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領地編
親元へ返します。
しおりを挟む「この卵、半熟だわ。わたしのゆで卵はちゃんと火を通してって、いつも言ってるじゃない。作り直して。」
「でも‥‥」
使用人の少女の顔に、めんどくさいという感情がよぎった。
わたしもめんどくさい。
作り直して再び持って来るまで、待たなければならないのだから。
それでも、ここで折れてしまえば、きっと次回も半熟の卵がでてくることになるだろう。
少女は助け舟を求めて、わたしと同じテーブルにいる夫に目を向けた。
「あぁ、僕のはこれでいいよ。」
その視線の意味に気付いていながら、夫はにっこりと笑顔で返すのだから、いい性格をしている。
あぁ、どうせ夜に慰めるのだから、別に今ここではそれでいいのか。
使用人の少女がそそくさとキッチンへ下がるのを白けた気持ちで見ていたが、他の使用人の目もあるので姿勢を正した。
朝食を終えると、食卓にひじをついた夫が、なにやらこちらを見つめていた。
結婚前は、まるで同士のように、共犯者めいた視線を交わしたものだ。
彼の視線の意味が、今はもう分からない。
わたしは静かに夫を見つめ返した。
「あまりキツくあたるなよ。働きにくいという声があちこちから出ている。」
キツくあたる?
そう‥‥そう思われているのね。
「あちこちって、それはミナやナナやサビーナのことかしら?」
「そう言うな。皆、長く仕えてくれているものばかりだ。あれらの親にもよくよく頼まれている。」
つまり、わたしは新参者だから、ここのルールに従えということか。
そのうち、ナナが身ごもった。
ナナは親元に返されることになり、屋敷の裏口からひっそりと去っていった。
その後、女の使用人たちの夫への熱は、しばらく下火になった。
しかし少しすると、また元の状態に戻ったのだった。
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