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承
1
しおりを挟む夢を見始めたのは、王宮に移ってからだった。
まったくバラバラな時系列でぶつ切りにされた断片を見せる夢。
最初は【神々の目】の力がやっと自覚できたのかと思った。
未来を見通す力を得たのかと思ったが、なんだか様子がおかしい。
夢は、いつもマリアを中心に進んでいたし、まるでわたしがつくられた偽物の【神々の目】で、真の【神々の目】はマリアであるかのようなのだ。
※ ※ ※
マリアには、ふとしたときに白昼夢のようなビジョンが見えた。
そして、それはたいてい現実になる。
ものごころついた頃にはその力があったので、疑問に思ったこともなかった。
下町の友人に
「なんでそんなことが分かるの?」
と不思議がられることがひんぱんにあり、母に聞いてみて初めて、自分が他の人とは違うことを知った。
その上で、ビジョンのことは誰にも言わないように注意されたので、それ以来誰にも言っていない。
母が亡くなってから、わたしを引き取ってくれた伯爵、そしてそのお嬢さまのために力を使った。
お嬢さまが【神々の目】だとささやかれるようになって初めて、自分の力がそれなのではないかと考えるようになったが、やはり誰にも力のことを言うことができなかった。
母の形見のペンダントを握りしめ、「絶対に秘密にしておくのよ」という母の言葉を胸に刻んだ。
(もー、言っちゃえばいいのに!本人が言わなくても、バレちゃえばいいのに!ほら、嫌味なお嬢さまにドヤ!ってしたいじゃん)
夢の中で画面に向かって叫び、もだえるわたし。
その画面を見て叫んでいた自分が、もう一人の自分だと気付いたのは、しばらく経ってからだった。
それまでは、マリアがまるで【神々の目】を持つかのような夢を見るなんておかしいな、くらいにしか思わなかった。
はっきりと自覚したのは、物語の最後。
そこに至るまではけっこう長い。
まずは、王城にあがる〝お嬢さま〟についていくマリア。
曲がり角で王太子とぶつかり、そのときに形見のペンダントを落としてしまう。
次に王太子と出会うのは、マリアが庭で泣いているとき。
下町出身ということでいじめられ、隠れて泣いていたのだ。
王太子に見つかり、なぐさめられる。
そのときは、その男性が王太子だということは知らなかった。
ただ庭で会う、どこか気にある男性、というだけだった。
同時に、王太子は彼女が自分の婚約者の使用人だということは知っていたが、やはり気になる少女だと思ってた。
無意識のうちにふっと思い出したり、その少女が泣いていた庭につい足が向かったりした。
二人は、急速にひかれていった。
しかし王太子は〝お嬢さま〟の婚約者。
マリアは恋心を殺すしかなかった。
そこからあれこれマリアが活躍するエピソードがいくつもあり、ある日決定的な出来事が起こる。
王の暗殺未遂事件だ。
王は毒を盛られ、解毒薬がなければ危うい状況。
エリザベスは王太子によって「一緒に来てくれ」と連れ出され、反逆者(大臣)の部屋をあさる。
【神々の目】の力で、解毒薬の場所を!
そう迫られて〝お嬢さま〟はたじろいだ。
震えるばかりのエリザベス。
マリアにはビジョンが見えていて、解毒薬がどこにあるのか分かっていた。
時間は刻一刻と過ぎ、それと同時に王が助かる可能性も低くなっていく。
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