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第二章

物語の退出後、IN領地!(第二章〜始まり〜)

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「今日も良いお天気ですねぇ~…。」


 開け放たれた窓から零れ落ちる朝の陽の光を浴びながら、アリア・リーエル伯爵令嬢はぽや~っとした明らかに気の抜けた表情で窓枠にネグリジェのまま腰掛けていた。
 表情も行動も淑女らしからぬものではあるが、ここでは文句を言われることもほとんど無い。


「うーん、昨夜もよく眠れて気分爽快です。」


 ぐんっと伸びをしながら、アリアは憂いの全くない満足気な笑みをその可愛らしい顔に浮かべた。そして再びよく晴れた青空を見上げる。

「よし。」


 そう呟くと、少女は窓辺から元気よく立ち上がり、着替えの為にクローゼットへと近づいた。
 扉を開けると、王都では滅多に着ることのなかった足首までの丈の淡い色合いのドレスが数着掛かっている。どれも今では都では流行っていない形のものばかりだったが、アリアは懐かしそうに微笑み、そのドレスに触れる。

 柔らかなサテンと通気性の良い綿の生地で作られたそれらは、細かなレース襟元や裾に施され、ウエストに通されたリボンにはさり気なく花柄の刺繍されてる。体を締め付けない、柔らかなラインのそれはとても品が良く、地味な形ではあったけれどアリアはとても気に入っていた。

 母の遺したドレス達でもあったから。
 少女は微笑んだまま小さく呟いた。


「…お母様。お母様のドレスが着られる背丈になったんですよ。わたし、大きくなったでしょう?」







 アリアが隣国と海に面したリーエル家の領地に滞在し始めて丸四ヶ月が経つ。

 活気のある街と広大な平野、そして栄えた漁港を持つ、けれど王都に比べれば田舎のこの場所ではのんびりゆっくりと時間が過ぎてゆく。天気も晴れの日が多く、人々の気性もそれに準ずるように穏やかだ。土地柄的に酪農と農業が盛んである。
 つまり、とーっても過ごしやすい。


「はあーーー、ここに無事に帰ってこられて本当に良かったです…。」






 遡ること、三ヶ月前。

 父親に正直に夜会であった事を伝え、アリアは大急ぎで領地へと引っ越した。

 公爵家の夜会に行った娘が、その主催の公爵家の令息、その幼なじみの侯爵令嬢、そして隣国の王太子にまで目をつけられてしまったと聞いて、父は半信半疑の顔をしていた。
 大人しい性格のアリアが問題を起こすはずがないと思っていたし、引っ込み思案で怖がりな上に、多少思い込みの激しい所のある少女だから、何かの間違いだろうと考えたからだ。


 ところが夜会の翌日にアレンダラス公爵家、そしてそのまた翌日に隣国の王家の紋章の入った書簡が届いた。リーエル伯爵は娘の言ったことを信じていなかったわけではなかったが、まさか書簡が届く程とは思っていなかったようで、真っ青な顔をしてアリアの部屋へと押しかけた。


『…ど、どうしてこんな事になってしまったんだ?お前は一体何をしてしまったんだい?』


 狼狽えて震えながらそれぞれの書簡を指さす父に、


『全て私が悪いのです!お父様にご迷惑はおかけ致しません!なので領地に引っ込ませてください!』

『ええーっ?!』


 アリアはスパッと言い切った。その普段では見られない娘の堂々とした姿に父は面食らった。

 …問題起こしたのになぜそんなキリッとした顔をしてるんだろうか、このは。




 その時のアリアの心の中にはもう出番は終わったという達成感と、何としても現状から逃げ出したいという情熱(?)だけがあった事は、言わずもがな察せられるだろう。



 驚く父をどうにかこうにか説き伏せて、アリアは一週間後には領地へと向かう馬車の中に居た。
 どうしてそんなに事が早く進んだのかと言うと、書簡の中身のせいだった。

 書簡の内容は、公爵家と王族それぞれにアリアに会いに屋敷を訪問したいというもので、父は二度驚愕した。
 娘の言い方ではてっきり、高位貴族と王族(しかも隣国)に迷惑をかけた事に対する謝罪か何かでそれぞれの屋敷ないし滞在先に呼ばれるはずだ、何か罰が下るのではないかと戦々恐々していた父は、そこで気がついた。


 娘はのではなく、のではないかということに。


 今はもう亡き妻、生きる宝石と讃えられた彼女の容姿を受け継いだ娘は、髪色は違えど美しい紫水晶の瞳はそのまま受け継ぎ、顔立ちも妻に良く似て非常に整っている。
 本人は何故だか子どもの頃よりかなり自己評価が低いところがあるが、贔屓目で見なくともアリアは十分に美しかった。


 父は考えた。
 今まで婚約者のいなかった怖がりの娘に、やっと春が訪れたのだと。けれど、その娘はと。何かは分からないけどと。


 そして父と娘は紛れもない親子であった。


『…取り敢えず、どれくらいの期間ここを離れたいのだね?』

『ほとぼりが冷めるま……、いえ、一生の覚悟も出来ております!何なら今からどなたかの後妻に入る事も吝かではありません…!』

『何だか、妙な方向に振り切っている気もするが…?その、本当にそれでいいのかね?』

『はい!これ以上公爵令息様にご迷惑をおかけする事は出来ませんので…!
 あ、あと…マットン侯爵家からは特に何もございませんでしたでしょうか…?』

『うん、皇太子殿下とアレンダラス公爵家だけだねえ。』

『…!本当ですかっ!良かった…!』


 
 嬉しそうな娘を見て、父はますます訳が分からなくなる。
 何が良かったのだろうか…?
 あと隣国の王太子の事は?と思いながらも、父は可愛い娘がそこまで言うなら…と早急に考える事を放棄した。
 そして両家に対しては、娘は体調不良の為に領地で療養することになった旨を早馬で送らせ、その当日にアリアは荷物をまとめて領地へと向かえたのだ。


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