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完売御礼です

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「もう、パンがあと3つしかない。せっかく追加で狩ってきてくれたが」
 パンが3つか。
「パンはあと3つになりましたので、ここからは肉のみの販売となります」
「あー、遅かったかぁ。仕方がない、手持ちの硬いパンで我慢するか」
 並んでいた冒険者ががっかりと肩を落とす。
 手持ちのパンが硬い?
 硬いなら、スープに浸したりして食べたらいいような気がします。
 ああ、どうせなら具だくさんの野菜スープがいいですね。
「肉を10本だ。パンなんていらん。肉があれば幸せだからなっ!」
 と、うん、そういう方向性もありますね。
 かなり見上げないといけない長身の冒険者さんが立っていました。背が高いだけじゃなくて体つきがとてもがっしりしてます。
 うん、肉が似合いそうな体型です。顔はソース系ガッツリイケメンですね。
「10本で、3本セット2つとバラ1つになりまして、銅貨12枚です」
 お金を受け取ってから10本の串を渡すと、二カッと嬉しそうに笑って去っていきました。
「お待たせしてすいません」
 ドサッ。と、重たいものが置かれる音とバーヌの声が聞こえてきました。
「うわっ、これはモモシシじゃないか、しかも若いモモシシ。柔らかくて上質な最高級の肉が取れるぞ」
 へぇ、最高級の肉!
 思わず振り返ってみます。
 あ、大きいです。馬くらいの大きさの足の短い牛みたいな動物が横たわっています。
 角がとても鋭くて、闘牛士がおなかを刺されてしまうシーンを想像してぞっとしました。
 バーヌが無事でよかった。
「ああ、でももうタレが残り少ないな」
「あと、どれくらいできますか?」
 並んでいるお客さんを見ます。
 噂を聞きつけてやってきた人が次々と後ろに並ぶため、売っても売っても列は短くなりません。
 ダタズさんに数を聞き、一人5本……いや、パンがないため10本買う人がいると考えると、とても足りないです。
「バーヌ、売り子頼んでもいい?」
 慌てて、列の最後尾までかけていきます。
「すいません、数が足りなくなりそうなので、ここまででおしまいとなります」
 声を張り上げる。
 それから、紙とペンを出して、紙に「半額」とたくさん書いていき、それを一つずつちぎります。
「申し訳ありません。特製のタレがなくなりそうです。せっかく並んでいただいたのですが、ご購入いただけないかもしれません。お詫びにこちらをどうぞ」
 半額とかいてちぎった紙を手渡す。
「こちらをお持ちいただければ、正規の値段の半分の価格でお売りいたします。手間をおかけするお詫びです。また、こちらを持ってきていただければ並ばずに優先的にお品をお渡しいたしますので。夕食時間、もしくは明日にはまた出店いたしますので。申し訳ありませんでした」
 と、頭を下げて半額券を渡していく。
「おお、いいのか?売り切れなんて別に坊主のせいでもなんでもないけどな」
「気にするな。遅かった俺たちが悪いんだよ。ダンジョンだって先に宝箱に到達した者に権利がある。のんびりしてた者が怒る筋合いじゃないからな」
 なんか……。
「あ、ありがとうございます。皆さんがとてもよい方なので、次もおいしいものを提供できるように頑張ります。また、もっと手際よく販売ができるようにいたしますので」
 せっかく並んだのに売り切れかよ!ふざけんな!と怒られると思ったので、先手を打って半額券を作ったのです。
 それでも、今食べたいんだよっ!というクレームの言葉を覚悟していたのですけれど……。
 思ったよりも、皆さんよい方でした。
「これ、なんて書いてあるんだ?店のマークか?」
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