上 下
27 / 111

月の精?

しおりを挟む
「返してください、取り分って、それはもともと私のものです」
「誰も信じないわよ。じゃぁ、私はこれ、もらってくわね」
 ミミリアがダーナに手を振る。
「待って、持って行かないで、私のよ、返して」
 ミミリアの腰に縋り付いて止める。
「もうっ、うっとおしいわねっ!」
 ミミリアが近くにあった木の皿をつかみ私の額を殴った。
「これ以上痛い目に会いたくなければおとなしくしてなさいよっ」
 一瞬目の前がちかちかっとして、視界がおぼつかない。
 ちかちかが収まると、ミミリアをにらみ上げる。
「返してください」
「うるさいっ」
 ドンッと今度は肩に衝撃が走る。
 皿で殴られた。それから横からダーナのけりが入る。
 痛い……。
 痛みに、ミミリアの腰から手が離れ、地面に這いつくばった。
「返して、返してっ!」
 涙が落ちる。返して、返して!
 声が枯れそうなほど同じ言葉を口にする。
「眠れ」
 ふと、静かな声が頭上から降り注いだ。
 すると、まるで糸が切れたように、3人がぱたぱたと倒れる。
「有るべき者の手に帰れ」
 再び静かだけれどしっかりした、何もかも包み込むような不思議な声が頭上から降り注ぐ。
 すると、すぐに散らばっていたリュックの中身がリュックに戻っていく。
「ま、魔法みたい……」
 じゃなくて、魔法なのかな。この世界、魔法があるんだっけ?ポーションもすごいし。
 屋根の途切れた場所から、月明かりに照らされてキラキラとした青年が下りてきた。
「月の……精?」
 思わず口走りハッとする。
 魔法があるからといって、妖精の類もいるとは限らない。
 けれど、それほど、神秘的で美しい青年がそこにはいた。
 ふわりと音もたてずにゆっくりと空から……まるで月の光に紡がれて姿を現したように地に降り立った。
 薄い金色の髪。美しい濃い金の瞳。すけそうな白い肌に、白いローブのような服を身にまとっている。
 整った顔に、いつかどこかで見た天使の絵を思い出した。ううん、天使というよりは神々しささえ感じる。
「大丈夫?リョウナ?」
 え?私の名前をなぜ知っているの?という気持ちと。名前を知っているなんてやっぱり月の精か月の神さまなんじゃないかという思いとで、うまく返事を返すことができなかった。
「はい、荷物」
 月の精(仮名)が、リュックを差し出す。
「ありがとうございます」
 受け取りすぐにぎゅっと抱きしめる。
 よかった。戻ってきた。
「よかった。お礼ができて嬉しいよ」
「お礼?あの、私の方こそ何かお礼をしなくちゃ、でも、あいにくとその」
 こちらの世界のことがまだ全然分からないし、こちらの世界のお金もない。どうしよう。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

俺のスキルが無だった件

しょうわな人
ファンタジー
 会社から帰宅中に若者に親父狩りされていた俺、神城闘史(かみしろとうじ)。  攻撃してきたのを捌いて、逃れようとしていた時に眩しい光に包まれた。  気がつけば、見知らぬ部屋にいた俺と俺を狩ろうとしていた若者五人。  偉そうな爺さんにステータスオープンと言えと言われて素直に従った。  若者五人はどうやら爺さんを満足させたらしい。が、俺のステータスは爺さんからすればゴミカスと同じだったようだ。  いきなり金貨二枚を持たされて放り出された俺。しかし、スキルの真価を知り人助け(何でも屋)をしながら異世界で生活する事になった。 【お知らせ】 カクヨムで掲載、完結済の当作品を、微修正してこちらで再掲載させて貰います。よろしくお願いします。

【本編完結】ただの平凡令嬢なので、姉に婚約者を取られました。

138ネコ@書籍化&コミカライズしました
ファンタジー
「誰にも出来ないような事は求めないから、せめて人並みになってくれ」  お父様にそう言われ、平凡になるためにたゆまぬ努力をしたつもりです。  賢者様が使ったとされる神級魔法を会得し、復活した魔王をかつての勇者様のように倒し、領民に慕われた名領主のように領地を治めました。  誰にも出来ないような事は、私には出来ません。私に出来るのは、誰かがやれる事を平凡に努めてきただけ。  そんな平凡な私だから、非凡な姉に婚約者を奪われてしまうのは、仕方がない事なのです。  諦めきれない私は、せめて平凡なりに仕返しをしてみようと思います。

没落貴族と拾われ娘の成り上がり生活

あーあーあー
ファンタジー
 名家の生まれなうえに将来を有望視され、若くして領主となったカイエン・ガリエンド。彼は飢饉の際に王侯貴族よりも民衆を優先したために田舎の開拓村へ左遷されてしまう。  妻は彼の元を去り、一族からは勘当も同然の扱いを受け、王からは見捨てられ、生きる希望を失ったカイエンはある日、浅黒い肌の赤ん坊を拾った。  貴族の彼は赤子など育てた事などなく、しかも左遷された彼に乳母を雇う余裕もない。  しかし、心優しい村人たちの協力で何とか子育てと領主仕事をこなす事にカイエンは成功し、おまけにカイエンは開拓村にて子育てを手伝ってくれた村娘のリーリルと結婚までしてしまう。  小さな開拓村で幸せな生活を手に入れたカイエンであるが、この幸せはカイエンに迫る困難と成り上がりの始まりに過ぎなかった。

騎士志望のご令息は暗躍がお得意

月野槐樹
ファンタジー
王弟で辺境伯である父を保つマーカスは、辺境の田舎育ちのマイペースな次男坊。 剣の腕は、かつて「魔王」とまで言われた父や父似の兄に比べれば平凡と自認していて、剣より魔法が大好き。戦う時は武力より、どちらというと裏工作? だけど、ちょっとした気まぐれで騎士を目指してみました。 典型的な「騎士」とは違うかもしれないけど、護る時は全力です。 従者のジョセフィンと駆け抜ける青春学園騎士物語。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

【完結】最強ロリ聖女のゆるゆりグルメ紀行

吉武 止少
ファンタジー
 幼いころから聖女として魔物溢れる森で騎士たちを癒していたマリアベルは、無実の罪で陥れられて置き去りにされてしまう。  メイドのノノと逃げ出したマリアベルは美味しいものを食べながら他国でのんびり暮らそうとするが…… 「んっ……おいひい……」 「ぐっ!?」「きゃわわ」「とうとい……!」 「あ、けがした人が……!」 「け、けがが治った!」「聖女様……?」「天使だ……!」  これは最強ロリ聖女が美味しいものを食べながら幸せになるお話。 【第一部完結保証】第一部完結まで毎日投稿します。 【R15は保険です】

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

異世界でお取り寄せ生活

マーチ・メイ
ファンタジー
異世界の魔力不足を補うため、年に数人が魔法を貰い渡り人として渡っていく、そんな世界である日、日本で普通に働いていた橋沼桜が選ばれた。 突然のことに驚く桜だったが、魔法を貰えると知りすぐさま快諾。 貰った魔法は、昔食べて美味しかったチョコレートをまた食べたいがためのお取り寄せ魔法。 意気揚々と異世界へ旅立ち、そして桜の異世界生活が始まる。 貰った魔法を満喫しつつ、異世界で知り合った人達と緩く、のんびりと異世界生活を楽しんでいたら、取り寄せ魔法でとんでもないことが起こり……!? そんな感じの話です。  のんびり緩い話が好きな人向け、恋愛要素は皆無です。 ※小説家になろう、カクヨムでも同時掲載しております。

処理中です...