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番外編SS
【続】大富豪はかまってほしい 1
しおりを挟む※ダイヤがいつもに増して残念です。ご注意ください。
日も暮れたダイヤの私室、零はとても困惑した様子で広いベッドに座っていた。
「あの……」
「どうしたんだい零」
「……これ、ホントに必要ですか?」
「必要かどうかをこれから検討するんだよ」
「そうですか」
にこにこと上機嫌なダイヤからそう言われれば、零に拒否権は無い。
零は今、頭に茶色のふわふわした三角の耳、いわゆる猫耳を付けていた。これに意味があるのだろうかと少しだけ遠い目をしながら……
* * *
約束の日となり、預かっていた子猫は夕方頃に飼い主の元へと帰っていった。
子猫を見送り、日常が戻って少し寂しさを覚えながら零は自室に向かっていた。
「零」
可愛らしかった子猫に思いを馳せていた最中に名を呼ばれ、零は振り返る。
「はいダイヤさ……──」
しかし、振り返ったその先の光景に零は固まった。
そこに居たのはダイヤだ。いつものように優しげな笑みを浮かべて零を見ている。
ただいつもと違うのは頭に三角の猫耳を付けている点だ。
これは、笑うべきなのか?
脳内で情報の処理が追いつかない零は大いに困惑する。
なぜそんな物を着けているのか、どう反応するのが正解なのか、そしてなぜダイヤは自信満々な顔なのか。
ダイヤの頭へ視線が釘付けになって固まった零に、ダイヤが一歩踏み出して言う。
「どうだろうか?」
「ど、え? どう……え……?」
真剣な眼差しで尋ねるダイヤ。
しかし零は何を求められているのか分からず助けを求めるようにまわりを見渡せば、顔を片手で覆ってため息をつくジンラミーが居た。少しやつれている。
あぁ、これは自分で何とかしなければならないのだな、と悟った零は再びダイヤに向き合った。
「えっと……お似合いですね」
「そうかい? ありがとう」
ダイヤからにこにこと返事をされ零は安堵した。しかし、猫耳をつけたまま笑顔のダイヤは、更になにかを期待するするように零を見続ける。
「……えーっと」
これ以上に何を期待されているのだろう。
戸惑いながらも零は考えた。ダイヤの奇行には何か理由があるはずだと。
考えて考えて、そして一つの答えを導き出したのだ。
「ダイヤ様……子猫が帰ってしまって寂しいのですね?」
「え?」
そうだ、きっとダイヤは寂しいのだ。
「本当はダイヤ様も子猫と触れ合いたかったのですよね」
あんなに可愛らしかった子猫が居なくなったのだから、寂しいのはダイヤも同じなのだろう。
しかし──
「──なのに僕とハート様ばかりで独占してしまって申し訳ありませんでした」
そうなのだ。自分達ばかり子猫をかまってしまって、ダイヤは子猫と触れ合う間も無かった。しかし優しいダイヤは自分やハートに遠慮して言い出せなかったのだろう。
「気づかなくてすみませんでした。だからもし、ダイヤ様さえ宜しければ僕が世話をしますのでシダーム家でも猫を飼うと言うのは……」
「待ってくれ零っ!」
零の提案に妙に慌てるダイヤ。
それもそうだろう、ダイヤは子猫に零との時間を散々邪魔され疲弊していたのだ。
いっそ猫になりたい。猫になれば自分も零に可愛がってもらえるかもしれない。
零不足がたたって本気でそんな事を考え、止めるジンラミーも押し切って零の前に現れてしまった猫耳ダイヤ。
しかし、話があらぬ方へと進みかけてダイヤは大いに慌てたのだ。
「ち、違うんだ零!」
もうここは素直に理由を話すしかないかと思われた。
しかし、
「本当は私は……──猫アレルギーなんだ」
ポロリと出てきたのはでまかせ。
ダイヤのプライドが邪魔をしたのか、もしくは零に呆れられるのが怖かったのか……
「そうきましたか」
そんなダイヤに、ジンラミーが呆れたように呟いた。
「そうだったんですか!? じゃあ、一緒に寝た日は辛かったんじゃ……」
「いや、あの、そこまで酷いアレルギーではなくてね。たまにくしゃみが出る程度さ」
知らなかった情報に驚き、申し訳無さそうにする零。ダイヤは視線を泳がせて不自然に乾いた笑いを上げた。
「でも、猫と触れ合えないのは残念ですね。たまにダイヤ様が子猫と遊んでいる僕達を見ていたのは知ってました。でも子猫に触ろうとしないから何でかなって思ってたんです。そんな悲しい理由があったなんて……」
「まぁ、そうだな……」
悲しそうにする零に良心が痛み視線を泳がせていたダイヤ。
しかし、そんなダイヤがふと考える素振りを見せ、口に手をあてたまま零へと視線を戻す。
「……じゃあ」
「はい」
どうしたのかと見つめる零。やや嫌な予感を覚えるジンラミー。
「じゃあ、零が猫になれば良いんじゃないか!」
「……はい?」
ジンラミーが諦めたように遠い目をした。
そして、冒頭に戻る。
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