買った天使に手が出せない

キトー

文字の大きさ
上 下
24 / 31
番外編SS

【続】大富豪はかまってほしい 1

しおりを挟む
 
 ※ダイヤがいつもに増して残念です。ご注意ください。



 日も暮れたダイヤの私室、零はとても困惑した様子で広いベッドに座っていた。

「あの……」

「どうしたんだい零」

「……これ、ホントに必要ですか?」

「必要かどうかをこれから検討するんだよ」

「そうですか」

 にこにこと上機嫌なダイヤからそう言われれば、零に拒否権は無い。
 零は今、頭に茶色のふわふわした三角の耳、いわゆる猫耳を付けていた。これに意味があるのだろうかと少しだけ遠い目をしながら……


 * * *


 約束の日となり、預かっていた子猫は夕方頃に飼い主の元へと帰っていった。
 子猫を見送り、日常が戻って少し寂しさを覚えながら零は自室に向かっていた。

「零」

 可愛らしかった子猫に思いを馳せていた最中に名を呼ばれ、零は振り返る。

「はいダイヤさ……──」

 しかし、振り返ったその先の光景に零は固まった。
 そこに居たのはダイヤだ。いつものように優しげな笑みを浮かべて零を見ている。
 ただいつもと違うのは頭に三角の猫耳を付けている点だ。
 これは、笑うべきなのか?
 脳内で情報の処理が追いつかない零は大いに困惑する。
 なぜそんな物を着けているのか、どう反応するのが正解なのか、そしてなぜダイヤは自信満々な顔なのか。
 ダイヤの頭へ視線が釘付けになって固まった零に、ダイヤが一歩踏み出して言う。

「どうだろうか?」

「ど、え? どう……え……?」

 真剣な眼差しで尋ねるダイヤ。
 しかし零は何を求められているのか分からず助けを求めるようにまわりを見渡せば、顔を片手で覆ってため息をつくジンラミーが居た。少しやつれている。
 あぁ、これは自分で何とかしなければならないのだな、と悟った零は再びダイヤに向き合った。

「えっと……お似合いですね」

「そうかい? ありがとう」

 ダイヤからにこにこと返事をされ零は安堵した。しかし、猫耳をつけたまま笑顔のダイヤは、更になにかを期待するするように零を見続ける。

「……えーっと」

 これ以上に何を期待されているのだろう。
 戸惑いながらも零は考えた。ダイヤの奇行には何か理由があるはずだと。
 考えて考えて、そして一つの答えを導き出したのだ。

「ダイヤ様……子猫が帰ってしまって寂しいのですね?」

「え?」

 そうだ、きっとダイヤは寂しいのだ。

「本当はダイヤ様も子猫と触れ合いたかったのですよね」

 あんなに可愛らしかった子猫が居なくなったのだから、寂しいのはダイヤも同じなのだろう。
 しかし──

「──なのに僕とハート様ばかりで独占してしまって申し訳ありませんでした」

 そうなのだ。自分達ばかり子猫をかまってしまって、ダイヤは子猫と触れ合う間も無かった。しかし優しいダイヤは自分やハートに遠慮して言い出せなかったのだろう。

「気づかなくてすみませんでした。だからもし、ダイヤ様さえ宜しければ僕が世話をしますのでシダーム家でも猫を飼うと言うのは……」

「待ってくれ零っ!」

 零の提案に妙に慌てるダイヤ。
 それもそうだろう、ダイヤは子猫に零との時間を散々邪魔され疲弊していたのだ。
 いっそ猫になりたい。猫になれば自分も零に可愛がってもらえるかもしれない。
 零不足がたたって本気でそんな事を考え、止めるジンラミーも押し切って零の前に現れてしまった猫耳ダイヤ。
 しかし、話があらぬ方へと進みかけてダイヤは大いに慌てたのだ。

「ち、違うんだ零!」

 もうここは素直に理由を話すしかないかと思われた。
 しかし、

「本当は私は……──猫アレルギーなんだ」

 ポロリと出てきたのはでまかせ。
 ダイヤのプライドが邪魔をしたのか、もしくは零に呆れられるのが怖かったのか……

「そうきましたか」

 そんなダイヤに、ジンラミーが呆れたように呟いた。

「そうだったんですか!? じゃあ、一緒に寝た日は辛かったんじゃ……」

「いや、あの、そこまで酷いアレルギーではなくてね。たまにくしゃみが出る程度さ」

 知らなかった情報に驚き、申し訳無さそうにする零。ダイヤは視線を泳がせて不自然に乾いた笑いを上げた。

「でも、猫と触れ合えないのは残念ですね。たまにダイヤ様が子猫と遊んでいる僕達を見ていたのは知ってました。でも子猫に触ろうとしないから何でかなって思ってたんです。そんな悲しい理由があったなんて……」

「まぁ、そうだな……」

 悲しそうにする零に良心が痛み視線を泳がせていたダイヤ。
 しかし、そんなダイヤがふと考える素振りを見せ、口に手をあてたまま零へと視線を戻す。

「……じゃあ」

「はい」

 どうしたのかと見つめる零。やや嫌な予感を覚えるジンラミー。

「じゃあ、零が猫になれば良いんじゃないか!」

「……はい?」

 ジンラミーが諦めたように遠い目をした。
 そして、冒頭に戻る。

 
しおりを挟む
感想 141

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

義兄の愛が重すぎて、悪役令息できないのですが…!

ずー子
BL
戦争に負けた貴族の子息であるレイナードは、人質として異国のアドラー家に送り込まれる。彼の使命は内情を探り、敗戦国として奪われたものを取り返すこと。アドラー家が更なる力を付けないように監視を託されたレイナード。まずは好かれようと努力した結果は実を結び、新しい家族から絶大な信頼を得て、特に気難しいと言われている長男ヴィルヘルムからは「右腕」と言われるように。だけど、内心罪悪感が募る日々。正直「もう楽になりたい」と思っているのに。 「安心しろ。結婚なんかしない。僕が一番大切なのはお前だよ」 なんだか義兄の様子がおかしいのですが…? このままじゃ、スパイも悪役令息も出来そうにないよ! ファンタジーラブコメBLです。 平日毎日更新を目標に頑張ってます。応援や感想頂けると励みになります。 ※(3/14)ストック更新終わりました!幕間を挟みます。また本筋練り終わりましたら再開します。待っててくださいね♡ 【登場人物】 攻→ヴィルヘルム 完璧超人。真面目で自信家。良き跡継ぎ、良き兄、良き息子であろうとし続ける、実直な男だが、興味関心がない相手にはどこまでも無関心で辛辣。当初は異国の使者だと思っていたレイナードを警戒していたが… 受→レイナード 和平交渉の一環で異国のアドラー家に人質として出された。主人公。立ち位置をよく理解しており、計算せずとも人から好かれる。常に兄を立てて陰で支える立場にいる。課せられた使命と現状に悩みつつある上に、義兄の様子もおかしくて、いろんな意味で気苦労の絶えない。

性悪なお嬢様に命令されて泣く泣く恋敵を殺りにいったらヤられました

まりも13
BL
フワフワとした酩酊状態が薄れ、僕は気がつくとパンパンパン、ズチュッと卑猥な音をたてて激しく誰かと交わっていた。 性悪なお嬢様の命令で恋敵を泣く泣く殺りに行ったら逆にヤラれちゃった、ちょっとアホな子の話です。 (ムーンライトノベルにも掲載しています)

【完】僕の弟と僕の護衛騎士は、赤い糸で繋がっている

たまとら
BL
赤い糸が見えるキリルは、自分には糸が無いのでやさぐれ気味です

【完結】悪役令息の従者に転職しました

  *  
BL
暗殺者なのに無様な失敗で死にそうになった俺をたすけてくれたのは、BLゲームで、どのルートでも殺されて悲惨な最期を迎える悪役令息でした。 依頼人には死んだことにして、悪役令息の従者に転職しました。 皆でしあわせになるために、あるじと一緒にがんばるよ! 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく、舞踏会編、はじめましたー! 他のお話を読まなくても大丈夫なようにお書きするので、気軽に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。

宰相閣下の執愛は、平民の俺だけに向いている

飛鷹
BL
旧題:平民のはずの俺が、規格外の獣人に絡め取られて番になるまでの話 アホな貴族の両親から生まれた『俺』。色々あって、俺の身分は平民だけど、まぁそんな人生も悪くない。 無事に成長して、仕事に就くこともできたのに。 ここ最近、夢に魘されている。もう一ヶ月もの間、毎晩毎晩………。 朝起きたときには忘れてしまっている夢に疲弊している平民『レイ』と、彼を手に入れたくてウズウズしている獣人のお話。 連載の形にしていますが、攻め視点もUPするためなので、多分全2〜3話で完結予定です。 ※6/20追記。 少しレイの過去と気持ちを追加したくて、『連載中』に戻しました。 今迄のお話で完結はしています。なので以降はレイの心情深堀の形となりますので、章を分けて表示します。 1話目はちょっと暗めですが………。 宜しかったらお付き合い下さいませ。 多分、10話前後で終わる予定。軽く読めるように、私としては1話ずつを短めにしております。 ストックが切れるまで、毎日更新予定です。

冷遇された第七皇子はいずれぎゃふんと言わせたい! 赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていました

taki210
ファンタジー
旧題:娼婦の子供と冷遇された第七皇子、赤ちゃんの頃から努力していたらいつの間にか世界最強の魔法使いになっていた件 『穢らわしい娼婦の子供』 『ロクに魔法も使えない出来損ない』 『皇帝になれない無能皇子』 皇帝ガレスと娼婦ソーニャの間に生まれた第七皇子ルクスは、魔力が少ないからという理由で無能皇子と呼ばれ冷遇されていた。 だが実はルクスの中身は転生者であり、自分と母親の身を守るために、ルクスは魔法を極めることに。 毎日人知れず死に物狂いの努力を続けた結果、ルクスの体内魔力量は拡張されていき、魔法の威力もどんどん向上していき…… 『なんだあの威力の魔法は…?』 『モンスターの群れをたった一人で壊滅させただと…?』 『どうやってあの年齢であの強さを手に入れたんだ…?』 『あいつを無能皇子と呼んだ奴はとんだ大間抜けだ…』 そして気がつけば周囲を畏怖させてしまうほどの魔法使いの逸材へと成長していたのだった。

美貌の騎士候補生は、愛する人を快楽漬けにして飼い慣らす〜僕から逃げないで愛させて〜

飛鷹
BL
騎士養成学校に在席しているパスティには秘密がある。 でも、それを誰かに言うつもりはなく、目的を達成したら静かに自国に戻るつもりだった。 しかし美貌の騎士候補生に捕まり、快楽漬けにされ、甘く喘がされてしまう。 秘密を抱えたまま、パスティは幸せになれるのか。 美貌の騎士候補生のカーディアスは何を考えてパスティに付きまとうのか……。 秘密を抱えた二人が幸せになるまでのお話。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。