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10.来客と夏の威嚇

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 週末になると、秋たちの家に飛鳥が訪ねてきた。
 以前話していたゲームを渡すためだ。

「ずいぶん良い家に越したじゃん」

「家賃ほとんど夏持ちだけどな」

「何で急に同棲なんて始めたんだ?」

「え? えーと……付き合いだしたから?」

「ンなの前からだろ」

「……まぁとりあえず上がれよ」

 前からっていつからだ、とは口に出さずに秋は飛鳥をリビングに通す。
 傍らにはもちろん夏が連れ添う。

「そー言えばさ、この前食堂で絡まれてただろ」

「この前? あーあれか。俺じゃなくて夏がな」

 飛鳥が笑いながら言うものだから面白がって言っているのが分かり、秋は適当に流す。
 だが好奇心を隠そうともしない飛鳥は更に秋に詰め寄って、夏から引き剥がされた。

「あの愉快な連中たまに見るけど知り合いなの?」

 夏から引き剥がられながらも飛鳥は面白そうに言うものだから、秋はため息を一つ吐いて答えた。

「高校が同じなんだよ。そんで秋の同級生」

「今は赤の他人です」

「向こうはそう思ってねぇだろ」

 秋と飛鳥の間に入りながら面倒くさそうに夏は言い、飛鳥をさり気なく一人用ソファーに促す。
 そして自分は大きなソファーに秋と共に座る。

「えー、俺もそっちのソファーが良い」

「狭いから駄目だ」

「いやいやいやめっちゃ広いじゃんそのソファー! つーわけでお邪魔しますよっと」

「キサマ! 秋さんの隣に座るなっ!」

「じゃあ夏の隣に行こうか?」

「暑苦しいから止めろ!」

 仲いいよなこの二人……とのんびり眺めていた秋であったが、もみくちゃにされながら夕飯の事を考えていたらいつの間にか夏の足の間に座って、隣に飛鳥と言う形でおさまっていた。
 いやこれだと俺が暑苦しいんだけどと秋は思うが、また口論が始まっても面倒くさいので黙っておいた。

「そんで? 何であいつら夏に突っかかってくるんだ?」

 夏に背後から腹に腕を回された秋は、珈琲を飲みながらまだその話題は終わっていなかったのかと一息ついて簡単に説明する。

「なんか不良グループみたいなのがあって派閥っつーの? そんなのがあったみたいでその関係で対立してたんだろ」

 簡単な説明であるが、秋自身それ以上の事は本当に分からない。なんせ、興味が無いから。

「大学生にもなってもまだくだらない事で突っかかってくるはた迷惑な連中ですよ」

「へー不良グループねぇ。真面目でおとなしい俺には無関係の世界だわー」

「真面目な奴は授業中にゲームしたり資料室を仮眠に使ったり新作ゲーム買うために授業の代返頼んだりしねぇよ」

「ゲームに関しちゃ真面目なんですー」

 ゲームに関しては真面目と断言した通り、その後は二人でゲーム談義に花を咲かせて、新作ゲームをしながら更に盛り上がった。
 その間夏は秋の頭に顔を埋めたり腹部に回した手でさり気なく体を撫でたりして秋を堪能していたが、秋の興味が他人に向いているのが気に入らないのか、時折鋭い視線を飛鳥に送っていた。

「……秋さん、そろそろ夕食の準備をしませんと」

「あれ、もうそんな時間か」

 一向に終わらないゲーム談義に痺れを切らした夏が言えば、秋は時計を確認し、その様子に夏は笑みをうかべる。

「飛鳥、晩飯食ってく?」

 だが、続けられた秋の言葉に夏はどん底へ落とされた気分になる。

「いいのー? そんじゃ遠慮な、く……──」

 秋の誘いに乗りかけた飛鳥であったが、途中で言葉を詰まらせ、

「──っと思ったけど用事あんだわ俺! だから帰るな」

 と、慌てるように叫んで立ち上がった。

「……そうか、じゃあ気をつけて帰れよ」

 どこか明後日の方向に視線を泳がせる飛鳥。
 原因はこめかみに血管を浮かばせる夏に気付いたからで、はいはいもう帰りますよと顔を引きつらせて飛鳥は帰り支度をした。

「じゃあまた月曜日なー。ゲーム返すのはいつでも良いから」

「おう、あんがとな」

 飛鳥を見送った二人はリビングに戻り使ったマグカップやお菓子の袋などを片付けながら、秋は夏を肘で突いた。

「お前さ、ちょくちょく飛鳥を威圧してたろ」

「……あの男が図々しいもので」

「図々しいって何だ。わざわざゲーム持ってきてくれたしお菓子まで買ってきてくれたろ」

「秋さんの貴重な週末の時間を使わせるのが図々しいのです」

「お前ねぇ……」

 秋は夏のあまりの言いぐさに呆れるが、まぁ仕方ないか夏だしな、と困ったように笑いかけた。
 夏はそんな秋を見て、叱られた忠犬さながら落ち込んだ素振りを見せながらもマグカップを洗う秋の背後にすり寄り腕を回す。

「秋さんは俺の恋人でしょう?」

「はいはいそうな」

 笑いながら返事をすれば「秋さん」と寂しげに呼ばれたものだから、思わず振り返れば真剣な顔をした夏が自分を見つめていて、秋は僅かながら動揺した。
 その目はどこか不安で揺れている。
 何が夏を不安にさせるのか検討もつかないが、寄せられた唇を受け入れて慰めるように迷子の子供の頭を撫でた。

「……おい、ここ台所」

「興奮するシチュエーションですね」

「俺はお前の感性が本気で分かんねぇよ」

 迷子の子供は、いつの間にか大人の男の目になっていて、秋へゆっくりと覆いかぶさっていった。
 
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