【完結】え、別れましょう?

須木 水夏

文字の大きさ
上 下
11 / 23

知らない少女…達

しおりを挟む





 贈り物の件でアリエットはアシェルと話す、と決めたけれど。
 


(…話しかけづらいわね…)




 彼の近くには、アリエットの天敵である彼の妹リエナがいつ見ても
 何時も近くにいる、とは思っていた。けれど、はっきりと確信して思っていた訳では無いので、改めて見てみると本当に終始ずっと一緒にいるのだ。登校から下校まで一貫して連れ添っている。トイレはどうしているのかしら?

 此方から話しかけようと思わなければ、今でも気がついていなかっただろうとアリエットは思った。



(リエナが私にしょうもない話題で絡んでる時に、どうしてずっと後ろに立っているのかしらと思っていたけれど)



 シスコンなのかブラコンなのか、双子だから離れたら死んじゃうのか知らないけれど話しかける隙が全くと言っていいほどない。

 と、同時に別のことにも気がついた。アリエットがアシェルを見ると、彼は必ずこちらを見るので目が合うのだ。いつ見ても目が合う。なんならこっちが見る前から見てることもある。あの無表情なままでじっと見つめられるので、最初のうちは目が合うことに動揺していたアリエットだったが、そのうち同じように無表情で見返すようになってしまった。すると向こうは直ぐに目をそらす。
 じゃあなんでこっちを見るのよ?対応の仕方が分からなさ過ぎる。


 リエナもそれに気がついているようで、兄の視線を追ってこちらを見、そしてにやっと笑う。どんな性格の兄妹なのよ。




 その内、アリエットが双子が一緒にいるその後ろに、時折もう一人、人がいることに気がついたのは偶然だった。

 ランドーソン兄妹の直ぐ後ろ、いつもでは無いけれど授業の始まる前や休憩時間や、帰り間際に教室の入口から双子を覗く見知らぬ少女の姿があった。同じクラスでは見たことがないから、別のクラスの子なのだろう。
 金髪の少女だ。ドアから半分しか顔が覗いていないためハッキリとは分からないが、恐らくそれなりに美少女である。
 双子を見つめ、特にアシェルに話しかけたいらしく、アリエットと同じようにタイミングを見計らっているようだったが、リエナがいるせいでなのか、彼女も声が掛けられないらしい。
 何度見ても後ろでぴょこぴょこ跳ねている姿が見られた。そして、更に時間が経過していくとその子と同じような少女が何人も増えてゆく。
 名前は全て把握していないけれど、侯爵令嬢、伯爵令嬢、子爵令嬢、男爵令嬢、商家の娘まで地位は様々な女の子達が、双子の周りにはウヨウヨいた。
 侯爵令嬢や伯爵令嬢は時折彼らに話しかけているけれど、会話をしているのはリエナだった。アシェルは無反応のままほぼ動かない。石像か。

 その他の少女達は、直接的に話しかけはしないものの自分はここにいるアピールを存分にしてるので、恐らく双子もその存在には気がついているようだったけれど。何をしているんだろうとアリエットが首を傾げていると、メーベリナが教えてくれた。







「あれはね婚活よ、アリー」

「婚活?」

「そう。あそこの柱の影やこっちの壁の隙間、あの遠くの噴水の近くでこっちを凝視している子、ああ、あれもそうね。向かいの窓から見ている子達全て、アシェル・ランドーソンとお近付きになりたい女子ってやつよ。」

「え、こわ。そう…なの?」

「そうよ。婚約者の決まっていない公爵家…のように潤沢な資金源と王家からの覚えのある男爵家の嫡男よ。
 本当に公爵家の子息だったら声を掛けるなんて恐れ多いけれど、名目は男爵家。
 商家からだって嫁入りする事もあるし結婚出来れば順風満帆、誰からも羨ましがられる豊かな生活が待っているし、その上あの美貌でしょう?ああやって近くや遠くから虎視眈々と狙っているのよ、皆」

「そ、そういうものなの?本当に?騙してない?」

「アリーはそういうの疎いのねえ。」

「…少し前まで婚約者がいたから興味がなかったのよ」

「ま、それはそうね。で?」

「ん?」




 メーベリナはその美しいかんばせにふんわりと優しい笑みを浮かべてアリエットを見た。





「何故アリーは、ランドーソン様を見ているのかしら?」

「え。あ、あの、…」



 メーベリナは好奇心の塊である。アリエットよりも本や演劇が大好きで、お金を注ぎ込んでいる役者もいるし、出資している作家もいる。彼女の目利きが良かった結果、その役者や作家が大成したり成功してデビューしたりしているものだから、メーベリナもその恩恵を受けていてとても裕福だったりする。
 話は逸れたが、とにかく彼女は周囲の色んな事に目敏くて人の機微にも敏感だったりするわけで、アリエットの視線の先にも気がついたというわけだ。




「どこから話せばいいのかなあって」

「全部話してくれて良いのよ?」

「全部…」





 と言うことで、直近に起こった不思議な現象をメーベリナに洗いざらい話すことになったのだった。








しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

旦那様、離縁の申し出承りますわ

ブラウン
恋愛
「すまない、私はクララと生涯を共に生きていきたい。離縁してくれ」 大富豪 伯爵令嬢のケイトリン。 領地が災害に遭い、若くして侯爵当主なったロイドを幼少の頃より思いを寄せていたケイトリン。ロイド様を助けるため、性急な結婚を敢行。その為、旦那様は平民の女性に癒しを求めてしまった。この国はルメニエール信仰。一夫一妻。婚姻前の男女の行為禁止、婚姻中の不貞行為禁止の厳しい規律がある。旦那様は平民の女性と結婚したいがため、ケイトリンンに離縁を申し出てきた。 旦那様を愛しているがため、旦那様の領地のために、身を粉にして働いてきたケイトリン。 その後、階段から足を踏み外し、前世の記憶を思い出した私。 離縁に応じましょう!未練なし!どうぞ愛する方と結婚し末永くお幸せに! *女性軽視の言葉が一部あります(すみません)

【完結】今世も裏切られるのはごめんなので、最愛のあなたはもう要らない

曽根原ツタ
恋愛
隣国との戦時中に国王が病死し、王位継承権を持つ男子がひとりもいなかったため、若い王女エトワールは女王となった。だが── 「俺は彼女を愛している。彼女は俺の子を身篭った」 戦場から帰還した愛する夫の隣には、別の女性が立っていた。さらに彼は、王座を奪うために女王暗殺を企てる。 そして。夫に剣で胸を貫かれて死んだエトワールが次に目が覚めたとき、彼と出会った日に戻っていて……? ──二度目の人生、私を裏切ったあなたを絶対に愛しません。 ★小説家になろうさまでも公開中

【完結】「心に決めた人がいる」と旦那様は言った

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
「俺にはずっと心に決めた人がいる。俺が貴方を愛することはない。貴女はその人を迎え入れることさえ許してくれればそれで良いのです。」 そう言われて愛のない結婚をしたスーザン。 彼女にはかつて愛した人との思い出があった・・・ 産業革命後のイギリスをモデルにした架空の国が舞台です。貴族制度など独自の設定があります。 ---- 初めて書いた小説で初めての投稿で沢山の方に読んでいただき驚いています。 終わり方が納得できない!という方が多かったのでエピローグを追加します。 お読みいただきありがとうございます。

王子妃教育に疲れたので幼馴染の王子との婚約解消をしました

さこの
恋愛
新年のパーティーで婚約破棄?の話が出る。 王子妃教育にも疲れてきていたので、婚約の解消を望むミレイユ 頑張っていても落第令嬢と呼ばれるのにも疲れた。 ゆるい設定です

【完結】王太子殿下が幼馴染を溺愛するので、あえて応援することにしました。

かとるり
恋愛
王太子のオースティンが愛するのは婚約者のティファニーではなく、幼馴染のリアンだった。 ティファニーは何度も傷つき、一つの結論に達する。 二人が結ばれるよう、あえて応援する、と。

私の知らぬ間に

豆狸
恋愛
私は激しい勢いで学園の壁に叩きつけられた。 背中が痛い。 私は死ぬのかしら。死んだら彼に会えるのかしら。

【完結】愛したあなたは本当に愛する人と幸せになって下さい

高瀬船
恋愛
伯爵家のティアーリア・クランディアは公爵家嫡男、クライヴ・ディー・アウサンドラと婚約秒読みの段階であった。 だが、ティアーリアはある日クライヴと彼の従者二人が話している所に出くわし、聞いてしまう。 クライヴが本当に婚約したかったのはティアーリアの妹のラティリナであったと。 ショックを受けるティアーリアだったが、愛する彼の為自分は身を引く事を決意した。 【誤字脱字のご報告ありがとうございます!小っ恥ずかしい誤字のご報告ありがとうございます!個別にご返信出来ておらず申し訳ございません( •́ •̀ )】

【完結】婚約者様、王女様を優先するならお好きにどうぞ

曽根原ツタ
恋愛
オーガスタの婚約者が王女のことを優先するようになったのは――彼女の近衛騎士になってからだった。 婚約者はオーガスタとの約束を、王女の護衛を口実に何度も破った。 美しい王女に付きっきりな彼への不信感が募っていく中、とある夜会で逢瀬を交わすふたりを目撃したことで、遂に婚約解消を決意する。 そして、その夜会でたまたま王子に会った瞬間、前世の記憶を思い出し……? ――病弱な王女を優先したいなら、好きにすればいいですよ。私も好きにしますので。

処理中です...