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湖で
しおりを挟む初めて会ったその日から、銀髪のその人は、湖にいるとき限定ではあったけれど何故か時折、陽日の前に現れるようになった。
名前は佐藤さんというらしい(この国の名前で意外だった)。陽日はフルネームで名乗ったのに、彼は下の名前は教えてくれなかったので知らないままだ。
「今日も本を読んでいるのか?」
話しかけれた陽日は、佐藤を見上げて頬を伝う汗をハンカチで拭いながら、小さく頷いた。
夏が始まり、ジリジリと照りつける太陽を避けるように木陰でレジャーシートを広げて腰掛けていた陽日を、今日もどこから現れたのか、涼しい顔をした佐藤が見下ろした。
白の長袖シャツに黒のスキニーパンツ姿の彼は、長い銀髪を後ろで一つくくりにしているが、暑くはないのだろうか。汗一つかいていない。
「図書館の方が涼しいだろうに、わざわざここで本を読むんだな。」
「いまは夏休みで、ひとがおおいんです。」
首を傾げて問いかける少年に、少女はそう伝えた。
確かに、学校や公民館の図書館であれば、空調が効いているので快適に読書に勤しむことが出来るだろう。
ここ最近の放課後や休みの日は陽日もそうしていたが、夏休みに入ると高学年や中高生の生徒の利用率が上がり、低学年用のスペースにまで押し寄せてきた。
元々引っ込み思案な気のある陽日は、そこに混じっていつも通り読書をする勇気はなく、かと言って家にいれば、まだ幼い妹が寝ている横で本を落としたりして怯えさせてしまってはと気が気ではない。
なので、この場所に逃げてきたのだ。
夏休みに入っても何時もの通り、人もおらず、木陰であれば、空気は湖が近くにある為か街中よりも澱んでいなかったし、風が吹けば涼しい。桟橋は日が照りつけているので、誰にも邪魔されないようにと入口よりだいぶ奥に進んだ、湖の端の木陰の下に居たのだが。
まさかこんな暑い日に彼が出歩いてるとは思わなかったので、陽日は顔には出ていないもののびっくりしていた。
「ふーん、そういう本が好きなんだな。」
「い、いけませんか?」
佐藤は少女の手元を覗き込む。
陽日が好んで読むのは、ミステリー小説だ。まだ7歳の少女にとって習っていない言葉がかなり多かったけれど、今までも毎回本を読みながら、意味を電子辞書で調べていたら、だいたいの意味と読み方が分かるようになった。今では辞書なしでもスラスラと読み進められる。
趣味を確認されたようで恥ずかしくなった陽日は、そっと本を閉じるとつっけんどんに聞き返した。
「…こんな暑い日に、佐藤さんも何をしてるんですか?」
「いつもの息抜き。休憩は必要だろう?」
そう言って、少年はころんと寝っ転がった。
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