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子供の頃に見えていたもの3
しおりを挟む神秘的な景色にノエリアは、口をぽかんと開けたまま窓の外を見つめていた。その光景は傍から見ていた侍女にとっては、何もない宙をじっと見つめているお嬢様は少々不気味であっただろうが。
チチチ、と鳥のさえずりがすぐ側で聞こえ、ノエリアはパッと後ろを振り返った。すると、白い生き物の頭の上、三角の耳と耳の間に美しい虹色の尾を持つ珍しい鳥が止まっているではないか。
ノエリアは驚き、そして同時に不安になった。少し前に読んだ本では、確か小鳥は猫の捕食対象だったはずだけど。
じっと見つめていると、金色の瞳がつ、とこちらを見返した。そして。
「なんだ。そなたもこの生き物が珍しいのか?」
(…鳥もだけど、あなたも珍しい…)
ノエリアは頭の中で思ったことを呟いた。すると、白い猫のような生き物は、瞳を大きく見開いた。
「珍しいとはなんだ。大翼竜はこの国の護り神。知らぬそなたのほうが珍しいぞ。」
「え?」
『お嬢様?如何されましたか?』
急に室内を振り返り、驚いたような顔で暖炉前の床を見つめるノエリアに、侍女が慌てたように声をかけてくる。
「な、なんでもないの。」
他の人には見えていないんだから、気をつけなきゃと思いながらも、ノエリアは白いモコモコから目が離せなかった。
(だいよくりゅう?だいよくりゅうって、絵本に出てくるあの?でも、こんなに小さくなかったし、何より形が全然…)
「小さいとは何だ!お前達を護るために力を使っているのだぞ!燃費の良い身体の方が良いからこの形なのだ!」
「言葉が…通じている…。」
『お、お嬢様…?』
「ううん、なんでもない!あの!わたし、温かいおちゃが飲みたい!いれてもらえる?」
『か、かしこまりました…。』
侍女の困惑した魔力を感じたノエリアは、彼女に部屋から出ていってもらう事にした。きっとまたお父様に伝わって心配され、お母様にはそういうものだ、と言われるんだろうな、と思いながら。
パタン、とドアが閉まったのを見計らって、「その…あなたは本当にりゅうなの?」と少女は恐る恐る聞いてみる。
しかし、いつまで経っても返事は無い。大翼竜だと名乗った猫に似た生き物は、苔の上に寝っ転がって自分の背中の位置に移動した小鳥を、横目で見ていた。
ノエリアは小首を傾げた。
「おかしいな、さっきは通じたのに…。」
(だいよくりゅうって、嘘だったのかな。)
「嘘ではない!失礼な!」
しっぽをビターンッビターンッと地面に打ち付けながら、猫は直ぐにこちらを睨みつけた。
ノエリアはそこで気がついた。頭の中で思ったことだけが伝わるのだと。
(これは魔法なの?だから他の人は見えないのかな?)
「魔法かと言われれば魔法だ。単純にそなたと我の魔力の波長があっただけのこと。蜃気楼のようなものだ。昔から良くある。」
(…昔からよくある?)
「元々そなた達の力は我と繋がっている。我はいつでもそなた達を視ているが、稀に我のことを見ることの出来る者もいるのだ。そなたのように。」
ふん、と鼻を鳴らすと偉そうに顔を上に向けてこちらを細めた金の目で見やる。その行動すらもどこからどう見ても猫なのだが、大翼竜らしく尊大な言葉遣いだった。
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