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26.王都デート

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「──確かに早くしろと言ったがな……」

「ふむ」

「まさか声紙が届いた翌日を指定してくるとは思わなかった」

「早い方が良いと思ったんだが」

「限度があるわ! 俺は今日お前からの返事が届いて慌てて準備したんだぞっ」

「すまない、早く会いたかった……」

「……っ」

 昼飯にはまだ早い午前。王都の繁華街でソラはプラドを見つめ、プラドは驚いた顔をした後に視線をさまよわせた。

「まっ……まったく、仕方のないヤツだ」

 眉間にシワを寄せているくせに口元の笑いが隠せないプラドは、ソラからそっぽを向いて歩き出す。
 プラドから声紙が届いてすぐに返事を出したソラは、プラドが話した通り翌日を希望した。
 確かに少し性急だったかと反省したが、来てしまったものはしょうがない。
 歩き出したプラドの隣にならび、自分より少し背の高いプラドの横顔を眺めると、もっとそっぽを向かれてしまった。

「……それで、お前はどこか行きたい所はあるのか」

「王都はあまり詳しくない……」

「だろうな、お前は田舎に引きこもりすぎだ」

「ただやりたい事はある」

「何だよ?」

 プラドがちらりとソラを見る。そして立ち止まってソラの言葉を待つので、ソラは少し言いにくそうにしながらも自分の要望を口にした。

「プラドが不快でないなら、だが……今日一日出来る限り手を繋いでいたい」

「はっ!?」

 実生活中に長時間継続して魔力の流れを記録し解析する、24時間魔力検査である。ソラが名付けたのでそのまんまであるが。
 さらに今回は魔導具も活用する。

「あと、もし良ければコレを付けてくれないか?」

 今日だけで良い、と付け足し渡したのは、淡水色の魔石が埋め込まれたペンダントだった。
 このペンダントは脈拍や拍動の強さ(血圧)を記録する物だ。今朝ソラが手元にあった魔石で取り急ぎ作った物である。
 意図せず自分の髪と同じ色の魔石になったが、それを受け取ったプラドはまた複雑そうな顔をした。

「き、今日だけだからな……学園でこんな物を付けたら……──」

 とモゴモゴ言いながらも首にかけ、後ろ手にバッと勢いよく手を出される。
 何だこれは? と大きく広げられた手のひらを眺めていたら「早くしろ!」と怒られた。
 仕方ないのでプラドの手のひらをつついてみたら、途端に鷲掴みにされて驚いた。
 そのまま大股で歩き出すプラド。
 そこでようやく、自分から言い出した「手を繋ぎたい」を実行してくれているのだとソラは気づいた。

「ありがとうプラド」

「ふん……」

 そんな状態のまま、あてもなく王都を歩き回ったが、なんだかプラドが上機嫌に見えたのでソラも黙って隣を歩き続けた。
 プラドの手のひらは大きくて、とても熱かった。

 広い王都を一周する頃には昼時になっていた。
 ソラの腹が小さくクゥ……、と鳴った事でやっとプラドの足が止まる。

「あー……、疲れたか?」

「いや、少々腹が減った程度だ。こんなに王都を見て回ったのは初めてだが、面白いな」

「ふーん……で、気になる店はあったか」

「あぁ、さすがは王都だ。本屋が三つもあった」

「……他には見てないのか」

「魔石の店は五つもあった」

「……そうか、よかったな」

 呆れたような、しかしどこかホッとしたような顔のプラドは、再びソラの手を引き歩き出す。

「お前、嫌いなものはあるか」

「嫌いなものとは」

「食べられない物、とかだ」

「ふむ、コンダラの根は生で食すのは難しかった。魔力の安定に適した食材だから森で発見した際に食べてみたがえぐ味と苦味が強くやはりエキスを抽出して──」

「──わかったもういい!」

 こんな時だけやたらと口が軽快になるソラを制し、プラドは繋いでいない方の手で頭を抱えた。

「つまり大概の物は食べられるなお前は……」

 そう行って足を止めたプラド。目の前はオープンテラスがある煉瓦造りのおしゃれな店だった。
 店内はカップルか若い女性しか居ない。

「ここは?」

「ここで食べるんだよ。なんか不満か」

「ここで……」

 僅かに戸惑いを見せるソラに、プラドも戸惑う。店選びを失敗しただろうか、と。
 ソラの出方を伺うプラドに、ソラは再び口を開いた。

「不満はない。ただ……」

「ただ?」

「私も準備をしてきたんだが」

「っ! な、何か俺の為に作ってきたのか……?」

「ふむ、今回はエネルギーでなく栄養を重視した保存食を──」

「──店に入るぞっ!!」

 慌ててプラドから手を引かれ、ソラは可愛らしい店に入る事になった。
 ソラにとって初めての、外食だった。

 
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