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15.面倒くさい事になった

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「秋ー、今日ってバイトか?」

「あぁ、何か用事あった?」

 講義を終え教材をバッグにしまう秋に、ゲーム友達の飛鳥が話しかける。

「今日飲みに行けねーかと思ってよ。何人か誘ってんだけど秋もバイト後に来るか? どうせ二次会三次会までしてるしな」

「悪いな、今日はまっすぐ帰らないといけないからまた誘ってくれ」

 予定に無い誘いは断る。今朝の占いを意識している訳では無いが行けばまた夏がめんどくさそうなので、秋はやんわり断った。

「お前バイトの後に行くのが面倒くさいだけだろ」

「……んな事ねぇよ」

 実のところの一番の本音を見抜かれ、秋は視線を泳がせて席を立った。
 のらりくらりと誤魔化しながら飛鳥と別れ、さてまだ早いがバイト先に向かうかと考えている秋に、背後からキラキラとした声がかかる。

「秋さーん!」

 自分の名をこんなキラキラとした声で呼ぶ人物は一人しか居ない。

「夏、どうした? 俺は今からバイト行くけど」

「どうしてもお渡ししたい物がありまして」

 秋に駆け寄った夏は持っていた小さな紙袋をゴソゴソと探り、取り出した物を俺の手首に付けた。
 付けられたのはシンプルなブレスレットだった。
 黒の革紐が二重になっているそれは、日頃アクセサリーなどつけない秋でも抵抗が無いほど腕に馴染む。
 ただ気になるのは、金具の部分に印字された見た事のある有名ブランドのロゴマークだ。

「……これいくらしたんだ?」

「ペアで五万ほどです」

「返品してこいっ!!」

 腕にしっかり色違いのブレスレットを付けた夏が得意げに言うが、秋は頭をかかえる。

「お前な、五万稼ぐのにどれだけバイトしないといけないのか分かってるのか。いちいち占いごときに散財してたら破綻するだろ」

「俺のポケットマネーはこの程度では少しも痛みません。それに俺は占いで言っていたから買った訳ではありません。秋さんとお揃いの何かを身に着けたいと前々から思ったていたので買ったのです。占いはきっかけにすぎません」

「言い訳が長い!」

 秋が叱っても夏は嬉しそうにお互いのブレスレットを見比べて引く気は無いようだ。

「いいか夏。お互いが使う物は二人でお金を出し合う。これを今後の決まりにするぞ」

「秋さんに負担をかけさせる訳にはいきません」

「でも二人で使う物だろ? 二人で使う物は二人で負担、これは恋人同士として当然の事だ」

「っ! なるほど! 恋人同士として当然の事ですねっ!」

 目を輝かせ納得した夏に、秋は胸をなでおろす。
 自分と金銭感覚の違う夏にこれで少しはブレーキがかかるだろう。

「じゃあ俺はバイト行くから」

「送ります」

「いらん! 家で美味い飯でも作っててくれよ」

「秋さんがそうおっしゃるのなら……」

 ついて来そうになる夏を止めて、秋は今度こそバイト先に向かう。
 早めに行けば店長からまかないを食べさせてもらえるのだ。
 バスに乗っている間も今日のまかないに思いを馳せるていたが、目的地で降りた秋のテンションはだだ下がりする。

「よーう、狂犬の飼い主さん」

「……」

 たっくんこと不良グループの頭、龍也。愉快な仲間たちも引き連れて何故か秋を出迎えた。
 今まで自分に直接絡んできた事は無いのに、なぜ今更になって接触して来たのだろう。
 理由は知らないが面倒くさい予感しかしない秋は、冷めた目を龍也に送った。

「夏は居ないぞ」

「あぁ知ってるさ。俺たちはアンタに用があって来たんだからな」

 にやにや笑う男たちは、付いて来いとアゴで指示する。
 拒否したいが、したらしたでまた面倒くさそうだと、秋はため息を吐きながら仕方無しに男たちの後を付いて行った。
 
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