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すれ違い1
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翌日大学の食堂に行き出汁のきいたうどんをトレイに乗せてゆっくりカレーの香りが匂うその方向へ唯は向かうと、ひながむすっとした顔で座っていた。唯が向かいの席に座り、持っていたカバンを横に置くと同時に、ひなは「ねぇ、聞いてよ」と前のめりになっていた。
「昨日、宮川亮に会うためにわざわざ空港行ったんだよー。でも、物凄い人だかりでさぁ。警備員も殺気立ってて、これ以上入ってくるなって怒鳴られるし。最悪よ」
はぁっとため息をつくひな。昨晩ずっと亮のことを考えていて、いい加減気分を変えようと思っていた矢先に、その話題を振られて何とも気持ちが重たくなる。ひなに返す言葉も見つけられず「とりあえず食べよう」と促すと、ひなはカレーを口いっぱいに頬張った。つられて唯もうどんを口に入れる。食欲がなくて何も食べずに家を出たせいか、優しくお腹にに染み渡ったけれど、やっぱり胃は重苦しい。
「私がそうやって苦労しているとき、唯は彼に会ってたんでしょ? 全くいいわよねぇ」
カレーを乱暴に口放り込んだひなだったが、唯の顔を見て咀嚼を止めていた。
「何よ浮かない顔して。もしかして、ふられた?」
容赦ないなぁと思いながら、苦笑いを浮かべ箸でうどんを掴む。
「うーん。そういうわけじゃない」
「じゃあ、なんでそんな顔? りょうすけさんとの久々の再会で盛り上がるもんじゃない?」
「まぁね。私も嬉しかったし、彼も喜んでくれた。……だけど、やっぱり無理なのかなって……思っちゃった」
唯の箸からうどんがつるりと滑り落ちる。跳ねた汁が頬にあたって拭うと、昨日の涙の感触が思い出されてどうしても顔が曇っていく。そんな唯に、ひなは腕組みをして頭上に疑問符がこれでもかというほど浮かび上がっていた。
「どこをどうしたら、そういう話の流れになるわけ? だって、お互い好きなんだよね? 会って嬉しかったんだよね?」
その問いに、唯は小さく頷く。嬉しかったし、やっぱり好きだという気持ちは変わらない。だけど。
「……今まで私たちって、一緒の立ち位置にいたんだよね。幼馴染で、家も近くて、ずっと昔から一緒にいてとても居心地がよかった。そこから彼は旅立って、新しい世界を広げて新たな道を見つけて帰ってきた。
それは私、純粋に嬉しいの。そうやって明るい世界を見つけて帰ってきてくれることが私の何よりの願いだったから。だけど、その世界を私が一緒に見ていくには眩しすぎるのかもしれない」
そこまで言ったところで、唯のスマホがピリっと鳴り始めた。唯がカバンからスマホを取り出し確認すると亮からだった。
昨晩亮から電話があったのを出ずにいたから、また掛けなおしてきたのだろう。無事に帰れたかどうかの確認だったのかもしれないけれど、電話に出られるほどの元気もメッセージを送る気力もなくそのままにしてしまっていたことを唯は思い出す。せめて、朝一言くらい連絡しておけばよかったと思いながら、唯は震え続けるスマホをカバンに仕舞い込む。
唯の表情から誰から来た電話かなんて一目瞭然だったひなは、ちょっと怒ったような口調で言う。
「言ってる側から彼からの電話なんでしょ? 出なくていいの?」
「うん。後で連絡するからいい」
ふっと息を吐き、残っていたうどんを食べ終えると唯は自嘲気味に微笑んでいた。
「私もいい加減、変わるべき時が来たのかも。一人暮らしでもして、環境変えてみようかな」
ひなは、カレーを次々に頬張り、一気に食べ終えていた。
「そういうことなら、私のアパートおいでよ。私大屋さんと仲よくてさ、部屋が空いてるから知り合いいたら宣伝よろしくって言われてるのよ。心が決まったら言って」
「うん、ありがとう」
「ただしタダというわけにはいかないわよ。来週の水曜日文句言わずに私に付き合ってくれるという条件付きね」
ひなは怪しげな笑みを浮かべているのを見て、唯はやっぱり考え直した方がいいかしらと、逡巡していた。
「昨日、宮川亮に会うためにわざわざ空港行ったんだよー。でも、物凄い人だかりでさぁ。警備員も殺気立ってて、これ以上入ってくるなって怒鳴られるし。最悪よ」
はぁっとため息をつくひな。昨晩ずっと亮のことを考えていて、いい加減気分を変えようと思っていた矢先に、その話題を振られて何とも気持ちが重たくなる。ひなに返す言葉も見つけられず「とりあえず食べよう」と促すと、ひなはカレーを口いっぱいに頬張った。つられて唯もうどんを口に入れる。食欲がなくて何も食べずに家を出たせいか、優しくお腹にに染み渡ったけれど、やっぱり胃は重苦しい。
「私がそうやって苦労しているとき、唯は彼に会ってたんでしょ? 全くいいわよねぇ」
カレーを乱暴に口放り込んだひなだったが、唯の顔を見て咀嚼を止めていた。
「何よ浮かない顔して。もしかして、ふられた?」
容赦ないなぁと思いながら、苦笑いを浮かべ箸でうどんを掴む。
「うーん。そういうわけじゃない」
「じゃあ、なんでそんな顔? りょうすけさんとの久々の再会で盛り上がるもんじゃない?」
「まぁね。私も嬉しかったし、彼も喜んでくれた。……だけど、やっぱり無理なのかなって……思っちゃった」
唯の箸からうどんがつるりと滑り落ちる。跳ねた汁が頬にあたって拭うと、昨日の涙の感触が思い出されてどうしても顔が曇っていく。そんな唯に、ひなは腕組みをして頭上に疑問符がこれでもかというほど浮かび上がっていた。
「どこをどうしたら、そういう話の流れになるわけ? だって、お互い好きなんだよね? 会って嬉しかったんだよね?」
その問いに、唯は小さく頷く。嬉しかったし、やっぱり好きだという気持ちは変わらない。だけど。
「……今まで私たちって、一緒の立ち位置にいたんだよね。幼馴染で、家も近くて、ずっと昔から一緒にいてとても居心地がよかった。そこから彼は旅立って、新しい世界を広げて新たな道を見つけて帰ってきた。
それは私、純粋に嬉しいの。そうやって明るい世界を見つけて帰ってきてくれることが私の何よりの願いだったから。だけど、その世界を私が一緒に見ていくには眩しすぎるのかもしれない」
そこまで言ったところで、唯のスマホがピリっと鳴り始めた。唯がカバンからスマホを取り出し確認すると亮からだった。
昨晩亮から電話があったのを出ずにいたから、また掛けなおしてきたのだろう。無事に帰れたかどうかの確認だったのかもしれないけれど、電話に出られるほどの元気もメッセージを送る気力もなくそのままにしてしまっていたことを唯は思い出す。せめて、朝一言くらい連絡しておけばよかったと思いながら、唯は震え続けるスマホをカバンに仕舞い込む。
唯の表情から誰から来た電話かなんて一目瞭然だったひなは、ちょっと怒ったような口調で言う。
「言ってる側から彼からの電話なんでしょ? 出なくていいの?」
「うん。後で連絡するからいい」
ふっと息を吐き、残っていたうどんを食べ終えると唯は自嘲気味に微笑んでいた。
「私もいい加減、変わるべき時が来たのかも。一人暮らしでもして、環境変えてみようかな」
ひなは、カレーを次々に頬張り、一気に食べ終えていた。
「そういうことなら、私のアパートおいでよ。私大屋さんと仲よくてさ、部屋が空いてるから知り合いいたら宣伝よろしくって言われてるのよ。心が決まったら言って」
「うん、ありがとう」
「ただしタダというわけにはいかないわよ。来週の水曜日文句言わずに私に付き合ってくれるという条件付きね」
ひなは怪しげな笑みを浮かべているのを見て、唯はやっぱり考え直した方がいいかしらと、逡巡していた。
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