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知らない少女…達
しおりを挟む贈り物の件でアリエットはアシェルと話す、と決めたけれど。
(…話しかけづらいわね…)
彼の近くには、アリエットの天敵である彼の妹リエナがいつ見てもいる。
何時も近くにいる、とは思っていた。けれど、はっきりと確信して思っていた訳では無いので、改めて見てみると本当に終始ずっと一緒にいるのだ。登校から下校まで一貫して連れ添っている。トイレはどうしているのかしら?
此方から話しかけようと思わなければ、今でも気がついていなかっただろうとアリエットは思った。
(リエナが私にしょうもない話題で絡んでる時に、どうしてずっと後ろに立っているのかしらと思っていたけれど)
シスコンなのかブラコンなのか、双子だから離れたら死んじゃうのか知らないけれど話しかける隙が全くと言っていいほどない。
と、同時に別のことにも気がついた。アリエットがアシェルを見ると、彼は必ずこちらを見るので目が合うのだ。いつ見ても目が合う。なんならこっちが見る前から見てることもある。あの無表情なままでじっと見つめられるので、最初のうちは目が合うことに動揺していたアリエットだったが、そのうち同じように無表情で見返すようになってしまった。すると向こうは直ぐに目をそらす。
じゃあなんでこっちを見るのよ?対応の仕方が分からなさ過ぎる。
リエナもそれに気がついているようで、兄の視線を追ってこちらを見、そしてにやっと笑う。どんな性格の兄妹なのよ。
その内、アリエットが双子が一緒にいるその後ろに、時折もう一人、人がいることに気がついたのは偶然だった。
ランドーソン兄妹の直ぐ後ろ、いつもでは無いけれど授業の始まる前や休憩時間や、帰り間際に教室の入口から双子を覗く見知らぬ少女の姿があった。同じクラスでは見たことがないから、別のクラスの子なのだろう。
金髪の少女だ。ドアから半分しか顔が覗いていないためハッキリとは分からないが、恐らくそれなりに美少女である。
双子を見つめ、特にアシェルに話しかけたいらしく、アリエットと同じようにタイミングを見計らっているようだったが、リエナがいるせいでなのか、彼女も声が掛けられないらしい。
何度見ても後ろでぴょこぴょこ跳ねている姿が見られた。そして、更に時間が経過していくとその子と同じような少女が何人も増えてゆく。
名前は全て把握していないけれど、侯爵令嬢、伯爵令嬢、子爵令嬢、男爵令嬢、商家の娘まで地位は様々な女の子達が、双子の周りにはウヨウヨいた。
侯爵令嬢や伯爵令嬢は時折彼らに話しかけているけれど、会話をしているのはリエナだった。アシェルは無反応のままほぼ動かない。石像か。
その他の少女達は、直接的に話しかけはしないものの自分はここにいるアピールを存分にしてるので、恐らく双子もその存在には気がついているようだったけれど。何をしているんだろうとアリエットが首を傾げていると、メーベリナが教えてくれた。
「あれはね婚活よ、アリー」
「婚活?」
「そう。あそこの柱の影やこっちの壁の隙間、あの遠くの噴水の近くでこっちを凝視している子、ああ、あれもそうね。向かいの窓から見ている子達全て、アシェル・ランドーソンとお近付きになりたい女子ってやつよ。」
「え、こわ。そう…なの?」
「そうよ。婚約者の決まっていない実質公爵家…のように潤沢な資金源と王家からの覚えのある男爵家の嫡男よ。
本当に公爵家の子息だったら声を掛けるなんて恐れ多いけれど、名目は男爵家。
商家からだって嫁入りする事もあるし結婚出来れば順風満帆、誰からも羨ましがられる豊かな生活が待っているし、その上あの美貌でしょう?ああやって近くや遠くから虎視眈々と狙っているのよ、皆」
「そ、そういうものなの?本当に?騙してない?」
「アリーはそういうの疎いのねえ。」
「…少し前まで婚約者がいたから興味がなかったのよ」
「ま、それはそうね。で?」
「ん?」
メーベリナはその美しい顔にふんわりと優しい笑みを浮かべてアリエットを見た。
「何故アリーは、ランドーソン様を見ているのかしら?」
「え。あ、あの、…」
メーベリナは好奇心の塊である。アリエットよりも本や演劇が大好きで、お金を注ぎ込んでいる役者もいるし、出資している作家もいる。彼女の目利きが良かった結果、その役者や作家が大成したり成功してデビューしたりしているものだから、メーベリナもその恩恵を受けていてとても裕福だったりする。
話は逸れたが、とにかく彼女は周囲の色んな事に目敏くて人の機微にも敏感だったりするわけで、アリエットの視線の先にも気がついたというわけだ。
「どこから話せばいいのかなあって」
「全部話してくれて良いのよ?」
「全部…」
と言うことで、直近に起こった不思議な現象をメーベリナに洗いざらい話すことになったのだった。
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