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アストリス国の男性達【完】
しおりを挟む『アストリス国では男は使い物にならない。』
他国からの評価は、そんな所だろうか。
「舐め腐ってる。」
目の前に広げられた書類の内容を確認しながら、エリオットはぼそりと呟いた。
侯爵令息である彼は、聖女クリステルの婚約者であり、既に彼女のサポートする役割を担っている訳だが。
「聖女を貸し出せ、もしくは寄越せ。言う事聞かないなら戦争を仕掛けるぞ、か。馬鹿なのか、この国は。」
形の良い眉を寄せ、不機嫌な顔をしたエリオットはため息をついた。女王陛下に謁見の申し込みをし解決策を測るまでもなく、これは裏で処理を済ませよう、と執事のアンデワールを呼ぶ。
「ミジール国に遣いをやり、このアホな言い分を訂正させてきてくれ。序にもう二度と歯向かえない様に牙を何本か抜いてくるように。」
「承知致しました。」
アンデワールは恭しく一礼をとると、音もなく執務室から退出してゆく。エリオットは書類を纏めると、証拠として再度机の引き出しへと入れた。そして美しい唇の端を上げ、ニヤリと笑う。
「さて。アストリスの男の存在も思い出してもらえる良い機会になるかな。」
我が国、アストリス国は抜きん出て女性の魔力が高いことで他国に知られている。彼女達の使う攻撃魔法は、一人いれば百人分の兵士の力に相当する。その上大地を健やかに保つ者や水を浄化する者、傷を癒す者など、他国から見ればアストリス国は宝石箱のようなものだった。その為、大昔よりその魔力を狙いまだ幼い少女の誘拐や、女性を攫おうとする他国の企みが何度も起こっていた。
しかし、彼らは知らなかった。女性ほどではなくとも、アストリス国の男性達も魔力を持っていて、魔法を自分達よりも遥かに高度に操る事ができる事を。
そういった他国の卑劣な陰謀を一つ一つ確実に潰して来たのが男達だった。
この国は女王によって治められている。現存している古書に記されてた最古の内容によると、古代に大きな戦があり、その際に国を建て直したのは男の王であった。
その後、彼は三人の子どもを設けたが、一番下の娘に全てを継いだ。理由は単純に、三人の子供たちの中で魔力が一番高くその地位に相応しかったからだ。
けれど、女王を含め聖女や女性達は、大翼竜と心が繋がっている為か、好奇心が強く色々なことに興味を持ち、些細な事に喜び、時に悲しみに憂う事があったとしても、邪念を持つことが少ない。彼女達の心は素直であり清らかで、人を疑う事を知らない。攻撃魔法は使えるが、彼女達の役目は国を護るだけに特化しているのだ。
心に正直でなければ山岳の魔鉱石が鳴ってしまうし、嘘をつくことも出来ない彼女達。
そんな姿を見ると、むくむくと保護欲が湧き上がってくる。無垢な彼女達を護る為に、この国の男達がいるのだ。
もし彼が、この事をクリステルに話していたら「それは呪いね」と憂いを帯びた笑顔で言われた事だろうが、そんな強い女性を護りたいと思う自身の気持ちに疑問を持ち、国を出てゆく者がいるのも事実で。
「王女と王子、そして猫の形をした大翼竜か…。」
エリオットは窓際に立ち、外を眺めながら独り言を呟く。カフェに潜らせているフランコリン公爵家の諜報員が聞いた聖女とその友人の少女達の会話だ。
仕事として盗み聞きしていた少女は、涙を零しながらアンデワールに内容を伝えたらしい。国民として、話の内容に思うところがあったのだろう。
彼女達が嘘をついていないのであれば(その時、魔鉱石は鳴らなかったそうだ)、その繰り返し見る夢や幻は、本当に少女達が見ていたものなのだろう。
エリオットは神話を全面的に信じているわけではなかったが、クリステルの言う事なら信じられる。
聖女という事を抜きにしても、エリオットは幼馴染の少女の事が好きだった。初めて会った日に、不安そうに揺れる彼女の青い瞳を見て、自分が守らねばと思った時から、本人には伝えていないがずっと恋をしている。クールな見た目をしている事を自負しているエリオットは、彼なりに少女にその気持ちを表してきたが、クリステルはまだ気がついておらず彼に対してまだ恋情などは持っていない。
けれど、学園から追放された魅了使いの少女のおかげで、きちんと婚約者だと思って貰えていることが分かったのは、嬉しい発見だった。
彼女自身は気が付いていないようだが、博愛主義であり何かに執着するということがほとんど無い。けれど、彼女の友人や家族、そしてエリオットには僅かでも特別に思う気持ちを持っていてくれている事が愛おしいと思った。
「…出来ることをやるだけだ。彼女が望むように、生きていけるように。」
エリオットは美しい笑みを浮かべると、執務の続きを摂るために机へと向かい直した。
━━━━━━━━━━★
貴重なお時間を使って頂き、こちらまで読んでくださってありがとうございます!!
初めての、ファンタジー!(かな?)
色々と稚拙で読みづらい所、脱字、間違えなどもあったかと思いますが、描き切ることが出来て、良かったです…ε-(´∀`;)ホッ
また、別のお話もよろしくお願い致します(𖦹˙꒳˙)𖦹_ _)ペコリ
ありがとうございました!
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