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17.乱闘の末

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 ガラの悪い男たちがぞろぞろと集まってくる。
 その数五人。夏一人に何人仲間を呼ぶつもりだと秋が龍也に文句の一つでも言おうかとした時だ。

「……何だこいつら」

 当の龍也達が、集まってきた男たちを見て不満そうに声を漏らした。

「お前らの仲間じゃねぇの?」

「ちげーよ。こんな奴ら知るか」

「おいおい、ずいぶんつれねーじゃねえか」

 男たちのリーダー格らしい体の大きな男が、笑いながら龍也に話しかける。しかしその目は笑っていない。

「誰だよてめぇ」

「は、とぼけんな」

 男の言葉を合図に、他の四人が一斉に動き出す。

「何だてめぇらっ!?」

 驚く龍也だが、真っ先に動いたのも龍也だった。
 一人の男に瞬時に間合いを詰められるが、その男の腹に向かって思い切り拳を叩き込む。
 そこからは乱闘だった。

「思い出した! てめぇら前に喧嘩ふっかけてきた──」

「やっと思い出したか!!」

 どうやら因縁のある相手らしいが、巻き込まれるのはごめんだと秋はすみに寄って空気になりきる。
 力は互角にもみえたが、相手は五人。対して龍也達は三人だ。徐々に劣勢に追い込まれていく。

「クソが……っ! 三人に五人とか卑怯だろっ!」

 夏一人に三人で相手しようとした奴が何を言う。と思いながら秋はすみで様子をうかがっていた。
 多勢に無勢で龍也達はどんどん追い詰められていく。
 そして遂に───

「ぐあっ!!」

 最後まで残っていた龍也は、背後から殴られ地面に突っ伏す。
 そこにリーダー格の男が馬乗りになり羽交い締めにした。

「てっ……めぇ……っ!」

「俺たちの勝ちだなぁ!? もうでけえ面すんじゃねえぞ龍也!!」

 動ける者は三人。龍也達が二人は沈めたようだ。
 なかなかやるじゃないかと他人事のように見ていた秋だったが、

「お前なんだよ」

 やはり見つかったと言うべきか、始めっから見つかっていたのか、一人の男が訝しげに詰め寄った。

「あ、俺? 俺はそいつらに無理やり連れて来られた一般人です。バイトあるから帰っていい?」

「おいこいつナメきってるぞ」

 両手を上げて敵意がない事を示したが、秋の態度が気に入らなかったようだ。また一人と秋に詰め寄ってくる。

「おい! そいつはマジで関係ねぇよ!」

 羽交い締めにされながらも龍也が叫ぶ。秋も同調してコクコクとうなずいた。

「おい雄太、こいつどうする?」

 雄太と呼ばれたリーダー格の男は、龍也を羽交い締めにしたまま面倒くさそうに秋を見る。

「ほっとけそんな奴。行きてえならさっさと行けよ」

 秋にさして興味のない男たちに安堵し、じゃあお言葉に甘えてとその場を去ろうとした時だ。

「おいこいつ良いもん持ってるぞ」

「あ……」

 上げていた腕から、ブレスレットを抜き取られてしまう。
 夏から付けられたばかりのブレスレットだ。

「これブランド物じゃねーか。財布置いてってもらおうかと思ったけどこれ一個で勘弁してやるよ」

「いや……それは大事なもんだから返してほしいんだけど」

「何だよ? もしかして恋人からでも貰ったかー?」

「……ああ、そうだ」

 秋の言葉を聞いて、男がにやりと笑う。

「おらよっ」

「っ!」

 そして、ブレスレットを投げたかと思うと蹴って遠くへ放ったのだ。
 もう一人の男も同調し、まるでキャッチボールを楽しむようにブレスレットを追って手を伸ばした。

「ギャハハハッ! そんなに大事なら奪い取ってみせグォ……ッ!?」

「オーライオーライ! ……え?」

 突如、ブレスレットを蹴った男が吹っ飛んだ。そのまま倒れて白目をむいている。

「は? は?」

 ブレスレットをキャッチした男は、突然の出来事に目を白黒させる。

「おい……それ幾らすると思ってんだ……?」

「え? ちょっと待てお前……」

「二万五千円もすんだぞっっ!!」

 怒鳴り声と共に振りかざされる秋の拳。咄嗟に腕を交差させ受け止めるが、その衝撃の重さにやはり秋が仲間を吹っ飛ばしたのだと男は理解した。
 理解した所で、二発目の拳は受け止められずみぞおちに入り地面に沈む。

「て……てめぇっ!!!!」

 唖然と見ていたリーダー格の男、雄太は我に返り、龍也の背から降りて秋に殴りかかる。
 だが秋はそれを掌底で顎を打ち抜き脳震盪を起こさせながら吹き飛ばすと、男は受け身を取る暇もなく壁に激突しそのまま地面へと倒れた。
 一瞬の出来事だった。

「……な……なん…………」

「あ、秋さんっ……!?」

 地面に倒れたままの龍也がポカンと口を開ける中、やっとの思いで駆けつけた夏の声が響いた。
 
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