モブに光あれ〜私の推しは身近にいるので毎日幸せです〜

山奈みちかは風になる2

小鳥はさえずり空は晴れて、推しは尊い。
私、山奈ちさとはなけなしの視力を数キロ先の2人へと注いでいた。

「ねぇみちか、ここ公園でしょ？」
「そうだねゴンちゃん」
「犬を、見ろよ」
「そうだね、ゴンちゃん」

ゴンノスケ、ハァハァうるさいよ。いや可愛いけども。やっぱ犬飼いたいなぁ……今はそれどころじゃないけど。

「ゴンノスケもみちかと会えるの楽しみにしてたのに、ずっと違う方見てるじゃん」

ごめんゴンちゃん、ゴンノスケ。私は今日、風になろうと決めたんだ。

「ていうか雑貨屋？見たいなら後で行こうか？」
「行くのはダメだよ」
「なんで？」
「浄化されちゃう」
「……なんで？」

遠くからでもわかる。制服姿のかすみちゃんと和泉さんが甘酸っぱい雰囲気で歩いているのが。
かすみちゃんは純粋に和泉さんと遊べるのが楽しいようで笑顔なのに対し和泉さんは少し頬が赤い。私の目はごまかせない。

「ごめんなさいかす×りあの神さま‥‥こんなけがれた私を許して」
「なに言ってんの……？」
「せめて店の中に入るまでだけ見せて！」
「ねぇだからなに言ってんの？！」

怯えないでほしい。私はこれ以上近寄る気はない。ただ推しが並んで歩くだけで私はもう世界に感謝できるんだ。

「あっ…」

私は見た。見てしまった。
転ろびそうになったかすみちゃんを支える和泉さんの姿を。
2人で顔を赤くして、パッと離れる甘い雰囲気を。

「ありがとうございます‥！！！！！」
「ねぇゴンノスケみちかが怖い‥‥」

ありがとう世界。ありがとう地球。また明日もがんばれそうです。

「よーしゴンノスケ、あの夕陽に向かって走るぞー！」
「わうっ！」
「いや夕陽出てないから」

「テッペン取るぞー！」
「わおー！」
「なんのだよ！‥‥ってちょっと待っててば！」

待ちくたびれたゴンノスケと共に、私は全力で公園を走り抜けた。
そして今日も実感するのだ。


「モブライフ、さいっこう！」