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交渉

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「聞いてくださいよ、店長。月の橋の噂で、ポーションを買い求める人が多いだけじゃなくて、私の作ったポーションの効き目が高いからって、もう大人気で」
 急にワントーン上げた声に切り替わった。嬉しそうな顔をしている。
「よし、値上げすればいい。しばらくは値段が上がっても買う人間は後を絶たないだろうからな。他のみんなにも伝えろ。明日からは倍の値段にするようにと。今日の客には明日から値上がりするから今日がお買い得だと言うように」
「はぁい。分かりました店長!」
 ミミリアがすぐに出て行く。
 残った店長に声をかける。
「店長、いくらあっても売れるんですよね?だったら、ノルマを超えた分の買い取り価格も上げてもらえますか?」
「は?何を言う、ちょっとディール様と顔見知りだからといって、好き勝手をさせるつもりはない」
 私の言葉に、店長はすぐに否定の言葉を発する。
「分かりました。じゃぁ、ノルマまでは頑張りますけど、時間がどれだけ余ろうがそれ以上は1本も作りません」
「馬鹿をいうな、稼ぎ時だ!1本でもたくさん作れ!」
 店長の言葉にふぅっと小さくため息をつく。
「私たちは、稼ぎ時でもなんでもありませんから。疲れるだけ損です。ノルマを達成すればそれでいいんです。1本銅貨10枚の買い取り価格になれば、やる気が出て、よりたくさんのポーションが作れそうな気がするんだけどなぁ……ねぇ、マチルダ」
 マチルダさんに視線を向ける。
「1本銅貨10枚……」
 マチルダさんがごくりと小さく唾を飲み込んだ。
「は、わかった、いいだろう。どうせノルマにプラスして数本のことだ。いきなりたくさん作れるわけもないからな。今は確かに1本でも余分にあれば儲かるからな」
「約束ですよ。表で売る値段を元に戻すまでは1本銅貨10枚でお願いしますね」
 にこりと笑うと、店長がぷいっと顔を反らしてドスドスと不快そうな足音を立てて去って行った。
「……買い取り価格が10倍……リョウナ、あんたすごいね」
 マチルダさんが驚いた顔をしたままだ。
 ダーナはどんな顔をしているのかと見ると、悔しそうに唇を噛んでいる。
「私は自分の力で借金を返してここを出ます。助けを待ったりなんてしない」
 ダーナの顔を見る。
「はっ、そう簡単にうまくいくものかっ!」
 ダーナが私を憎々し気な目で睨む。
「簡単かどうかは知らないけれど、努力は続ける。諦めて誰かの助けを待ち続けるなんてとてもできない」
 ダーナをにらみ返すと、あっさりとダーナは目を反らし、薬研で薬葉をすりつぶすのを再開した。あくまでも、その方法を貫くつもりらしい。
 ハナもマチルダも、もう足踏み式に切り替えて作業をしているというのに。
 私は、足踏み式でノルマ分を作り終えると、薬研に切り替える。借金が増えなきゃ、それでいい。
 店長をもうけさせるようなことをする気はない。
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