる。
そしてそれを取りなしたのは雑な紹介のされ方をしたシャーリー本人で、ガイラスは「どうすれば?」とフージャにアイコンタクトを送る。
「……今はそのまま受け取っとけ」
けれど返された返答はこれまた雑なもので、ガイラスはまたもや首を傾げることになった。
「で、その奥にいるストロベリーブロンドの子がルナっていう、クローヴィアのリーネです」
「…言うと思いましたよ」
「ごめんて」
さらにもう一人の少女までもがそう紹介されたので、いよいよガイラスの頭はこんがらがってきた。
「えーと、リーネちゃんとフージャ君はいいから、ルカリオで最後ね」
ルリアーナはそんなガイラスの心情になど気づかず、とどめの最大級の爆弾を彼に投下した。
「この可愛らしい男の子が世間では『金影』って呼ばれている暗殺者で、今は私の護衛をしているルカリオ君です!」
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