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視線
しおりを挟む雑踏の中から、こちらを強く睨みつける目があった。
アナーシェ‥‥
かつての恋人は、まっすぐに自分を見ている。
視線を逸らすことができずにお互い立ち尽くしていたが、先に視線を逸らしたのはアナーシェだった。
後ろから声を掛けられて反応したのだ。
大きな身体の陰から見えたのは、ブロンドの美しい女性。
見てはいけないものを見てしまった気分で、ぱっと視線を逸らし、再び二人に視線を戻した。
彼は旅行用のキャリーバッグを手にしていた。
彼を乗せた飛行機が到着するのを彼女が待っていて、こうして彼を迎えに来たのだろう。
タクシー乗り場を調べなければならないような、待っている人がいない自分とは大違いだ。
彼はわたしとの未来を否定して、新しい道を歩いているのだ。
隣にいる彼女は、今度こそ彼の未来になりうる女性なのだろうか。
それとも、もうすでに‥‥。
ぼんやりと左手の薬指に視線を彷徨わせたが、影になっていて確認することができない。
彼は彼女に腕をとられて、わたしがいるのと反対方向に足を踏み出した。
一瞬、彼が振り返ろうとしたのを見て、わたしはとっさに辺りを見回して、待ち合わせの人物を探しているふりをした。
くだらない矜持だ。
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