上 下
55 / 105

奥さんです

しおりを挟む
 荷物が増えると買い取ってもらって、身軽になってまたダンジョンに行く感じなのでしょうか?ファンタジーでよくある、不思議な収納ができる道具や魔法ってないんでしょうか?
「なぁ」
 ルクマールさんが去ってすぐに別の冒険者から声をかけられました。
「さっきルクマールさんがうまそうに食べてたやつ何?」
「ああ、あれは、ダタズさんのお店の屋台、あっちで夜に売ろうかどうしようか試作した料理で、味の感想を聞かせてもらったんです」
「屋台?そういえば、昼間はおいしそうな肉食べてたやつらがいたな。あっちで買ったといってたが……ルクマールさんがあんなに美味しそうに食べてたんだから、さぞうまいんだろうな……」
 冒険者さんがよだれをたらしました。
「あっちだな。何時から営業だ?」
「えーっと、みなさん夜ご飯は何時くらいに食べられるんでしょうか?」
「そうだなぁ。大体日が暮れる前には食事の準備を終わらせるな」
 なるほど。明るいうちに食事の準備はしたほうがいいですもんね。食べるだけなら暗くなって焚火の光でも十分かもしれませんが。
「ありがとうございます。だいたい、それくらいの時間に開店できるように頑張って準備をします」
 ぺこりと頭を下げます。
「ありがとう?」
 冒険者さんがちょっと不思議な顔をしました。
 教えてもらったのですから、お礼を言いますよ。
 冒険者さんに背を向けてバーズの元に戻ります。ダタズさんの姿はまだありません。
 奥さん、どうかなぁ。検索情報だと、食べて飲んで割とすぐに効果が現れてましたよね?
 鍋には形よく切られた野菜がどっさりと入って煮られていました。
「シチューと言っていたし、味付けはダタズさんを待たないと無理でしょうが、先に柔らかくなるまで煮ておこうと思いまして」
 ふむふむ、そうですよね。
 日が暮れるか暮れないかっていう時間になったら夕飯の時間になるそうですし。シチューはじっくりに込んだほうがおいしいに決まっています!
「肉は、ずいぶん大きく切って入れてあるんだね?」
 2~3センチ角のイメージだったんだけど、とんかつくらいのサイズの肉が入っている。
 バーズが驚いた顔をした。
「え?そうですか?ああ、もしかしてユーキはまだ子供だから食べられる量が少ないからでしょうか?これくらい冒険者ならペロリですよ。肉だけお代わりする人もいますよ?」
 ん?
 もしかして、シチューってでっかい肉がどーんと中心に入った肉料理なのでしょうか……。一人1枚肉、その周りに野菜シチュー……なるほど。異文化です。
「フライ、売れそうだから下ごしらえしてるね」
「おーい、おーいっ」
 ダタズさんの声が聞こえてきました。
 遠くに見えるダタズさんの隣には、少し痩せてはいますが自分の足で歩いている女性の姿があります。
 女性に何か話をしながら、こちらを指さしています。
「ありがとう、ありがとう!ユーキ、君のおかげで妻はこの通り」
 ああ、やっぱり奥さんなんですね。
「ありがとうございます。なんと感謝を伝えればよいのか……」
 深々とダタズさんと奥さんが頭を下げます。
「あの、お礼なら、モモシシを狩ってきてくれたバーヌや、ボクにレアポーションを売ってくれた出張販売所の人とか……えっと……」
 あまりの感激っぷりに、目が泳ぎます。
「バーヌさん?」
 奥さんがバーヌを見ました。
「まぁ、奴隷……奴隷にお礼を言えと……」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

闇の錬金術師と三毛猫 ~全種類のポーションが製造可能になったので猫と共にお店でスローライフします~

桜井正宗
ファンタジー
Cランクの平凡な錬金術師・カイリは、宮廷錬金術師に憧れていた。 技術を磨くために大手ギルドに所属。 半年経つとギルドマスターから追放を言い渡された。 理由は、ポーションがまずくて回復力がないからだった。 孤独になったカイリは絶望の中で三毛猫・ヴァルハラと出会う。人語を話す不思議な猫だった。力を与えられ闇の錬金術師に生まれ変わった。 全種類のポーションが製造可能になってしまったのだ。 その力を活かしてお店を開くと、最高のポーションだと国中に広まった。ポーションは飛ぶように売れ、いつの間にかお金持ちに……! その噂を聞きつけた元ギルドも、もう一度やり直さないかとやって来るが――もう遅かった。 カイリは様々なポーションを製造して成り上がっていくのだった。 三毛猫と共に人生の勝ち組へ...!

異世界転移したけど、果物食い続けてたら無敵になってた

甘党羊
ファンタジー
唐突に異世界に飛ばされてしまった主人公。 降り立った場所は周囲に生物の居ない不思議な森の中、訳がわからない状況で自身の能力などを確認していく。 森の中で引きこもりながら自身の持っていた能力と、周囲の環境を上手く利用してどんどん成長していく。 その中で試した能力により出会った最愛のわんこと共に、周囲に他の人間が居ない自分の住みやすい地を求めてボヤきながら異世界を旅していく物語。 協力関係となった者とバカをやったり、敵には情け容赦なく立ち回ったり、飯や甘い物に並々ならぬ情熱を見せたりしながら、ゆっくり進んでいきます。

チートスキルで無自覚無双 ~ゴミスキルばかり入手したと思ってましたが実は最強でした~

Tamaki Yoshigae
ファンタジー
北野悠人は世界に突如現れたスキルガチャを引いたが、外れスキルしか手に入らなかった……と思っていた。 が、実は彼が引いていたのは世界最強のスキルばかりだった。 災厄級魔物の討伐、その素材を用いてチートアイテムを作る錬金術、アイテムを更に規格外なものに昇華させる付与術。 何でも全て自分でできてしまう彼は、自分でも気づかないうちに圧倒的存在に成り上がってしまう。 ※小説家になろうでも連載してます(最高ジャンル別1位)

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ゆーふー
ファンタジー
信号無視した車に轢かれ、命を落としたことをきっかけに異世界に転移することに。異世界で長生きするために主人公が望んだのは、「のんびり過ごせる力」 主人公は神様に貰った力でのんびり平和に長生きできるのか。

異世界ソロ暮らし 田舎の家ごと山奥に転生したので、自由気ままなスローライフ始めました。

長尾 隆生
ファンタジー
【書籍情報】書籍2巻発売中ですのでよろしくお願いします。  女神様の手違いにより現世の輪廻転生から外され異世界に転生させられた田中拓海。  お詫びに貰った生産型スキル『緑の手』と『野菜の種』で異世界スローライフを目指したが、お腹が空いて、なにげなく食べた『種』の力によって女神様も予想しなかった力を知らずに手に入れてしまう。  のんびりスローライフを目指していた拓海だったが、『その地には居るはずがない魔物』に襲われた少女を助けた事でその計画の歯車は狂っていく。   ドワーフ、エルフ、獣人、人間族……そして竜族。  拓海は立ちはだかるその壁を拳一つでぶち壊し、理想のスローライフを目指すのだった。  中二心溢れる剣と魔法の世界で、徒手空拳のみで戦う男の成り上がりファンタジー開幕。 旧題:チートの種~知らない間に異世界最強になってスローライフ~

辺境で魔物から国を守っていたが、大丈夫になったので新婚旅行へ出掛けます!

naturalsoft
ファンタジー
王国の西の端にある魔物の森に隣接する領地で、日々魔物から国を守っているグリーンウッド辺境伯爵は、今日も魔物を狩っていた。王国が隣接する国から戦争になっても、王国が内乱になっても魔物を狩っていた。 うん?力を貸せ?無理だ! ここの兵力を他に貸し出せば、あっという間に国中が魔物に蹂躙されるが良いのか? いつもの常套句で、のらりくらりと相手の要求を避けるが、とある転機が訪れた。 えっ、ここを守らなくても大丈夫になった?よし、遅くなった新婚旅行でも行くか?はい♪あなた♪ ようやく、魔物退治以外にやる気になったグリーンウッド辺境伯の『家族』の下には、実は『英雄』と呼ばれる傑物達がゴロゴロと居たのだった。 この小説は、新婚旅行と称してあっちこっちを旅しながら、トラブルを解決して行き、大陸中で英雄と呼ばれる事になる一家のお話である! (けっこうゆるゆる設定です)

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

処理中です...