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シャーリー編

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その後、アデルと共にルリアーナも国王に呼ばれているとのお達しで、その場は解散となった。
ライカ、アデル、ルリアーナと護衛のルカリオはフージャの船を後にして城へと向かう。
そしてフージャとリーネとシャーリーはそのままダイロスに残っていては危険かもしれないと、すぐに船を移動させることにした。
「『半年もの間『金影』を探している少女がいる』というだけでも危ないのに、その子が突然『金影』探しをやめたら、どう思われると思う?」
帰り際のライカのこの言葉が彼らに早めの行動を促したのだ。
「どうせならスペーディア近くまで行っちゃえばいいかも」
「それならウドスがいいかもしれません」
せっかく移動するならと、ルリアーナとアデルからの提案により彼らはスペーディアとの国境の街ウドスへ向かうこととなった。
この後アナスタシアに会うことを考えてだ。
「わかりました。じゃあ俺たちはひと足先に国境に向かいますね」
「ルナのことは顔見知りの皆さんにお任せします」
「あの!ちゃんとまた会えますよね!?」
船を降りた4人にフージャは手を振り、リーネは敬礼を見せた。
それにすかさずアデルとルリアーナが返したが、他の2人は「なにそれ?」という顔だ。
シャーリーは笑顔で敬礼しながら別れを告げるアデルとルリアーナに縋るような目を向けた。
その目は「せっかく知り合えたのにこのままここでお別れ、なんてことにはならないですよね!?」と切実に訴えている。
「もちろんよ!すぐに追いつくから、観光でもして待っていて」
「その時はルナも一緒かもしれませんから、仲良くしてあげてくださいね!」
そんな不安げなシャーリーにルリアーナとアデルは大丈夫だと笑った。
ちゃんとまたすぐに会えると。
「じゃあ気をつけてね!」
ルリアーナのその言葉を最後に、4人と3人は別の地へ向けて出発することとなった。

ウドスへ向かうため、フージャは必要な物資を確認する。
万が一遭難した時のために3日分の食料と水、燃料も積まなければならない。
「ま、こんなもんかな」
港での手配を終え、フージャは甲板に上がる。
そこにはリーネとシャーリーの姿があり、何やら黄昏ているようだった。
近くによると怒涛の1ヶ月を思ってか遠い目をしたリーネが
「……思えば遠くへ来たもんだ」
と呟いた。
「なんだそりゃ」
「前世の…誰かが言ってた名言、的な?」
聞き覚えもなくリーネらしくもない言葉だと思って聞けば、それはリーネの前世にあった言葉だという。
しかし疑問形の曖昧な答えにフージャは変な顔をした。
名言的な?って言われても俺だって知らねーよ、と。
「えと、シャーリーは知ってる?」
「…言葉だけは」
そして2人の会話からこの疑問は解決することがなさそうだと感じ、早々に忘れることにした。
「なんだっけ?」「日本一周をした人の言葉とかじゃないですか?」「あー、そうかも?」という2人の暢気な会話を聞きながらフージャは操舵室へ移動し、窓から見える遙かな海原に目を向ける。
どこまでも、どこへでも続く海。
その海を渡り続けて自分たちは今、一周して元の場所に戻ろうとしている。
「確かに、遠くに来たよなぁ…」
これでフージャとリーネはこの1ヶ月の間に大陸を一周したことになる。
スペーディアからの短くも長い旅の終わりを感じてフージャはしみじみと息を吐いた。
リーネに助力を請われた時はまさかこんな大掛かりな旅になるなんて思わなかったし、王族を乗せることになるとも思っていなかった。
海賊貴族と蔑まれていた時が嘘みたいで、フージャはこの頃船での旅が楽しくて仕方がない。
「さて、この旅の終わりはどんなものになるのか」
しかし、どんなに名残惜しくても終わらない旅に意味などないので、せめてフージャはその結末に立ち会いたいと考えている。
ここまで付き合って最後を見ずには終われないだろう。
「最後はアナスタシア様、か…」
彼女は一体どんな人生を歩んで生まれ変わってきたのだろうか。
やはり他の女性陣のように辛い最期だったのだろうか。
学園で見かけた彼女の静かな顔を思い出す。
あの時、彼女は何を思って過ごしていたのだろう。
「ま、聞いてみなきゃわからんわな」
出港に向けフージャは錨を上げるよう指示を出す。
願わくばこの旅の終わりが、辛い思いを抱えた友人たちが幸せになれる終わりであればいい。
「……出港するぞ!」
「「はーい!」」
出港の汽笛を鳴らし、3人を乗せた船は国境の街ウドスへ向けて出発した。
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