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30.告白
しおりを挟む顔を赤くしたプラドが、緊張したようにソラを見つめる。
ソラには夕日によって赤く染まっているように見えたが、その視線の強さにたじろぐ。
お互い無言で向き合ったまま、冷たい風が吹き抜けた。
「プラド」
「にゃ──ごほん……、な、何だよ」
遠い喧騒を聞きながら、ソラは重い口を開いて沈黙を破った。
いつまでもこのままではいられない。
自分の不甲斐ない力の結果なのだから、隠すわけにもいかない。
けれど、プラドはきっとガッカリするだろう。
せっかく一日時間を割いて検証に付き合ってくれたのに、とても楽しい時間にしてくれたのに、自分は何も返せない。
申し訳ない気持ちと、嫌われるだろうかとの恐れが、出すべき言葉の邪魔をする。
そらすまいと決めていたはずの視線が、つい石畳へ移ってしまう。自然と顔も伏せられる。
そんなソラの頭を、とてもぎこちない手が一度だけ撫でた。
「お前、そんな緊張しなくても……えー、あの、だから……シャンとしろ! 俺に言いたいことがあるんだろ! 俺は逃げも隠れもしないからちゃんと言え!」
思わぬ激励。つっかえながらの言葉と優しい手に自然と視線が上げる。
すると、困ったような、けれどどこか嬉しそうな赤い顔が視界に入り、慌てたようにそっぽを向かれた。
それがどんな感情かなんて、ソラには分からない。
けれど大丈夫だと言われた気がして、すぅっと体の力が抜けていった。
「ありがとう、プラド」
「そういうのは良いから……」
気づかってくれた事への感謝を述べれば、プラドはどこか急かすように、待てを命じられた犬のようにソワソワとしながらも期待に満ちた目でソラを見る。
「プラド、キミに告白しなければならない事がある」
「っ! お、おぅ」
ここでやっと、ソラから確信をついた言葉が飛び出てプラドはゴクリとつばをのんだ。
だが──
「プラドの異常はどうやら魔術のせいではないようなんだ」
「あぁ……──、は?」
「様々な検証をしたがどうしても異物となる魔力は見つからなかった。今日もプラドの協力の元、一日中手を繋いで診ていたが、大きな魔力の乱れはあっても異常と言えるほどの物は見当たらなかった」
「いや……あの──」
「一方で脈と拍動力は度々異常が見られた。これが意味する事は魔術による異常ではなく病的な要因が──」
「──ちょっと待てっ!!」
ここで、プラドから強く止められた。
目を白黒とさせたプラドが、意味が分からないと言いたげに言葉をつのらせた。
「は? いや、何で……何でいきなり魔術の話をしだすんだ、お前……」
「いきなり、とは?」
「だから──」
ここで言葉を切ったプラドは、啞然としていた顔を少し曇らせる。
やはりプラドは期待していたのだ。己の中にはびこっている呪いのような魔術を判明させる事を……。
しかし自分は期待に応えられなかった。だからそんなに複雑な表情を浮かべているのだろう。
そう思い残念な気持ちが再び膨れ上がり、ソラもまたプラドから視線を落とした。
「──……なぁ」
気まずい沈黙が続いた後、プラドがつぶやくようにソラを呼ぶ。
「すまなかったプラド」
「……それより、教えてくれ」
とっさに出たのはまた謝罪の言葉。
しかしプラドが求めていたものではなかったようで、抑揚のない声がソラに別の答えを求める。
「……お前の話を整理するとよ、今日俺の手を握りたがったのは、俺の中の魔力を見張るため……だと聞こえるんだが」
「その通りだが?」
「……」
今更何を言っているのだろう。と、目を丸くするのは、今度はソラの番になる。
対してプラドの目は、光を失ったように見えた。まるで絶望したかのように──
「……いつからだよ」
「いつから?」
「いつから俺の魔力を見張ってた」
「実戦考査からだ」
「……」
なぜ今更そんな事を尋ねるのか、知っていたのではなかったのか。
プラドの意図が分からず、ただ暗い瞳に見つめられて不安が広がる。
自分はまた、何かを間違えたのだ。それが分かっても、やはり、何が間違いだったのか分からなかった。
「じゃあ……あれは何だったんだよ……っ」
つぶやくように細かったプラドの声が、だんだんと強くなる。
それは刻々と怒りで膨らませていくようで、比例して、未だ握られたままの手の力も強くなる。
「あれは……キスは何だったんだよっ!?」
「キス?」
聞き返したのは、聞き取れなかったからでもとぼけたからでもない。
ソラは本当に分からなかったのだ。
なぜここでキスなどと色恋の話が出たのか。自分達と何の関係があるのだろう。
そんな思いが珍しく顔に出たのだろう、気づいてしまったプラドが、歯ぎしりをした。
「キスとは……──」
そこで強く、痛いほど強く手を握られた。
痛みに顔をしかめる前に、それは起きていた。
噛みつくような、すべての感情をぶつけるような、強い強い、口づけが──
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