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第二章

【閑話】ヒロイン・リーシャの物語2

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 まず見えたのは、金色の瞳。麦色をしていたリーシャの目は、濃さを増し鈍色に光る琥珀に変化していた。

 そして、自分の頬にかかる髪の色は、赤色から、色の抜けた様な淡いピンク色へと変色していた。
 驚きで目を見張るリーシャに、キャレットは伝えた。


「魔法使いは、魔力を使うと見た目に変化が現れる。髪や目の色、肌の色も変わってしまうことがあるんだけど、君もどこか変わっているところがあるだろう。」

「こ、これは治りますか…?」

「残念ながら、一度変色してしまうとそのままになってしまう。…元の色が良かったかな?」

「…お父さんとお母さんの、色で……」


 そこまで言って、リーシャは涙ぐんで言葉を切った。

 目の前で魔物に食い殺されたディルおじさんを思い出して吐き気が込み上げ、リーシャはグッと口元を押さえる。
 そして、父や母も同じように食い殺されたのだろうかと考えた時。初めて、少女の大きな瞳から涙がボロボロとこぼれ落ちた。
 泣いている弟とは一緒に泣けなかったのに、なぜ今になって涙が出てくるのだろう。


 ああ、そうか。

 そうだ。
 




 近所のいじめっ子達にジェインが虐められて、その事が発端でその子らと掴み合いの喧嘩をして、引っ掻き傷、擦り傷だらけになって。
 それでも泣くもんかと、ビービー泣いている弟の手を引いて帰ったいつかの日。



『良くない事を良くないと言えるのはとても大事な事よ、リーシャ。
 友達と喧嘩をするのも、そうね、大きな怪我はしない程度に存分にやりなさいな。

 でもね、これだけは約束して。

 これから先、もし誰かに嫌なこと言われたりされたら、誰かを叩く前にお母さんに言って。自分で仕返ししようなんて思わないで。』

『…うん…。』

『ジェインを守ろうとしてくれたのよね?』

『…うん。』

『ジェインは泣き虫だしまだ小さいから。守ってくれてありがとう、リーシャ。貴女は素敵なお姉さんよ。』


 母にそう言われて、初めて涙が零れた。



『困っている人がいたら助けてあげてね。それが誰であっても。貴女の優しさと勇気は、きっと誰かの力になるわ。』


 優しく微笑みながら泣いている少女の頭をいい子いい子、と撫でて母はそう言った。

 
 その言葉はずっとリーシャの心の片隅に残り続け、今この瞬間もジェインが泣いているのを慰めていたけれど。


 だけど。

 遊び方を教えてくれた、肩車をして草原を走り回ってくれた、馬の世話の仕方を教えてくれたお父さんは、もういない。料理を作ってくれた、編み物をしていた、頭を撫でてくれたお母さんの優しい手も、もう何処にもない。

 もう愛をくれた人たちはいないのだと。

 改めてそう思った時に、悲しさや苦しさや寂しさや、魔物に対する憎悪や怒りや色んな感情が押し寄せて、感情が心の中で荒れ狂う。
 そしてそれが少女の中から溢れ出した途端、堰を切ったようにリーシャは大きな声を上げて泣き出した。



「おねえちゃん…」

 ジェインは恐る恐るリーシャの頭に小さな手を伸ばすと、ぎこちなく慣れない手つきで姉の頭を優しく撫でた。
 それがまた悲しくて、少女はまるで幼子のようにわんわん泣いた。

 泣いて泣いて、もう涙が枯れ果てて。リーシャの瞼も目も真っ赤に腫れた頃。
 
 キャレットはリーシャに『光の魔法の使い方をマスターしないか?』と静かに告げた。


「君は人を魔物や怪我から護ることが出来る。
 君がその力をきちんと使えるようになれば、君が今感じている苦しみや悲しみを多くの人達は経験しなくてすむだろう。
 …君は友達を守るために魔物の前に立ち塞がったそうだね。そんな事は、なかなか出来ることではない。
 もしも、君の心が先の事でまだ挫けていないのであれば、どうかその力を育ててはくれないだろうか?」

「…私は」


 リーシャは涙に濡れた金色の瞳を、強い意志を持ってキャレットに向けた。


「私は、お母さんの言葉を守りたい。」


 


 



「…本当に行っちゃうの?」

「うん。」

「…いつ帰ってくる?」

「夏には一度帰るよ。すぐだよ。」

「…ほんとうに、ほんとうに、行っちゃうの?」

「ジェイン。」


 荷物をバッグに詰め込んでいる後ろで、半べそをかきながら話しかけてくる弟に、リーシャは振り返った。そして優しく笑いかける。


「大丈夫。ちゃんと帰ってくるよ。
 たくさん魔法を勉強して今度は、誰の事も傷つけさせないくらい強くなって帰ってくる。隣のおじいちゃんと一緒に待っててくれるよね?」

「うん…。でもぼく、さみしい。」

 ジェインの言葉に、リーシャの目からポロッと太陽の雫のような涙がこぼれ落ちた。それを乱暴に袖口で拭うと。


「私も。だから、ちゃんと元気に待ってて。すぐに会えるから。ジェインの事、ずっと考えてるからね。」

「うん…っ。」


 鞄を持ち立ち上がると、リーシャは玄関まで歩いてゆく。王都の学園の制服を身に纏い、歩みに迷いはない。
 扉を開けると、王都へと向かう馬車が一台、止まっていた。幼馴染のエレンも、隣のおじいちゃんも、近所のおばさん達も、そしてジェインも。皆、泣きそうな顔をしてこちらを見ている事に気がついて。

 リーシャは目いっぱいに微笑んだ。


「行ってきます。」









━━━━━━━━━━★━━━━━━━━━━

こちらの内容にて、本編とおまけも終了です。読んで頂きありがとうございました!
 リーシャの物語は、別のお話で描こうと思っておりますのでまた、いつか。

新連載『好きだと言ってくれたのに』を始めます!
もしお時間良ければ、そちらも読んでやってください((。´・ω・)。´_ _))ペコリ

お付き合い頂きましてありがうございました( *´꒳`*)







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