上 下
5 / 25

お手並み拝見(2)

しおりを挟む
姫様が持ってきた杖を構えて、ぶつぶつと呪文を唱える。
するとゴブリンたちはようやくこちらに気が付いた。

けたけたと奇妙な声を上げながら、向かってくる。どうやら好戦的な性格らしい。


姫様の杖が、「ジジジ……」と電気を帯びるように光った。

おっ、いけるか。

バチンッ!

「ギギッ!」


杖から放たれた稲妻は、一匹のゴブリンにクリティカルヒット。
虫のような声を上げて、そいつは倒れた。

隣にいたゴブリンは、何があったのかと驚いて仲間の方を見る。


アマシア姫はその隙を逃さず、二発目の稲妻を放った。

バチンッ!

「ギギッ!」

一体目と全く同じものを見ているかのように、稲妻は命中。

ヒットしたゴブリンはその場に倒れ、ぶるぶると震えた後、動かなくなった。


「やりました!!」

杖を持ったアマシア姫はぴょんぴょん飛んで、こちらに弾ける笑みを見せる。

まるで初めて魔物を倒したような喜びようだ。


「王城にいた頃は毎日練習していたのですが、やっぱり実戦となると緊張しますね!」

おい、本当に初めてだったのかよ。

でもゴブリン相手とはいえ上々の戦いっぷりだ。

「やりましたね」

俺は姫様に深く頷く。

「よかったです」

姫様は頬を上気させてはにかんだ。


すると彼女の後ろで、何か大きく揺れ動くものが視界に入った。

『えっ』

俺の視線を追うように、姫が振り返る。


ドッ、ドッ。

一歩ごとに、地面が揺れた。

「マ、マテカゴブリン……ゴブリンの上位種です……」

脇に立っている二階建ての建物――剣と斧のマークが書かれていたから、武器屋か何かだろうか、それと同程度の高さだ。

どうやら、建物と建物の間で横になっていたらしい。

最初から直立でいたのなら、たぶん真っ先に気付いただろう。

野卑な顔などは他のゴブリンと同じだが、皮膚の色がひときわ目立つオレンジ色だったから。


アマシア姫は、自分の何倍もの体躯を誇る相手に杖を向ける。

その手は震えていた。

さすがにこれは勝負を見るまでもなく分かる。

実戦初日にこの相手はないよな。


俺はアマシア姫よりも前に出る。

「ユウト様……」

「安全なところにいてください」

「でも」

俺は無償のスマイルをつくり、お得意の言葉を口にする。

「大丈夫です。さぁ」

アマシア姫は青白い顔でがくがく頷き、俺の後ろに走っていった。


グォー――――――!!!

マテカゴブリンが、空に向かって吠えた。

ビシビシと、やばそうな空気が伝わってくる。

「分かってるよ、そんな声出さなくても」

ゾクゾクした。

これが武者震いってやつ? 

頬も自然に緩む。自分でつくろうとした笑顔ではなく。

「お手並み拝見といきますか」

これはマテカゴブリンに対してもあるが、自分に対してでもある。

真っ白い空間で一通りのチュートリアルはさせてもらったけど、実際のところどの程度の力なのか。

姫に心の中でツッコんだけど、そういえば俺も初実戦だったな。

気を引き締めて、臨むことにしよう。


俺は神竜に姿を変え、巨大なゴブリンに向かって飛びかかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

転生貴族のハーレムチート生活 【400万ポイント突破】

ゼクト
ファンタジー
ファンタジー大賞に応募中です。 ぜひ投票お願いします ある日、神崎優斗は川でおぼれているおばあちゃんを助けようとして川の中にある岩にあたりおばあちゃんは助けられたが死んでしまったそれをたまたま地球を見ていた創造神が転生をさせてくれることになりいろいろな神の加護をもらい今貴族の子として転生するのであった 【不定期になると思います まだはじめたばかりなのでアドバイスなどどんどんコメントしてください。ノベルバ、小説家になろう、カクヨムにも同じ作品を投稿しているので、気が向いたら、そちらもお願いします。 累計400万ポイント突破しました。 応援ありがとうございます。】 ツイッター始めました→ゼクト  @VEUu26CiB0OpjtL

崖っぷち貴族家の第三子息は、願わくば不労所得でウハウハしたい! 訳あり奴隷もチート回復魔法で治せば最高の働き手です

チドリ正明@不労所得発売中!!
ファンタジー
旧題:奴隷をチート回復魔法で治して働かせれば不労所得でウハウハじゃない?(願望) クソ貧乏な没落貴族、ダーヴィッツ家に生まれた第三子息フローラル・ダーヴィッツ。 ある日、父親が年老いて亡くなると同時に二人の兄が子爵家の婿養子になったことで、フローラルは成り行きでダーヴィッツ家の跡取りになってしまった。 どうしようかと考えていると、彼はあることを思いついた。 「欠損奴隷買い漁って治して仕事させればウハウハじゃね?」と。 フローラルは僅かな資金を手に、手始めに失明した奴隷、四肢を失った奴隷などを買うと、不労所得でウハウハするために彼女らに仕事を与えて稼がせることにした。 気がつけば奴隷たちは異様な忠誠心を持ち始め、奴隷国家として地位を高めることになり、気がつけば他の領主から目をつけられ、気がつけば奴隷たちが懐きまくっていて……。

妹と歩く、異世界探訪記

東郷 珠
ファンタジー
ひょんなことから異世界を訪れた兄妹。 そんな兄妹を、数々の難題が襲う。 旅の中で増えていく仲間達。 戦い続ける兄妹は、世界を、仲間を守る事が出来るのか。 天才だけど何処か抜けてる、兄が大好きな妹ペスカ。 「お兄ちゃんを傷つけるやつは、私が絶対許さない!」 妹が大好きで、超過保護な兄冬也。 「兄ちゃんに任せろ。お前は絶対に俺が守るからな!」 どんなトラブルも、兄妹の力で乗り越えていく! 兄妹の愛溢れる冒険記がはじまる。

神の宝物庫〜すごいスキルで楽しい人生を〜

月風レイ
ファンタジー
 グロービル伯爵家に転生したカインは、転生後憧れの魔法を使おうとするも、魔法を発動することができなかった。そして、自分が魔法が使えないのであれば、剣を磨こうとしたところ、驚くべきことを告げられる。  それは、この世界では誰でも6歳にならないと、魔法が使えないということだ。この世界には神から与えられる、恩恵いわばギフトというものがかって、それをもらうことで初めて魔法やスキルを行使できるようになる。  と、カインは自分が無能なのだと思ってたところから、6歳で行う洗礼の儀でその運命が変わった。  洗礼の儀にて、この世界の邪神を除く、12神たちと出会い、12神全員の祝福をもらい、さらには恩恵として神をも凌ぐ、とてつもない能力を入手した。  カインはそのとてつもない能力をもって、周りの人々に支えられながらも、異世界ファンタジーという夢溢れる、憧れの世界を自由気ままに創意工夫しながら、楽しく過ごしていく。

天才女薬学者 聖徳晴子の異世界転生

西洋司
ファンタジー
妙齢の薬学者 聖徳晴子(せいとく・はるこ)は、絶世の美貌の持ち主だ。 彼女は思考の並列化作業を得意とする、いわゆる天才。 精力的にフィールドワークをこなし、ついにエリクサーの開発間際というところで、放火で殺されてしまった。 晴子は、権力者達から、その地位を脅かす存在、「敵」と見做されてしまったのだ。 死後、晴子は天界で女神様からこう提案された。 「あなたは生前7人分の活躍をしましたので、異世界行きのチケットが7枚もあるんですよ。もしよろしければ、一度に使い切ってみては如何ですか?」 晴子はその提案を受け容れ、異世界へと旅立った。

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

転移した場所が【ふしぎな果実】で溢れていた件

月風レイ
ファンタジー
 普通の高校2年生の竹中春人は突如、異世界転移を果たした。    そして、異世界転移をした先は、入ることが禁断とされている場所、神の園というところだった。  そんな慣習も知りもしない、春人は神の園を生活圏として、必死に生きていく。  そこでしか成らない『ふしぎな果実』を空腹のあまり口にしてしまう。  そして、それは世界では幻と言われている祝福の果実であった。  食料がない春人はそんなことは知らず、ふしぎな果実を米のように常食として喰らう。  不思議な果実の恩恵によって、規格外に強くなっていくハルトの、異世界冒険大ファンタジー。  大修正中!今週中に修正終え更新していきます!

神速の成長チート! ~無能だと追い出されましたが、逆転レベルアップで最強異世界ライフ始めました~

雪華慧太
ファンタジー
高校生の裕樹はある日、意地の悪いクラスメートたちと異世界に勇者として召喚された。勇者に相応しい力を与えられたクラスメートとは違い、裕樹が持っていたのは自分のレベルを一つ下げるという使えないにも程があるスキル。皆に嘲笑われ、さらには国王の命令で命を狙われる。絶体絶命の状況の中、唯一のスキルを使った裕樹はなんとレベル1からレベル0に。絶望する裕樹だったが、実はそれがあり得ない程の神速成長チートの始まりだった! その力を使って裕樹は様々な職業を極め、異世界最強に上り詰めると共に、極めた生産職で快適な異世界ライフを目指していく。

処理中です...