上 下
2 / 4

この想いの在りかた

しおりを挟む

思えば、しぃなとの出会いからもう恋だった気がする。ポエムのような考えをしながら、私はしいなへと向き合った。

「みつき、なに笑ってんの?」
「んーん。なんにも」

知らない、知りたくない感情に振り回されて拗らせて。ここまできた私だけど、しぃなはそれでも隣にいてくれるらしい。

「むぅ、何か隠してるな‥‥」
「まぁまぁ。それより、今日ゆうは?」
「幼なじみの子と帰ったよ。あの‥‥名前忘れちゃった」
「あぁ、きみちゃんて子か」

たしかゆうがそう呼んでた気がする。あだ名しか知らないけども。

「じゃあ今日は二人きりかぁ」
「あ、あらためて言わないでよ‥‥」

意地悪に笑うしいなから、思わず目を逸らす。私の気持ちを理解したのかしてないのか分からないけど、時折しぃなはそういうこと言っちゃうからおかしくなりそうだ。

「ね、みつきクレープ好きだったよね?食べにいこうよ」
「す、好きだけど今日クレープの日じゃないし‥‥」

毎月9日。クレープの日は全部のクレープが300円引きになる。金欠の学生生活、少しでもお得に食べたい気持ちが勝る。

「とか言いながら財布を確認しちゃうあたり可愛いよね、みつきはさ」
「う、うるさいな‥‥」
「どうだった?クレープは買えそう?」
「‥‥ま、ギリギリ」
「よーし、行こう!」
「わ、ちょ‥‥引っ張らないで!」

しいなは私の手を掴むと待ってられないとばかりに走り出す。クレープの日でもない限り、あのクレープ屋さんが混むことはあんまりないのに。

「だって、みつきと二人で放課後なんて久しぶりなんだもん」
「あ‥‥」
「はしゃがない、なんて無理だよ」

無邪気なしいなの言葉が、少しだけ刺さった。そうだ、私の勝手な気持ちで今までしぃなを傷つけた。それは、まぎれもない事実だった。

「ごめん、しいな」
「謝らないでよ。私は今、みつきが隣にいてくれてることが幸せなんだ」

ウソのない言葉と、屈託のない笑顔。
しいなはどこまでも優しくて、可愛い。

「ありがとう、しぃな」
「じゃあ謝りついでにクレープ一個おごってもらっちゃおうかなぁ」
「えぇっ?せ、せめてクレープの日まで待って‥‥!」
「あはは!もう、しょうがないなぁ」

想って、拗らせて、逃げ続けた私を、しいなはどこまでも優しく受け止めてくれる。そんな姿に、また恋をした。
でも、この気持ちはもう、言葉に出さない。
この距離と、この関係が、大好きで、愛しいから。

「私は待ってるんだけどなぁ‥‥」
「しいな、何か言った?」
「ううん、なんにも」




先を聞こうと迷っていたら、甘いクレープの香りが、もうそこまできていた。
しおりを挟む

処理中です...