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「お帰りなさいミリヤ」
 屋敷に入ると、お母様が両手を広げて待っていた。
「お母様、ただいま」
 貴族令嬢らしくはないと叱られることを覚悟で、駆けだした。
 両手を広げたお母様に飛びつく。
「良かったわ、元気になったのね」
「はい。もうお医者様もタウンハウスに戻っても大丈夫だろうって」
 10歳の私は、肺を患い、空気の良い領地で療養した方が良いだろうと半年間領地にもどっていた。
「馬車に乗っての長旅疲れたでしょう、お茶にしましょうか」
 母が私の手を取った。
「お母様、私もぎゅーして」
 と、私が母の両腕から解き放たれると、母に手がのびた。
「まぁまぁ、カリアは甘えん坊さんね」
 私と同じくらいの年齢の女の子が、母をお母様と呼び、母に抱きしめられた。
 カリア?
「誰?」
 混乱する頭でお母様の袖を引く。
「あら?やぁねぇ、半年合わなかっただけで忘れちゃうわけないわよね?それともミリヤももう一度抱きしめてほしい?」
 お母様がぱっと片手をカリアから離したときに、カリアが私を見て笑った。
 ニコリとではなく、ニタリと。
「さぁ、かわいい私の娘たち、お菓子は二人が大好きなレーズンのクッキーよ!」
「レーズンのクッキー?」
 驚きに声を上げると、お母様は、私の頭を撫でる。
「ふふふ、嬉しいでしょう?今日ミリヤが帰ってくると言うから、街で評判のお店から取り寄せたのよ」
 何を言っているの?
 私はレーズンは嫌い。
 お母様は忘れてしまったの?
「わーい、嬉しい!カリア、レーズンのクッキー大好き!毎日でも食べたい!」
 カリアと言う名の、見知らぬ少女が嬉しそうにステップを踏んだ。
 誰?
 あの子は、誰なの?
 答えが知りたくて、ずっと私のお世話をしてくれている侍女のメイの顔を見る。
 メイは20代前半の姉のような第二の母のような存在だ。
「さぁさぁ、このままではカリアお嬢様に全部クッキーを食べられてしまいますよ。ミリヤお嬢様、急ぎましょう」
 メイはまるでよくある光景のように、私を談話室へと促す。
 どうして?
 メイは、私がレーズンが嫌いなことを知っているよね?
 私の咳の原因となるものが混ざってしまうかもしれないと、食べるものは取り寄せたりせずにお屋敷の料理人がいつも作ってくれるのを知っているよね?
 なんで、何も言わないの?
 丸テーブルに、庭が一番よく見える場所にお母様、その隣にくっつくようにして座っているのがカリア。
 その向かい側に私の席が用意されていた。
「良かったわ、ミリヤがいないタウンハウスは寂しいもの」
「カリアがいるのに?」
「カリアも、ミリアが帰ってきて嬉しいでしょう?」
 お母様の言葉に、カリアが私を見る。
「うん、お姉ちゃんが帰ってきて嬉しいよ。ねぇ、早くクッキー食べようよ!」
 お姉ちゃん?
 私に妹はいなかったのに……。
 私は、公爵家の一人娘だったはずなのに。
 誰なの?
 何故、誰もがカリアがいることを不思議に思わないの?




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勢いだけの新連載。
不穏な感じでスタートでぇす。
感想ください!('◇')ゞ
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