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小泉さんの事情
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感情の逃げ道ってどこだろう。
私、小泉(こいずみ)かすみ はそんな事を考えた。授業中だというのに私の気分は乗らないもので。
「希釈液……5パーセント」
授業で言われた言葉を口に出してはまた考えて。気付けば今日の授業は終わってしまっていた。
「かすみ、また授業中考え事してたでしょ」
「りあちゃん……うん、なんか集中できないんだよね」
同じクラスの和泉(わいずみ)りあ。
この子が私の授業に集中できない理由。いつも、彼女のことを考えてしまう。
「せっかくかすみは5教科の点いいんだから、実習で落としてちゃもったいないよ」
「ありがとう、頑張るよ」
可愛いくて優しくて、私が隣にいるなんてもったいないくらい。それなのにりあちゃんはいろんな人の誘いを断って私といてくれる。
どうしてなんて、考えるのもやめてしまうくらいに、いつも。
「にしてもやっぱり、専門教科だけにやること多いねー。ノートはほとんどとらないのにさ」
「そうだね、私は書くのが遅いから助かってるかなぁ」
「あぁ、かすみのノート綺麗だもんね……売り物かと思ったもん」
「その例えはよくわかんないけど、ありがとう。また見たかったら言ってね?」
「かすみ様ー!」
なんてことないこの距離が、私にとって愛しくて。手放したくない大切な場所だった。
どうしてりあちゃんが私の近くにいてくれるのか分からないけど、私はまだ、この関係に甘えていたい。
「そいえばさ、隣のクラスにすごいお金持ちの子がいるの知ってる?」
「あぁ、葛城さん……だっけ?」
「天は人に二物を与えず、とか言ったけど与えられる人には与えられちゃうよねー」
「美人でお金持ちで、天才って噂だね」
「きっといろんな努力をしただろうから、私も頑張らないとなーって思うんだ」
人を羨む気持ちを持ちつつ、尊敬し、自分を高めようと決意する。りあちゃんのそんなところが素敵だと思うのに、りあちゃんはまだ自分の魅力に気づいていないらしい。
それって、なかなかできることじゃないと思うんだ。
それこそ、私の世界ではりあちゃんが一番輝いているというのに。
「りあちゃんは、素敵だよ」
思いがけずもらしてしまった言葉に、照れたように笑うその仕草。やっぱり りあちゃんは可愛い。私なんかの隣にいるのは不思議なくらいに。
「ありがとう、かすみ」
この感情の答えなんて知らない。どうしたいのかなんて分からないし、どうなるかなんて知りたくもない。
ただ、この距離でいいの。
どうしようもないくらい、近くて遠いこの距離が、私にはひどく落ち着くんだ。
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
その笑顔に期待なんてしないしその瞳の内側なんて知るつもりもない。
ただ私は、りあちゃんが許してくれる限り、一緒に居たいと願うだけだ。
「ありがとう、りあちゃん」
ただ、それだけだ。
私、小泉(こいずみ)かすみ はそんな事を考えた。授業中だというのに私の気分は乗らないもので。
「希釈液……5パーセント」
授業で言われた言葉を口に出してはまた考えて。気付けば今日の授業は終わってしまっていた。
「かすみ、また授業中考え事してたでしょ」
「りあちゃん……うん、なんか集中できないんだよね」
同じクラスの和泉(わいずみ)りあ。
この子が私の授業に集中できない理由。いつも、彼女のことを考えてしまう。
「せっかくかすみは5教科の点いいんだから、実習で落としてちゃもったいないよ」
「ありがとう、頑張るよ」
可愛いくて優しくて、私が隣にいるなんてもったいないくらい。それなのにりあちゃんはいろんな人の誘いを断って私といてくれる。
どうしてなんて、考えるのもやめてしまうくらいに、いつも。
「にしてもやっぱり、専門教科だけにやること多いねー。ノートはほとんどとらないのにさ」
「そうだね、私は書くのが遅いから助かってるかなぁ」
「あぁ、かすみのノート綺麗だもんね……売り物かと思ったもん」
「その例えはよくわかんないけど、ありがとう。また見たかったら言ってね?」
「かすみ様ー!」
なんてことないこの距離が、私にとって愛しくて。手放したくない大切な場所だった。
どうしてりあちゃんが私の近くにいてくれるのか分からないけど、私はまだ、この関係に甘えていたい。
「そいえばさ、隣のクラスにすごいお金持ちの子がいるの知ってる?」
「あぁ、葛城さん……だっけ?」
「天は人に二物を与えず、とか言ったけど与えられる人には与えられちゃうよねー」
「美人でお金持ちで、天才って噂だね」
「きっといろんな努力をしただろうから、私も頑張らないとなーって思うんだ」
人を羨む気持ちを持ちつつ、尊敬し、自分を高めようと決意する。りあちゃんのそんなところが素敵だと思うのに、りあちゃんはまだ自分の魅力に気づいていないらしい。
それって、なかなかできることじゃないと思うんだ。
それこそ、私の世界ではりあちゃんが一番輝いているというのに。
「りあちゃんは、素敵だよ」
思いがけずもらしてしまった言葉に、照れたように笑うその仕草。やっぱり りあちゃんは可愛い。私なんかの隣にいるのは不思議なくらいに。
「ありがとう、かすみ」
この感情の答えなんて知らない。どうしたいのかなんて分からないし、どうなるかなんて知りたくもない。
ただ、この距離でいいの。
どうしようもないくらい、近くて遠いこの距離が、私にはひどく落ち着くんだ。
「お礼を言うのはこっちの方だよ」
その笑顔に期待なんてしないしその瞳の内側なんて知るつもりもない。
ただ私は、りあちゃんが許してくれる限り、一緒に居たいと願うだけだ。
「ありがとう、りあちゃん」
ただ、それだけだ。
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