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1カ月後
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私をはさんで右側にリードル。左側にエリエッタ。
3人そろって行動することが学園の風物詩になってきた入学後1カ月。
こ、これはまずいのでは?
いくらなんでもこんな状態では青薔薇会のメンバーと内緒の話もできやしない。
さすがにあなたたちの婚約者候補に相応しい人たちの情報をかき集めてるなんて言ったら、嫌よね?
さらに……。せっかくこんなに男女がたくさんいるというのに、家族で四六時中行動していたら出会いもくそもないのでは?
いくら、2人を守りたいと思っていても……これではいけません。親離れできないのはリードルやエリエッタではなく、子離れできないのは私の方でしょう。
その日の夕食時に、家族会議を開きました。
「リードル、入学から1か月たちました。私やエリエッタも学園生活に慣れて来ましたし、そろそろ一緒にいなくても大丈夫ですよ?」
「そうよ!お兄様!私とお義母様の一緒にいなくても大丈夫よっ!休み時間に来なくてもいいし、昼食は別々に食べればいいし、登下校も一緒じゃなくてもぜーんぜんいいんですわよ!」
エリエッタがリードルに高らかに言い放つ。
うんうん、エリエッタもいつまでもリードルに頼ってはいけないと思っていたようですね。
「うっ、ぐぐぐ……」
リードルが閉口した。
「ほら、リードルのことが大好きな皇太子殿下がいつも呼びに来るでしょう?さすがに……いくら好かれているからって、殿下に呼びに来させるのも……」
「あれは、呼びに来てるんじゃないっ!僕のことなど口実で、会いに……あー、くそっ。そうだよな。口実を作らせて、これ以上あいつがお義母様と話をするのも……確かに得策じゃない……」
最後の方が声が小さくてもにょもにょとしている。
「分かりました……でも……僕は、お義母様と学園で会えないのは寂しい……だから……家で、もう少し一緒にいる時間を……」
なんてかわいいこというんでしょうね。
「ええ、もちろん。なんなら、朝の鍛錬も一緒にする?ちょっと早起きしないといけないけれど……」
リードルがにやりと笑った。
「ええ、ぜひ!朝が苦手なエリエッタとは違って、僕は早起きも問題ないですから」
「わ、私だって、早起きくらいっ、早起きくらいっ」
「ふふ、エリエッタ。無理しなくていいわよ。鍛錬ですもの。早起きしても、エリエッタには退屈な時間だと思うわ。あなたはしっかり良く寝ていなさい」
エリエッタが寂しそうな顔をする。
そうよねぇ。1カ月たったといっても、まだ1カ月。リードルはすでに2年は王都で暮らしているけれど、エリエッタは新しい環境でまだ1カ月しか経っていないんですし。不安もありますよね。
===============
以下、長編化しちゃうわ、とぶった切った部分。せっかくなのであとがきにのせとくです
夢を思い出しました。
私……もし学校へ通うことが出来たら、騎士科を卒業して騎士になりたかったんです。
お父様は忙しく働き家にはなかなか帰ってこられませんでした。
この国には、将軍の下に4人の副将軍がいます。将軍が王都を守る軍のトップであるように、副将軍はそれぞれの4地方の軍のトップで、北将軍、南将軍、西将軍、東将軍と呼ばれているのですが……お父様はその中でも最強と言われる西将軍だったんですよね。
お父様は領地の運営の傍ら西将軍の仕事もこなす忙しい人で……子供である私とあまり話をすることもありませんでした。
唯一、お父様とお話できるのは、お父様が家で鍛錬をしている時間。
……いつしか、お父様と一緒に過ごしたくて私も鍛錬するようになったんですよね。お父様がいない時は、次にお父様がかえって来たときに褒めてもらいたくて一人で鍛錬を続け……。
義弟妹の面倒を見るようになって学校へ行くことが叶わなくなってから、すっかり騎士になる夢は忘れていました。
鍛錬も……。
「上達したな」というお父様の言葉が「義弟妹を頼む」に変わってからはやめてしまった。
お父様に褒められるには、義弟妹の面倒を見ることなんだと思って……。
まぁ、相変わらずお父様は忙しくて年に数回顔を合わせるだけだったのですが……。西将軍の座を退いてからは……今は領地運営に集中していらっしゃるのでしょうか。
「そうだわ、ハンナ、あなたの息子の服を譲ってくれない?ちょっとせっかく若返ったから体を動かしたいのだけれど、動きやすい服が欲しいのよ!ああ、もちろん新しい服を代わりにプレゼントするから」
ハンナが困った顔をする。
「構いませんが……うちの子バンはかなり……その、元気な子で」
「知ってるわ!子供によって随分違うものだなぁと思ったもの」
「どの服もすぐに汚すし、穴はあけるしで、つぎあてだらけで……」
「ふふふ、もちろん知ってるわよ。そういうので構わないわ。でも、バンは王都は駆けまわる森もないし退屈なんじゃない?」
今年10歳だったはずだ。母親のハンナと離れて生活するのも寂しいだろうと連れて来てもいいと言っては見たけれど。
「大丈夫ですよ。街の剣術教室に通うことになって張り切ってます」
「剣術教室?え?そんなのがあるの?」
「ええ。騎士にはなれませんが、兵士を目指す庶民が通うところだそうです。兵士養成学校入学前の子が結構通っているそうで」
い、行きたい!
私も、行きたい!いやいや、さすがに学校もあるし、行く時間はないか……。
「そ、その、剣術教室はどこで何時からなの?」
「日が昇ってから日が沈むまでいつでも開いてるみたいなんですよ。熱心な子は何時間も鍛錬するし、家の手伝いがある子は仕事の前とか後に通っていて。先生となっているのは兵士が入れ替わり立ち代わりみたいです。ときどき隊長クラスの偉い人や騎士様も教えに来てくれるとか。バンが嬉しそうに教えてくれました」
「へぇ……。兵の育成も国には大切なことですもんね……」
養成学校入学前から鍛えるのはありかもしれませんね。辺境伯領でも取り入れるといいかもしれません。やはり剣術を学ぶなら早いほうがいいですし。
……庶民は子供でも家の仕事を手伝うのは当たり前で、その手伝いに支障をきたさない時間帯も教室が開いているというのも素晴らしいですね。
「あら……奥様……これでは……」
ハンナの息子の服を譲ってもらって着替えて準備を整える。
「え?」
絶句しているハンナ。
「何か変?」
鏡に映る自分の姿を見る。
うん、どこから見ても、少年……。
あれ?おかしいな。37歳なのですが、15歳どころか、もっと幼い少年に見えるんですけど……。くっ。
身長が低いせいなの?それとも、バン君10歳の服を着ているせいなの?……って、10歳児の服がぴったりって……。
いやいや、バン君は、10歳にしては大柄……そう、大柄……たぶん。ええ。
リードルやエリエッタが10歳のころに身長がほぼ並んだことを思い出す。……。いや、もう気にしません。
「じゃぁ、ちょっと体を動かしてくるから。朝食までには戻るわね」
「え?おひとりで?」
ハンナが何か言いたそうだったけれども、ちょっとその辺をジョギングしたり庭の木にぶら下がって懸垂するだけのつもりだから。
――なんて、思っていたこともありました。
「ここはどこ?」
ちょっと屋敷を出て周辺をジョギングするだけのつもりだったんですよ。
周辺であるはずなんですけど……よく考えたら、王都生活2日目。全く地理的な……なんていうか、分からないです。東西南北、どの通りがどこに通じているのかも……知りませんでした。
まだ朝日が昇って間がないこともあり、街に人の姿はありません。いえ、もちろん人が起きてる気配がする家もあるんですが。
ドアを叩いてスイマセン、迷子になっちゃったんですけど、助けてくださいと言うには……。
「あ、人の声……!」
どこかから人の声が聞こえてきます。
うん。ドアを叩いて道を教えてくださいと言うより、外に居る人に尋ねた方がいいに決まってます。
声を頼りに通りを進んでいくと、ちょっと開けた場所に出ました。
広場ですね。広場には子供たちが10人ほどと大人が2人いて、皆木刀を構えて振っています。
こ、これはもしかして……!
大人の二人は、制服を着ています。兵です。
「剣術教室……」
3歳くらいの幼い子も一生懸命木刀を振ってます。
うわぁ、かわいい。その隣で木刀を構えている8歳くらいの男の子にそっくりなので、どうやら兄弟で来ているみたいです。
「おい、坊主。初めて見る顔だな。お前もやってみるか?」
坊主?
大人の一人がこちらを向いています。
30代半ばといったところでしょうか。分厚い筋肉に全身覆われています。眉はびしっと上を向いて厳しそうな感じだけれど目が優しそうな感じです。
「お前、ラッキーだぞ。今日は第三部隊隊長のバイセンさんが指導に来てくれてるんだ」
「バイセンさん?」
「そうだ。時期東将軍になると噂の実力者だぞ」
東将軍。ということは、めちゃくちゃ強い人ってことだよね。本当にすごい人が来てるんだ。
「おいおい、噂だよ、ただの噂。坊主、ほら、振ってみろ」
ぽーんと、木刀をバイセンさんが私に向かって放り投げてきた。
「はいっ!」
久しぶりだ。剣を手にするのは。あ、木刀だけども。
まずは右手でぐっと握りしめ、手に力が入り過ぎないようにぎゅっぎゅと開いたり閉じたりしてから握り直す。
そして左手を添えるように木刀を握る。
懐かしい。
随分離れていたけれど、木刀を手にしたとたんに、自然と手足が動いて構の姿勢になる。
それから、木刀を2度3度と振る。
ああ、全然駄目だ。やっぱり久しぶり過ぎてなまってる。これでは悪者から子供たちを守れないっ!
「坊主、お前誰かに習ったことあるのか?」
習ったといえば習ったと言えるのかな。本格的な指導をしてもらったことはないけれど、お父様に少しだけアドバイスをもらうことはあった。
「少し」
「少し?それにしてはずいぶんしっかり基本が出来ている。」
「まだまだ……全然です」
お父様に褒められたことは一度もないのだから。
「そんなことはないだろう」
バイセンさんが慰めの言葉をかけてくれるけれど、悔しくて唇をかみしめる。
「坊主は何のために剣を持つんだ?強くなりたいからか?兵になって出世するためか?」
バイセンさんの言葉にハッとなる。
昔は単にお父様に褒めてもらいたかっただけだ。だから、お父様が私に期待しているのは剣の腕ではないと思った時にあっさりとやめてしまった。……そのことを、今後悔している。
「守りたい人がいる」
「そうか。だったら、坊主は強くなるな」
ぽんっと頭を軽くなでられた。
「よし、稽古をつけてやる。かかってこい」
バイセンさんが、木刀を手に私の前に立ち構えた。
なんだか心がくすぐったくなった。頭を撫でられるのも、強くなると期待してくれるのも、稽古をつけてやると言われるのも……。
ぜんぶ、子供のころの私がお父様に求めていたものだ。
バイセンさんの正面にたち、木刀を構える。
……う、隙がない。
「ほらほら、向かい合って立ってるだけじゃ稽古にならないぞ。好きなようにかかってこい」
バイセンさんが私の持つ木刀を木刀の先でちょいっと弾いた。
あ、ちょっと今ので右脇に隙が。
「はぁ!」
打ち込むと、バイセンさんは上体を後ろに傾けながら私の繰り出した一撃を受け止める。
うわー、反応が早い。というか、私の剣が遅いんだ。
すぐに今度は傾けた体を支えるために半歩後ろに下がってバランスをとっている左太ももを狙って剣を振る。
カーンと、またも木刀でふさがれる。
「はっ、こりゃ基本どころじゃないな。相当やってる剣筋だ」
たんっと私のリーチでは木刀が届かないところまで離れるとバイセンさんが構え直す。
私の短い手では届かないけれど、この距離であればバイセンさんの剣は私に届く。
慌てて間合いを広げる。
どうすれば、バイセンさんに勝てる?
考えながら打ち込むけれど、どれもすぐにふさがれてしまう。
どれくらい木刀を振り回していただろうか。
バイセンさんに弾かれた木刀が私の手からすっぽ抜けて飛んで行ってしまった。
「おう、坊主。もう握力が続かないか。この辺にしよう」
カランカランと音を立てて木刀が地面を打つ。
「訓練をつけに来たつもりが、思いがけず俺もいい訓練になったよ」
バイセンさんが私が落とした木刀を拾って、持ってきてくれた。
「坊主、すごいな」
「すごく……ない……一太刀も浴びせられなかった」
私の言葉に、もう一人の兵が笑い声をあげる。
「あははは、隊長に一太刀浴びせられるなら、すぐにお前もどっかの隊の隊長になれるよ。バイセン隊長に勝てる人間はこの国でも数えるほどしかない。一太刀浴びせられる人間だって、隊員の中に1人か2人だ。まぁ、その後ボロボロに負けるまでがセットだけど」
バイセンさんがそんな兵の頭を拳で軽くこつんと叩いた。
「笑いごとじゃないぞ。もっとお前らには強くなってもらわなきゃ困るんだからな。帰ったら特訓だ」
「うへー。勘弁してくださいよ、隊長」
バイセンさんが私を見た。
「剣を持つのは久しぶりなんだろう?」
え?何で分かったんだろうという顔をすると、手の平を指さした。
ああ、剣だこがないからか……。
「俺が次にここに来るのは10日後だ。それまでにはもう少し勘を取り戻しているだろう。また稽古をつけてやる」
また、稽古をつけてくれるんだ……。
お父様に言って欲しい言葉を、なぜバイセンさんはこうも私に言ってくれるんだろう……。
「期待してるぞ、坊主」
ほら、ね。嬉しくて胸が張り裂けそうだ。
********
ええ、ええ、お義母様じつはファザコン
そこに、父親に似たタイプの大人の男性登場!
大人の男性も出したかったんだい!
んが、長くなりそうなので、やめましたー。
(´・ω・`)しょぼーん
3人そろって行動することが学園の風物詩になってきた入学後1カ月。
こ、これはまずいのでは?
いくらなんでもこんな状態では青薔薇会のメンバーと内緒の話もできやしない。
さすがにあなたたちの婚約者候補に相応しい人たちの情報をかき集めてるなんて言ったら、嫌よね?
さらに……。せっかくこんなに男女がたくさんいるというのに、家族で四六時中行動していたら出会いもくそもないのでは?
いくら、2人を守りたいと思っていても……これではいけません。親離れできないのはリードルやエリエッタではなく、子離れできないのは私の方でしょう。
その日の夕食時に、家族会議を開きました。
「リードル、入学から1か月たちました。私やエリエッタも学園生活に慣れて来ましたし、そろそろ一緒にいなくても大丈夫ですよ?」
「そうよ!お兄様!私とお義母様の一緒にいなくても大丈夫よっ!休み時間に来なくてもいいし、昼食は別々に食べればいいし、登下校も一緒じゃなくてもぜーんぜんいいんですわよ!」
エリエッタがリードルに高らかに言い放つ。
うんうん、エリエッタもいつまでもリードルに頼ってはいけないと思っていたようですね。
「うっ、ぐぐぐ……」
リードルが閉口した。
「ほら、リードルのことが大好きな皇太子殿下がいつも呼びに来るでしょう?さすがに……いくら好かれているからって、殿下に呼びに来させるのも……」
「あれは、呼びに来てるんじゃないっ!僕のことなど口実で、会いに……あー、くそっ。そうだよな。口実を作らせて、これ以上あいつがお義母様と話をするのも……確かに得策じゃない……」
最後の方が声が小さくてもにょもにょとしている。
「分かりました……でも……僕は、お義母様と学園で会えないのは寂しい……だから……家で、もう少し一緒にいる時間を……」
なんてかわいいこというんでしょうね。
「ええ、もちろん。なんなら、朝の鍛錬も一緒にする?ちょっと早起きしないといけないけれど……」
リードルがにやりと笑った。
「ええ、ぜひ!朝が苦手なエリエッタとは違って、僕は早起きも問題ないですから」
「わ、私だって、早起きくらいっ、早起きくらいっ」
「ふふ、エリエッタ。無理しなくていいわよ。鍛錬ですもの。早起きしても、エリエッタには退屈な時間だと思うわ。あなたはしっかり良く寝ていなさい」
エリエッタが寂しそうな顔をする。
そうよねぇ。1カ月たったといっても、まだ1カ月。リードルはすでに2年は王都で暮らしているけれど、エリエッタは新しい環境でまだ1カ月しか経っていないんですし。不安もありますよね。
===============
以下、長編化しちゃうわ、とぶった切った部分。せっかくなのであとがきにのせとくです
夢を思い出しました。
私……もし学校へ通うことが出来たら、騎士科を卒業して騎士になりたかったんです。
お父様は忙しく働き家にはなかなか帰ってこられませんでした。
この国には、将軍の下に4人の副将軍がいます。将軍が王都を守る軍のトップであるように、副将軍はそれぞれの4地方の軍のトップで、北将軍、南将軍、西将軍、東将軍と呼ばれているのですが……お父様はその中でも最強と言われる西将軍だったんですよね。
お父様は領地の運営の傍ら西将軍の仕事もこなす忙しい人で……子供である私とあまり話をすることもありませんでした。
唯一、お父様とお話できるのは、お父様が家で鍛錬をしている時間。
……いつしか、お父様と一緒に過ごしたくて私も鍛錬するようになったんですよね。お父様がいない時は、次にお父様がかえって来たときに褒めてもらいたくて一人で鍛錬を続け……。
義弟妹の面倒を見るようになって学校へ行くことが叶わなくなってから、すっかり騎士になる夢は忘れていました。
鍛錬も……。
「上達したな」というお父様の言葉が「義弟妹を頼む」に変わってからはやめてしまった。
お父様に褒められるには、義弟妹の面倒を見ることなんだと思って……。
まぁ、相変わらずお父様は忙しくて年に数回顔を合わせるだけだったのですが……。西将軍の座を退いてからは……今は領地運営に集中していらっしゃるのでしょうか。
「そうだわ、ハンナ、あなたの息子の服を譲ってくれない?ちょっとせっかく若返ったから体を動かしたいのだけれど、動きやすい服が欲しいのよ!ああ、もちろん新しい服を代わりにプレゼントするから」
ハンナが困った顔をする。
「構いませんが……うちの子バンはかなり……その、元気な子で」
「知ってるわ!子供によって随分違うものだなぁと思ったもの」
「どの服もすぐに汚すし、穴はあけるしで、つぎあてだらけで……」
「ふふふ、もちろん知ってるわよ。そういうので構わないわ。でも、バンは王都は駆けまわる森もないし退屈なんじゃない?」
今年10歳だったはずだ。母親のハンナと離れて生活するのも寂しいだろうと連れて来てもいいと言っては見たけれど。
「大丈夫ですよ。街の剣術教室に通うことになって張り切ってます」
「剣術教室?え?そんなのがあるの?」
「ええ。騎士にはなれませんが、兵士を目指す庶民が通うところだそうです。兵士養成学校入学前の子が結構通っているそうで」
い、行きたい!
私も、行きたい!いやいや、さすがに学校もあるし、行く時間はないか……。
「そ、その、剣術教室はどこで何時からなの?」
「日が昇ってから日が沈むまでいつでも開いてるみたいなんですよ。熱心な子は何時間も鍛錬するし、家の手伝いがある子は仕事の前とか後に通っていて。先生となっているのは兵士が入れ替わり立ち代わりみたいです。ときどき隊長クラスの偉い人や騎士様も教えに来てくれるとか。バンが嬉しそうに教えてくれました」
「へぇ……。兵の育成も国には大切なことですもんね……」
養成学校入学前から鍛えるのはありかもしれませんね。辺境伯領でも取り入れるといいかもしれません。やはり剣術を学ぶなら早いほうがいいですし。
……庶民は子供でも家の仕事を手伝うのは当たり前で、その手伝いに支障をきたさない時間帯も教室が開いているというのも素晴らしいですね。
「あら……奥様……これでは……」
ハンナの息子の服を譲ってもらって着替えて準備を整える。
「え?」
絶句しているハンナ。
「何か変?」
鏡に映る自分の姿を見る。
うん、どこから見ても、少年……。
あれ?おかしいな。37歳なのですが、15歳どころか、もっと幼い少年に見えるんですけど……。くっ。
身長が低いせいなの?それとも、バン君10歳の服を着ているせいなの?……って、10歳児の服がぴったりって……。
いやいや、バン君は、10歳にしては大柄……そう、大柄……たぶん。ええ。
リードルやエリエッタが10歳のころに身長がほぼ並んだことを思い出す。……。いや、もう気にしません。
「じゃぁ、ちょっと体を動かしてくるから。朝食までには戻るわね」
「え?おひとりで?」
ハンナが何か言いたそうだったけれども、ちょっとその辺をジョギングしたり庭の木にぶら下がって懸垂するだけのつもりだから。
――なんて、思っていたこともありました。
「ここはどこ?」
ちょっと屋敷を出て周辺をジョギングするだけのつもりだったんですよ。
周辺であるはずなんですけど……よく考えたら、王都生活2日目。全く地理的な……なんていうか、分からないです。東西南北、どの通りがどこに通じているのかも……知りませんでした。
まだ朝日が昇って間がないこともあり、街に人の姿はありません。いえ、もちろん人が起きてる気配がする家もあるんですが。
ドアを叩いてスイマセン、迷子になっちゃったんですけど、助けてくださいと言うには……。
「あ、人の声……!」
どこかから人の声が聞こえてきます。
うん。ドアを叩いて道を教えてくださいと言うより、外に居る人に尋ねた方がいいに決まってます。
声を頼りに通りを進んでいくと、ちょっと開けた場所に出ました。
広場ですね。広場には子供たちが10人ほどと大人が2人いて、皆木刀を構えて振っています。
こ、これはもしかして……!
大人の二人は、制服を着ています。兵です。
「剣術教室……」
3歳くらいの幼い子も一生懸命木刀を振ってます。
うわぁ、かわいい。その隣で木刀を構えている8歳くらいの男の子にそっくりなので、どうやら兄弟で来ているみたいです。
「おい、坊主。初めて見る顔だな。お前もやってみるか?」
坊主?
大人の一人がこちらを向いています。
30代半ばといったところでしょうか。分厚い筋肉に全身覆われています。眉はびしっと上を向いて厳しそうな感じだけれど目が優しそうな感じです。
「お前、ラッキーだぞ。今日は第三部隊隊長のバイセンさんが指導に来てくれてるんだ」
「バイセンさん?」
「そうだ。時期東将軍になると噂の実力者だぞ」
東将軍。ということは、めちゃくちゃ強い人ってことだよね。本当にすごい人が来てるんだ。
「おいおい、噂だよ、ただの噂。坊主、ほら、振ってみろ」
ぽーんと、木刀をバイセンさんが私に向かって放り投げてきた。
「はいっ!」
久しぶりだ。剣を手にするのは。あ、木刀だけども。
まずは右手でぐっと握りしめ、手に力が入り過ぎないようにぎゅっぎゅと開いたり閉じたりしてから握り直す。
そして左手を添えるように木刀を握る。
懐かしい。
随分離れていたけれど、木刀を手にしたとたんに、自然と手足が動いて構の姿勢になる。
それから、木刀を2度3度と振る。
ああ、全然駄目だ。やっぱり久しぶり過ぎてなまってる。これでは悪者から子供たちを守れないっ!
「坊主、お前誰かに習ったことあるのか?」
習ったといえば習ったと言えるのかな。本格的な指導をしてもらったことはないけれど、お父様に少しだけアドバイスをもらうことはあった。
「少し」
「少し?それにしてはずいぶんしっかり基本が出来ている。」
「まだまだ……全然です」
お父様に褒められたことは一度もないのだから。
「そんなことはないだろう」
バイセンさんが慰めの言葉をかけてくれるけれど、悔しくて唇をかみしめる。
「坊主は何のために剣を持つんだ?強くなりたいからか?兵になって出世するためか?」
バイセンさんの言葉にハッとなる。
昔は単にお父様に褒めてもらいたかっただけだ。だから、お父様が私に期待しているのは剣の腕ではないと思った時にあっさりとやめてしまった。……そのことを、今後悔している。
「守りたい人がいる」
「そうか。だったら、坊主は強くなるな」
ぽんっと頭を軽くなでられた。
「よし、稽古をつけてやる。かかってこい」
バイセンさんが、木刀を手に私の前に立ち構えた。
なんだか心がくすぐったくなった。頭を撫でられるのも、強くなると期待してくれるのも、稽古をつけてやると言われるのも……。
ぜんぶ、子供のころの私がお父様に求めていたものだ。
バイセンさんの正面にたち、木刀を構える。
……う、隙がない。
「ほらほら、向かい合って立ってるだけじゃ稽古にならないぞ。好きなようにかかってこい」
バイセンさんが私の持つ木刀を木刀の先でちょいっと弾いた。
あ、ちょっと今ので右脇に隙が。
「はぁ!」
打ち込むと、バイセンさんは上体を後ろに傾けながら私の繰り出した一撃を受け止める。
うわー、反応が早い。というか、私の剣が遅いんだ。
すぐに今度は傾けた体を支えるために半歩後ろに下がってバランスをとっている左太ももを狙って剣を振る。
カーンと、またも木刀でふさがれる。
「はっ、こりゃ基本どころじゃないな。相当やってる剣筋だ」
たんっと私のリーチでは木刀が届かないところまで離れるとバイセンさんが構え直す。
私の短い手では届かないけれど、この距離であればバイセンさんの剣は私に届く。
慌てて間合いを広げる。
どうすれば、バイセンさんに勝てる?
考えながら打ち込むけれど、どれもすぐにふさがれてしまう。
どれくらい木刀を振り回していただろうか。
バイセンさんに弾かれた木刀が私の手からすっぽ抜けて飛んで行ってしまった。
「おう、坊主。もう握力が続かないか。この辺にしよう」
カランカランと音を立てて木刀が地面を打つ。
「訓練をつけに来たつもりが、思いがけず俺もいい訓練になったよ」
バイセンさんが私が落とした木刀を拾って、持ってきてくれた。
「坊主、すごいな」
「すごく……ない……一太刀も浴びせられなかった」
私の言葉に、もう一人の兵が笑い声をあげる。
「あははは、隊長に一太刀浴びせられるなら、すぐにお前もどっかの隊の隊長になれるよ。バイセン隊長に勝てる人間はこの国でも数えるほどしかない。一太刀浴びせられる人間だって、隊員の中に1人か2人だ。まぁ、その後ボロボロに負けるまでがセットだけど」
バイセンさんがそんな兵の頭を拳で軽くこつんと叩いた。
「笑いごとじゃないぞ。もっとお前らには強くなってもらわなきゃ困るんだからな。帰ったら特訓だ」
「うへー。勘弁してくださいよ、隊長」
バイセンさんが私を見た。
「剣を持つのは久しぶりなんだろう?」
え?何で分かったんだろうという顔をすると、手の平を指さした。
ああ、剣だこがないからか……。
「俺が次にここに来るのは10日後だ。それまでにはもう少し勘を取り戻しているだろう。また稽古をつけてやる」
また、稽古をつけてくれるんだ……。
お父様に言って欲しい言葉を、なぜバイセンさんはこうも私に言ってくれるんだろう……。
「期待してるぞ、坊主」
ほら、ね。嬉しくて胸が張り裂けそうだ。
********
ええ、ええ、お義母様じつはファザコン
そこに、父親に似たタイプの大人の男性登場!
大人の男性も出したかったんだい!
んが、長くなりそうなので、やめましたー。
(´・ω・`)しょぼーん
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「お願いしますっ、たすけてください!!」
※体調不良の影響でお返事を行えないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じさせていただいております。
妖精の取り替え子として平民に転落した元王女ですが、努力チートで幸せになります。
haru.
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(❁ᴗ͈ˬᴗ͈)⁾⁾⁾ペコ
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