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ルナ編
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クローヴィアの首都リクローバにある一軒の民家。
白い壁にオレンジ色の屋根が鮮やかに映える、小さいながらも小綺麗なその家は他の家から少し離れて建っており、ぽつんとしたもの淋しさを感じさせる。
しかし庭に植えられた色とりどりの花や奥に見える家庭菜園に人の営みが感じられ、決して無機質ではない。
「ここですね」
「よし、感動の再会といきますか!」
そんな小さな家に見合わぬ2人の令嬢が、今まさにその家の扉をノックせんと手を出した。
「そういえばルナって今どうしてるの?」
クローヴィア国王夫妻との晩餐を終えた後、ルリアーナとアデルは翌日のルナ捕獲に向けた打ち合わせのために集まった。
アデルはともかく、すでに王太子妃となっているルリアーナはヴァルトの計らいで比較的自由に行動してはいるもののあまり私用で国を空けるわけにもいかず、実のところあまり余裕なく予定が組まれているので、迅速に動くためには事前情報が必要になる。
「先日ライカ様に伺ったところ、平民街と貴族街の間にある郊外に住居を与えられて監視されているとのことでした」
食後の紅茶をサーブしながら、事情は心得ていると言わんばかりにアデルはライカから伝え聞いたルナの処遇についてルリアーナに説明した。
「やはり王族に魅了の力を使ったのが問題になったようで、自由ではありますが色々制限も多いと。シャーリーさんとは違って半ば意図的でしたし、誤魔化すには見ていた人も大勢でしたし…」
頬に手を添え、ほう、とアデルはため息を吐く。
あの時は自分も愛する婚約者を奪われて腹も気も立っていた。
だからかルナの処遇について、あの時ライカはアデルに何も告げなかった。
それは『王家の問題だから』というのももちろんあっただろうが、アデルの立場上知らされないのはおかしいはずだったことを考えれば、これ以上アデルを傷つけないようにと考えたライカの配慮だったのだろう。
そのため改めて聞くまでアデルはルナがどうなったのか知らなかったのだ。
「そっかぁ。でも、その程度で収めてくださってよかったわ。やはり学生だったからかしら?」
紅茶を飲みながらルリアーナは国王の寛大な処置に感心していた。
しかしそれは大きな間違いで。
『ルリアーナ王太子妃のお陰だよ。大事に至る前に彼女が僕らを元に戻してくれたし、ルナの手綱も握ってくれているからね。今後を考えて彼女の心証を悪くしないためにもこのくらいがちょうどいいと判断されたんだ』
内緒だけどね、とライカが教えてくれた本当の理由を思い出しながらアデルは「そうかもしれませんねー」と嘯き、ちびりと紅茶を含む。
すっきりとした中にあるほのかな甘みがアデルを温めた。
「なら明日はその家に行けばルナに会えるのね?」
「はい」
居場所がわかるなら話は早いとルリアーナは早速翌日の朝から突撃することを決めた。
自分の都合的にもリーネたちを待たせているという状況的にも早いに越したことはない。
「じゃあ悪いけど、ルカリオはお留守番ね」
「へいへい」
ルリアーナは部屋の入口で2人の話に耳を傾けていたルカリオの方を向く。
雛鳥の刷り込みのようにルリアーナの傍を離れない彼を置いて行くのは難しいかと思ったが、意外にも彼はすぐに了承を返した。
「……いいの?」
逆に不思議に思ってルリアーナが聞けば、
「だってそいつ、姫さんたちと同じように前世の記憶があるんだろ?そこに暗殺者であると知られているかもしれない俺がいたらまずいんじゃない?」
と、正にルリアーナが考えていたことをズバリと言い当てられた。
4のヒロインであり、且つ2の悪役令嬢である自分のことを知っていた彼女であれば、もしかしたらアデル並みの知識があるのではと危惧していたのだ。
ルカリオがそこまで前世について正確に把握し、事情を察していてくれたことに驚きつつ、ルリアーナはルカリオに礼を言う。
「ありがとう」
きっとそれはルリアーナのために彼が一生懸命考えてくれた結果だと思うから。
「……どーいたしまして?」
ルカリオは「気にするな」と言いたげな顔で少し恥ずかしそうな顔で苦笑し、「ほら、部屋戻ろーぜ」とドアを開けた。
ルリアーナは「ええ」と返事をし、アデルに手を振りながら部屋に引き上げていった。
そして今、件の家の前にアデルと2人、並んで立っている。
コンコンコン
インターフォンなどもちろんないので、ルリアーナはドアノッカーで扉を叩き、
「ルーナーちゃーん、あっそびーましょー!」
まるで友人の家に遊びに来た小学生のようにリズムをつけてルナを呼んだ。
……タトタトタドタドタドタッ!
バンッ!!
「なんっでアンタがここにいるのよ!?って、アデル…様まで!?」
勢いよく飛び出してきたルナは声だけでルリアーナだとわかったのだろう。
信じられないものを見たという顔で扉を開け、次いでアデルを見てさらに目を見開く。
アデルはその顔に苦笑しながら「おはようございます」と挨拶をし、彼女に向かって微笑んだ。
「実は、今日はちょっと、3人で前世の話でもしようと思いまして」
そして「今からお邪魔してもいいですか?」と言うアデルに、ルナは「……は?」としか言えなかった。
「まさか2人も前世持ちだったなんて…」
おかしいと思ったのよね、とルナは項垂れる。
彼女の家の1つしかないソファにはルリアーナとアデルが、少し離れたところにあるベッドには家主であるルナが腰かけていたが、彼女はごろりとベッドに転がり「あーもー!!」と言いながら手足をバタバタさせている。
そうでもしないと込み上げてくる感情のやり場がないと言わんばかりだ。
転生者が自分だけではないとわかっていたらあんな行動しなかった。
ルリアーナが転生者でなければあんなこと言わなかった。
自分一人が選ばれた悲劇のヒロインぶっていたみたいで、ルナは羞恥と憤りを隠せない。
「すみません、あの時はまさか他にも前世の記憶がある人がいるだなんて思っていなかったので」
アデルは「ああ、その気持ちわかる」と思ったが、今の状況でそう言うのは何か違う気がして、かと言ってでは何と言ったものかと困ったような笑みを浮かべる。
和やかに話すにはまだ互いに蟠りがあるのだ。
「ちょっとやめてよ!アデル様に謝られたら、私だけが嫌な奴になるじゃん!」
そう思っていたから、アデルはルナの言葉にきょとんとしてしまう。
怒鳴るように強い感情で放たれた彼女の言葉の意味を掴みあぐねていた。
「私が能力使って婚約者誑かしたんだから、悪いのは私でしょう…。なのにそっちに謝られたら…謝れない」
ベッドから起き上がったルナは先ほどの勢いはどこへやら、バツが悪そうにそっぽを向く。
それは悪事をした人間がそれを罰せられなかった時の気まずい表情に似ていた。
会わない間に彼女も彼女なりに反省していたのだろう。
罪悪感から逃れるために怒られたがっている子供のようなルナの様子にアデルはふっと笑ってしまった。
これなら、今の彼女となら和解できるかもしれない。
なんとなくではあるが、直感的にアデルはそう思った。
「わかりました。ならこう言いますね。あの時はよくもライカ様に魅了をかけてくれましたね。私から愛する人を奪った罪は重いですよ!でも私は寛大だから、前世のことを全部話してくれたら許します」
だからそう言って、ベッドにぺたりと座り込むルナに近寄った。
そんなアデルの言葉にルナも複雑そうな顔で「なにそれ」と笑うと、
「じゃあ私はこう言うべきかな。アデル様の寛大な処置に感謝し、謝罪として私の知る全てを貴女に語ります。って」
と言いながら近づいてきたアデルと握手を交わし、あの一連の出来事の和解とした。
白い壁にオレンジ色の屋根が鮮やかに映える、小さいながらも小綺麗なその家は他の家から少し離れて建っており、ぽつんとしたもの淋しさを感じさせる。
しかし庭に植えられた色とりどりの花や奥に見える家庭菜園に人の営みが感じられ、決して無機質ではない。
「ここですね」
「よし、感動の再会といきますか!」
そんな小さな家に見合わぬ2人の令嬢が、今まさにその家の扉をノックせんと手を出した。
「そういえばルナって今どうしてるの?」
クローヴィア国王夫妻との晩餐を終えた後、ルリアーナとアデルは翌日のルナ捕獲に向けた打ち合わせのために集まった。
アデルはともかく、すでに王太子妃となっているルリアーナはヴァルトの計らいで比較的自由に行動してはいるもののあまり私用で国を空けるわけにもいかず、実のところあまり余裕なく予定が組まれているので、迅速に動くためには事前情報が必要になる。
「先日ライカ様に伺ったところ、平民街と貴族街の間にある郊外に住居を与えられて監視されているとのことでした」
食後の紅茶をサーブしながら、事情は心得ていると言わんばかりにアデルはライカから伝え聞いたルナの処遇についてルリアーナに説明した。
「やはり王族に魅了の力を使ったのが問題になったようで、自由ではありますが色々制限も多いと。シャーリーさんとは違って半ば意図的でしたし、誤魔化すには見ていた人も大勢でしたし…」
頬に手を添え、ほう、とアデルはため息を吐く。
あの時は自分も愛する婚約者を奪われて腹も気も立っていた。
だからかルナの処遇について、あの時ライカはアデルに何も告げなかった。
それは『王家の問題だから』というのももちろんあっただろうが、アデルの立場上知らされないのはおかしいはずだったことを考えれば、これ以上アデルを傷つけないようにと考えたライカの配慮だったのだろう。
そのため改めて聞くまでアデルはルナがどうなったのか知らなかったのだ。
「そっかぁ。でも、その程度で収めてくださってよかったわ。やはり学生だったからかしら?」
紅茶を飲みながらルリアーナは国王の寛大な処置に感心していた。
しかしそれは大きな間違いで。
『ルリアーナ王太子妃のお陰だよ。大事に至る前に彼女が僕らを元に戻してくれたし、ルナの手綱も握ってくれているからね。今後を考えて彼女の心証を悪くしないためにもこのくらいがちょうどいいと判断されたんだ』
内緒だけどね、とライカが教えてくれた本当の理由を思い出しながらアデルは「そうかもしれませんねー」と嘯き、ちびりと紅茶を含む。
すっきりとした中にあるほのかな甘みがアデルを温めた。
「なら明日はその家に行けばルナに会えるのね?」
「はい」
居場所がわかるなら話は早いとルリアーナは早速翌日の朝から突撃することを決めた。
自分の都合的にもリーネたちを待たせているという状況的にも早いに越したことはない。
「じゃあ悪いけど、ルカリオはお留守番ね」
「へいへい」
ルリアーナは部屋の入口で2人の話に耳を傾けていたルカリオの方を向く。
雛鳥の刷り込みのようにルリアーナの傍を離れない彼を置いて行くのは難しいかと思ったが、意外にも彼はすぐに了承を返した。
「……いいの?」
逆に不思議に思ってルリアーナが聞けば、
「だってそいつ、姫さんたちと同じように前世の記憶があるんだろ?そこに暗殺者であると知られているかもしれない俺がいたらまずいんじゃない?」
と、正にルリアーナが考えていたことをズバリと言い当てられた。
4のヒロインであり、且つ2の悪役令嬢である自分のことを知っていた彼女であれば、もしかしたらアデル並みの知識があるのではと危惧していたのだ。
ルカリオがそこまで前世について正確に把握し、事情を察していてくれたことに驚きつつ、ルリアーナはルカリオに礼を言う。
「ありがとう」
きっとそれはルリアーナのために彼が一生懸命考えてくれた結果だと思うから。
「……どーいたしまして?」
ルカリオは「気にするな」と言いたげな顔で少し恥ずかしそうな顔で苦笑し、「ほら、部屋戻ろーぜ」とドアを開けた。
ルリアーナは「ええ」と返事をし、アデルに手を振りながら部屋に引き上げていった。
そして今、件の家の前にアデルと2人、並んで立っている。
コンコンコン
インターフォンなどもちろんないので、ルリアーナはドアノッカーで扉を叩き、
「ルーナーちゃーん、あっそびーましょー!」
まるで友人の家に遊びに来た小学生のようにリズムをつけてルナを呼んだ。
……タトタトタドタドタドタッ!
バンッ!!
「なんっでアンタがここにいるのよ!?って、アデル…様まで!?」
勢いよく飛び出してきたルナは声だけでルリアーナだとわかったのだろう。
信じられないものを見たという顔で扉を開け、次いでアデルを見てさらに目を見開く。
アデルはその顔に苦笑しながら「おはようございます」と挨拶をし、彼女に向かって微笑んだ。
「実は、今日はちょっと、3人で前世の話でもしようと思いまして」
そして「今からお邪魔してもいいですか?」と言うアデルに、ルナは「……は?」としか言えなかった。
「まさか2人も前世持ちだったなんて…」
おかしいと思ったのよね、とルナは項垂れる。
彼女の家の1つしかないソファにはルリアーナとアデルが、少し離れたところにあるベッドには家主であるルナが腰かけていたが、彼女はごろりとベッドに転がり「あーもー!!」と言いながら手足をバタバタさせている。
そうでもしないと込み上げてくる感情のやり場がないと言わんばかりだ。
転生者が自分だけではないとわかっていたらあんな行動しなかった。
ルリアーナが転生者でなければあんなこと言わなかった。
自分一人が選ばれた悲劇のヒロインぶっていたみたいで、ルナは羞恥と憤りを隠せない。
「すみません、あの時はまさか他にも前世の記憶がある人がいるだなんて思っていなかったので」
アデルは「ああ、その気持ちわかる」と思ったが、今の状況でそう言うのは何か違う気がして、かと言ってでは何と言ったものかと困ったような笑みを浮かべる。
和やかに話すにはまだ互いに蟠りがあるのだ。
「ちょっとやめてよ!アデル様に謝られたら、私だけが嫌な奴になるじゃん!」
そう思っていたから、アデルはルナの言葉にきょとんとしてしまう。
怒鳴るように強い感情で放たれた彼女の言葉の意味を掴みあぐねていた。
「私が能力使って婚約者誑かしたんだから、悪いのは私でしょう…。なのにそっちに謝られたら…謝れない」
ベッドから起き上がったルナは先ほどの勢いはどこへやら、バツが悪そうにそっぽを向く。
それは悪事をした人間がそれを罰せられなかった時の気まずい表情に似ていた。
会わない間に彼女も彼女なりに反省していたのだろう。
罪悪感から逃れるために怒られたがっている子供のようなルナの様子にアデルはふっと笑ってしまった。
これなら、今の彼女となら和解できるかもしれない。
なんとなくではあるが、直感的にアデルはそう思った。
「わかりました。ならこう言いますね。あの時はよくもライカ様に魅了をかけてくれましたね。私から愛する人を奪った罪は重いですよ!でも私は寛大だから、前世のことを全部話してくれたら許します」
だからそう言って、ベッドにぺたりと座り込むルナに近寄った。
そんなアデルの言葉にルナも複雑そうな顔で「なにそれ」と笑うと、
「じゃあ私はこう言うべきかな。アデル様の寛大な処置に感謝し、謝罪として私の知る全てを貴女に語ります。って」
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