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第二章

貴方様も、何をしに?

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痛い。ものすごく痛い。
 引っ張ったほっぺたの痛さに、思わずアリアの目に涙がじわりと浮かんだ。
 でもまだ目の前の光景が現実だとは思えない。
 頬を押えながら見つめるその視線の先、美の化身である男性が二人いて、何やら小さな声で言い争いをしている。


「マテオ、一体何しに来たんだ?」

「…君こそなんでここにいるの?リュシー?」

「私は隣国に帰るついでに休暇をとったんだ。
 自然豊かで過ごしやすいと評判のリエール領地の束の間の休みだ。いいだろう?
 我が国への近道でその上アリア嬢にも会える。」

「…君は一時的な好奇心からアリア嬢に絡んでいるんでしょう?」

「何を言うんだ。見て分かるだろう?私は至って冷静に行動している。
 昨日の内に私の心は既にアリア嬢に伝えてある。」

「は?!何してるの?君は馬鹿なの?冷静な王族は女性にそんな事を言わない。断ることが出来ないって何故分からないの?」

「はあ?!そ、それは、既にカトレアに注意されて…と、いうか。だから、君こそ何故ここにいるんだ?」

「僕だってアリア嬢に逢いに来たんだ!」

「なんだって?!何のために?!」




(本当にそれです…!
 なぜ…?何故なの…?どんな状況なの?何故このがここに居るのですか…?!)




 アリアの目の前でリュシアンと向き合い、何故か絶対零度の氷の微笑を浮かべたマテオ。その微笑に対して、月の冷たい光のように不敵に微笑んでいるリュシアン。似た美貌の二人がお互いに牽制しあっている姿は、それでも気品があり美しい。

 三人がいるのはアリアの屋敷の中、リュシアンが滞在している別館の主の間の真隣にある客室の窓際、サンルームと呼ばれる日当たりの良い場所だ。
 お茶を飲みつつ、他わいもない話をしている、ように周りのメイド達には見えているに違いない。
 もしくは、屋敷のが、二人のと談笑している姿を見て、驚きと感心と喜びと、なんだかそんなワクワクする気持ちをアリアは、少し離れて背後に立つナージャや侍女達の気配から感じていた。


(違うのよ、ナージャ、皆…。)

 
 キラキラした瞳で見つめているであろう乳母に心の中で謝りながら、アリアは引きつった笑みを浮かべていた。


 そんなアリアを見て、マテオは一瞬キョトンとした後、ふわりと花のように微笑んだ。それはそれは嬉しそうに。


(うっ…眩しいっ…!、目が、目がーーー!!!)


 そんな顔をしていると、また勘違いされますよ!とアリアは心の中で叫ぶ。
 彼女の黒歴史…少女がストーカーをしていた相手で、アリアの初恋の相手でもあるマテオだが、何故彼がここに居るのか。

 それは前回同様、父より送られてきた手紙に書いてあった。


『アリア、レブリオ王子とアレンダラス公爵令息が、リーエル領のをする為に其方を訪問する。王子は国境の我が領軍の確認をされた後日帰りをされるそうだが、アレンダラス様はそのまま残り、親族であるアレキサンドラト殿下とその屋敷で過ごされたいそうだ。皆揃って丁寧におもてなしをするように。

追伸。
…何度も言うが、父はやれるだけのことはやりました。後はよろしく。』




(お父様ぁぁぁあああ…っ!!!)



 クッとアリアは唇を噛み締める。文句を言おうにも本人は遠い王都にいて叶わないので、この感情は自分の中で消化するしかない。


(せめて誰が来るのか先に教えておいて頂ければ…)


 マテオ到着の一時間前に届いた手紙など何の意味もない。
 父がギリギリまでアリアに訪問者の名前を告げなかったのは恐らく、教えると彼女が逃げ出すことを危惧しての行動だろうとアリアは考えていた。
 無論、その通りで公爵令息が来ると分かっていればアリアは脱兎のごとく逃げ出そうとしていただろう。

 …屋敷に王太子殿下が滞在している以上、それは物理的には不可能なことなのだが。結局どう転んでも、マテオがやって来たのならばアリアが対応しなくてはならなかったのだが。


(王子が彼に着いて来なくて良かったです…。
 これ以上男性主人公達に周りをウロウロされるのは勘弁願います…。)

 
 顔に感情を乗せないように、無表情のまま考え込んでいる最中にふと、前方からの視線に気がついてアリアが顔を上げた。
 すると、さっきまで言い争いをしていたはずのマテオとリュシアンが、二人してこちらを微笑ましそうに見つめていることに気がついた。少女はその視線を受けてピキっと固まる。
 

(な、なぜそんな目で見てくるんですか…?!)
 

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