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大好きな匂い

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 店の外はにぎわっているけれど、店の中はポーションが棚に並んでいるけれど客の姿はない。店長が奥に座っているだけ。お客は皆女の子目当てなのだろう。いや、ポーションが目的であれば、他にも店があるのだからこの店を選ぶ必要はないのか。
「こっちよ」
 ナナミアちゃんが店の奥の扉を開いて、薄暗い廊下を進んでいく。4mほど進むと、古びた扉があり、ナナミアちゃんが開いて中に声をかけた。
「新人、かわいがってやりな」
 ドアの中というか、外は中庭のような場所だった。屋根はあるけれど、壁はない。
 中には3人の女性がいた。表で働いている女性とは違い、汚れた服装の生活に疲れたたような表情の女の人が一斉にこちらに視線を向ける。
 それぞれが、簡単な木の台の上で何か作業をしていた。ポーションの瓶に青汁を入れている人もいる。
 ここで、ポーションを作っているのだ。大きな籠がいくつか置かれ葉が見える。あれが材料となる薬葉なのだろう。
 ああ、それよりも、ドアを開いた瞬間にふわりと舞う匂い。
 少し青臭くて、そしてさわやかな5月の風を連想させるこの香り……。
 懐かしい、大好きな……実家の香だ……。
 浩史が馬鹿にした私の実家。実家は農家。お茶農家……。摘まれた葉っぱはお茶の葉の香りに似ている。
 この香りをかぎながら作業できる。私は運がいい……。
 胸が熱くなりながら立ち尽くしていると、ドンッと背中を強く押された。
 あまりの勢いで、中庭に倒れこんで両手をつく。
「何をぐずぐずしてるのっ!さっさと入りなっ!」
 え?
 驚いて後ろを向くと、ナナミアちゃんが仁王立ちで私を見下ろしていた。
 目には憎しみの色が見える。
「元冒険者だか何だか知らないけど、私たちを馬鹿にしてるんだろ?ここに来れば女ならだれでも働けると思って、誰でもできる仕事だと思ったんだろ」
 何を言って……。ああでもディールさんも確かに、あそこはいつも人を募集してるから大丈夫だろうって言っていた。
「だけどね、私たちだってきれいになるために頑張ったり、流行の服を探したり、冒険者との会話についていけるようにモンスターの勉強したり努力してるんだよっ!」
 馬鹿にしてるわけじゃないけれど。でも、何も言い返すことができない。頑張っている子たちからすれば、女か男かもわからないようなズボン姿でふらりと働きたいなんて現れた私が癪に障るのはよくわかるから。
「あははは、残念だったね。表で働けなくて。お前は一生、ここでみじめに暮らせばいいんだよっ!」
 バタンと大きな音を立ててドアが閉められる。
 みじめ?
 立ち上がって、大きく息を吸い込む。
 ああ、いい香りだ。
 何がみじめなの?
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