上 下
36 / 105

計算違いでした

しおりを挟む
「俺にもくれ!3本だ!」
「はい、1本銅貨2枚、3本だと銅貨5枚におまけするよ、パンにはさんだほうは銅貨4枚、こっちも3つなら銅貨10枚におまけだ」
 と、接客係の冒険者さんの声に、すぐに次々に注文がはいる。
「俺にはパンのやつ3つくれ!」
「こっちは5本と5個だ」
 やっぱり。携帯食より絶対作りたてのご飯のほうがいいですよね。
 街まで戻らなくていいから、冒険者たちは得するし。
「ダタズさん、次々焼いてくださいね。ああ、足りるかな、お肉……」
 と、その前に、ちょっと混乱しているようですね。
「すいません、お客様、一列に並んで順番にお願いしてもいいですか?そうしないと、誰が先に注文したのか、何を注文したのか分からなくなってしまいます。こちらの能力不足でわがままを申して申し訳ありませんが、ご協力をお願いいたします」
 おいしいお肉を食べてお腹満足したところで、お店の手伝いに入ります。
「あー、並べって?」
「申し訳ありません。見ての通り子供の手伝いです。ダタズさんの奥さんが病に倒れてしまっていまして……」
 冒険者の一部からは不満が漏れます。我先にという生き方をしていた人間には「並ぶ」という行為はどうにもまどろっこしいのでしょう。
 しかし、こちらが悪いと謝ることで理解を示してくれた冒険者もいます。極めつけに病人がいる話で同情してくれた人たちが、素直に並び始めました。
 並んだ人たちが、並ばない人たちに睨みをきかせてくれたおかげで、さほどの混乱もなく綺麗な列ができました。
 ありがたいありがたい。
「坊主、すげー手腕だな……」
 手伝ってくれてる冒険者さんが唖然としました。
「ちょっと前にも似たようなところで働いたことがあるので」
 28歳、接客業。イベントごとの列整理とかもしたことがあるんです。
「手伝っていただきありがとうございました。これ、お礼には少ないのですが……」
 と、肉を挟んだパンを差し出す。
「おう、いいのか?ありがとうよ!」
「では、気を付けて行ってきてください。あの……お二人に何かあれば、私も悲しみますから……」
 冒険者ががしっと私の頭をつかんで乱暴になでまわしました。首がぐらんぐらんします。
「ダタズのためにありがとうな!」
 二人の後姿を眺めながら、出来上がり次第、お客さんに商品を手渡していく。
「おれは、肉7本な」
「はい、3本セットが2つとバラで1本になりますから、全部で銅貨12枚いただきます」
 即答すると、冒険者がうっとつまった。
「ん?今ので合ってるのか?」
 後ろの人に聞いています。
「えーっと、ちょっと待ってろ」
 指を立ててみて、お金の計算をしているようだ。
 ああそうか。計算を普段しない人もいるんですよね。何本だといくらになるっていう一覧表みたいなメニューを用意したほうがいいのでしょうか?
 それにしても一人で買っていく数が思った以上に多いです。
 よほど今まで肉に飢えていたのか、それとも単にもともと大ぐらいなのか……。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

優秀な姉の添え物でしかない私を必要としてくれたのは、優しい勇者様でした ~病弱だった少女は異世界で恩返しの旅に出る~

日之影ソラ
ファンタジー
前世では病弱で、生涯のほとんどを病室で過ごした少女がいた。彼女は死を迎える直前、神様に願った。 もしも来世があるのなら、今度は私が誰かを支えられるような人間になりたい。見知らぬ誰かの優しさが、病に苦しむ自分を支えてくれたように。 そして彼女は貴族の令嬢ミモザとして生まれ変わった。非凡な姉と比べられ、常に見下されながらも、自分にやれることを精一杯取り組み、他人を支えることに人生をかけた。 誰かのために生きたい。その想いに嘘はない。けれど……本当にこれでいいのか? そんな疑問に答えをくれたのは、平和な時代に生まれた勇者様だった。

別れた婚約者が「俺のこと、まだ好きなんだろう?」と復縁せまってきて気持ち悪いんですが

リオール
恋愛
婚約破棄して別れたはずなのに、なぜか元婚約者に復縁迫られてるんですけど!? ※ご都合主義展開 ※全7話  

辻ヒーラー、謎のもふもふを拾う。社畜俺、ダンジョンから出てきたソレに懐かれたので配信をはじめます。

月ノ@最強付与術師の成長革命/発売中
ファンタジー
 ブラック企業で働く社畜の辻風ハヤテは、ある日超人気ダンジョン配信者のひかるんがイレギュラーモンスターに襲われているところに遭遇する。  ひかるんに辻ヒールをして助けたハヤテは、偶然にもひかるんの配信に顔が映り込んでしまう。  ひかるんを助けた英雄であるハヤテは、辻ヒールのおじさんとして有名になってしまう。  ダンジョンから帰宅したハヤテは、後ろから謎のもふもふがついてきていることに気づく。  なんと、謎のもふもふの正体はダンジョンから出てきたモンスターだった。  もふもふは怪我をしていて、ハヤテに助けを求めてきた。  もふもふの怪我を治すと、懐いてきたので飼うことに。  モンスターをペットにしている動画を配信するハヤテ。  なんとペット動画に自分の顔が映り込んでしまう。  顔バレしたことで、世間に辻ヒールのおじさんだとバレてしまい……。  辻ヒールのおじさんがペット動画を出しているということで、またたくまに動画はバズっていくのだった。 他のサイトにも掲載 なろう日間1位 カクヨムブクマ7000  

三年分の記憶を失ったけど、この子誰?

富士とまと
恋愛
過去3年の記憶を失った。 目が覚めると知らない部屋。そして、知らない赤ちゃん。 この赤ちゃん、誰の子でしょう? 17歳で立太子した教え子の式典に出席した後の記憶がないんですけど。

異世界で俺だけレベルが上がらない! だけど努力したら最強になれるらしいです?

澤檸檬
ファンタジー
旧題 努力=結果  異世界の神の勝手によって異世界に転移することになった倉野。  実際に異世界で確認した常識と自分に与えられた能力が全く違うことに少しずつ気付く。  異世界の住人はレベルアップによってステータスが上がっていくようだったが、倉野にだけレベルが存在せず、行動を繰り返すことによってスキルを習得するシステムが採用されていた。  そのスキル習得システムと異世界の常識の差が倉野を最強の人間へと押し上げていく。  だが、倉野はその能力を活かして英雄になろうだとか、悪用しようだとかそういった上昇志向を見せるわけでもなく、第二の人生と割り切ってファンタジーな世界を旅することにした。  最強を隠して異世界を巡る倉野。各地での出会いと別れ、冒険と楽しみ。元居た世界にはない刺激が倉野の第二の人生を彩っていく。

仰る通り、貴方の子ではありません

ユユ
恋愛
辛い悪阻と難産を経て産まれたのは 私に似た待望の男児だった。 なのに認められず、 不貞の濡れ衣を着せられ、 追い出されてしまった。 実家からも勘当され 息子と2人で生きていくことにした。 * 作り話です * 暇つぶしにどうぞ * 4万文字未満 * 完結保証付き * 少し大人表現あり

本物の恋、見つけましたⅡ ~今の私は地味だけど素敵な彼に夢中です~

日之影ソラ
恋愛
本物の恋を見つけたエミリアは、ゆっくり時間をかけユートと心を通わていく。 そうして念願が叶い、ユートと相思相愛になることが出来た。 ユートからプロポーズされ浮かれるエミリアだったが、二人にはまだまだ超えなくてはならない壁がたくさんある。 身分の違い、生きてきた環境の違い、価値観の違い。 様々な違いを抱えながら、一歩ずつ幸せに向かって前進していく。 何があっても関係ありません! 私とユートの恋は本物だってことを証明してみせます! 『本物の恋、見つけました』の続編です。 二章から読んでも楽しめるようになっています。

さよなら、英雄になった旦那様~ただ祈るだけの役立たずの妻のはずでしたが…~

遠雷
恋愛
「フローラ、すまない……。エミリーは戦地でずっと俺を支えてくれたんだ。俺はそんな彼女を愛してしまった......」 戦地から戻り、聖騎士として英雄になった夫エリオットから、帰還早々に妻であるフローラに突き付けられた離縁状。エリオットの傍らには、可憐な容姿の女性が立っている。 周囲の者達も一様に、エリオットと共に数多の死地を抜け聖女と呼ばれるようになった女性エミリーを称え、安全な王都に暮らし日々祈るばかりだったフローラを庇う者はごく僅かだった。 「……わかりました、旦那様」 反論も無く粛々と離縁を受け入れ、フローラは王都から姿を消した。 その日を境に、エリオットの周囲では異変が起こり始める。

処理中です...