上 下
43 / 159

42 満身創痍

しおりを挟む
「うごーっ、感動だぜっ!」
 マージが泣いた。
「そうか、我が剣は主に捧げるっていうやつだなっ!4Fの人間は、すでに4Sという主を見つけることができたのかっ!」
 い?
「それはどうかな?」
 フレッドが困った顔をする。
「そうだよな。高等部に進学するだけが人生じゃないもんな。高等部に進学して騎士になった者に仕えるっていうのを夢にしたっていいんだもんなっ!信用できる主を持てるなんて、人生この上ない幸せだぞっ!」
 と、袖口で涙をぬぐいながらマージが熱弁する。
「そ、そうだよ、たとえ進学が叶わなくたって、僕たちの人生は終わるわけじゃない」
 ん?あれ?クラスメイトの目がキラキラし始めたよ。
「そうですね。逆境に陥ろうとも、腐らず勉学に励む人間と、ある程度の位置で満足して努力を怠り他の物をさげすむ人間、求められるのはどちらでしょう」
 フレッドの言葉にさらに目の輝きが増す。
 いやぁ、なんていうの?フレッドって、やっぱり有能だよね。人の心を掌握すると言うか洗脳するというか、なんか、こう、やる気を引き出す言葉上手に使うことができるあたり、上に立つ人間向きというか……。カリスマ的だよねぇ。
 ピィーーっと高い笛の音が鳴り響いた。
 コートの中の選手たちが動きを止め、整列していく。
 模擬剣を取られた選手はすでにコート外だ。
 残っていた選手はわずか20名ほど。
 Sクラスは7名残っている。Aクラスが5名。Bクラスが2名。Dクラスが1名EとFはゼロ。
「さすがSクラスは圧勝かな」
 と、誰がの言葉に、フレッドがつぶやいた。
「すごいな、Cクラス」
 うんと、頷く。
「かっこいいな、Cクラス」
 うんと、頷く。
 Cクラスの生徒は6人残っていた。Sクラスには負ける。けど、AクラスやBクラスには勝ったのだ!
 ただ、SクラスやAクラスと違い、満身創痍と呼びたくなるほどの姿だ。
 必死に全力で戦い抜いた。
 その末、最後までコートに立っていられた。そう思うと胸熱である。
 終わりに近く、コートの中の人数が減るばほど、不利になるだろう。SクラスもAクラスもBクラスも、Cクラスを狙うようになるはずだ。その状況で6人残ったのだ。
「順位を発表する。1位Sクラス、2位Aクラス、3位Bクラス、4位Cクラス……」
「ちょっ、なんでだよっ!Sクラスの次はCだろっ!」
 マージが怒った。
「残った人数勝負じゃないからね。残った人数の模擬剣に、他のクラスから奪った模擬剣の数を足した合計で順位が決まるから」
 と、クラスメイトの一人がルール説明をしてくれる。
 ……って、補給班のメンバーだ。事前にいろいろ情報集めてるんだね。ほかの競技についても詳しいのかな。
「な、なんだよ。それ、戦争だったら、生き残った人間が多いほうがいいだろ?なんで、殺した人間が多いほうが優秀なんだよっ」
 マージが悔しそうにつぶやく。
「ほんっと、マージは将軍向きかもね」
 フレッドがマージの背中を叩いた。
「でも、これはルールがあるなかでの競技だからね。その競技でどのように勝ち星を挙げるかが、司令塔の役目だ。質じゃなく数。奪いやすいところからまずは模擬剣を奪いにかかる。人数が多いうちにいくつ取れるかが勝負の分かれ目だったんだろうね。Cクラスの選手を誰かが抑えている間に、AクラスやBクラスはEやFから奪っていったんだろう」
「うー、うーっ」
 マージがうなってる。理解はしたけど、まだ納得しきれないってところかな。
 気持ち的にはボロボロになってまで頑張った人たちに感情移入しちゃう気持ちは分かるけど。かといって涼しい顔してる人間が努力してないかといえば、兄1とか聖剣なんて言われてるけど、努力も人一倍どころか人5倍くらいしてるの知ってるからね。
 だから、まぁ、勝負は勝負だったというしか……。
しおりを挟む
感想 229

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

えっ、これってバッドエンドですか!?

黄昏くれの
恋愛
ここはプラッツェン王立学園。 卒業パーティというめでたい日に突然王子による婚約破棄が宣言される。 あれ、なんだかこれ見覚えがあるような。もしかしてオレ、乙女ゲームの攻略対象の一人になってる!? しかし悪役令嬢も後ろで庇われている少女もなんだが様子がおかしくて・・・? よくある転生、婚約破棄モノ、単発です。

【完結】異世界転生した先は断罪イベント五秒前!

春風悠里
恋愛
乙女ゲームの世界に転生したと思ったら、まさかの悪役令嬢で断罪イベント直前! さて、どうやって切り抜けようか? (全6話で完結) ※一般的なざまぁではありません ※他サイト様にも掲載中

私を選ばなかったくせに~推しの悪役令嬢になってしまったので、本物以上に悪役らしい振る舞いをして婚約破棄してやりますわ、ザマア~

あさぎかな@電子書籍二作目発売中
恋愛
乙女ゲーム《時の思い出(クロノス・メモリー)》の世界、しかも推しである悪役令嬢ルーシャに転生してしまったクレハ。 「貴方は一度だって私の話に耳を傾けたことがなかった。誤魔化して、逃げて、時より甘い言葉や、贈り物を贈れば満足だと思っていたのでしょう。――どんな時だって、私を選ばなかったくせに」と言って化物になる悪役令嬢ルーシャの未来を変えるため、いちルーシャファンとして、婚約者であり全ての元凶とである第五王子ベルンハルト(放蕩者)に婚約破棄を求めるのだが――?

逆ハーレムエンド? 現実を見て下さいませ

朝霞 花純@電子書籍化決定
恋愛
エリザベート・ラガルド公爵令嬢は溜息を吐く。 理由はとある男爵令嬢による逆ハーレム。 逆ハーレムのメンバーは彼女の婚約者のアレックス王太子殿下とその側近一同だ。 エリザベートは男爵令嬢に注意する為に逆ハーレムの元へ向かう。

悪役令嬢に転生しましたが、行いを変えるつもりはありません

れぐまき
恋愛
公爵令嬢セシリアは皇太子との婚約発表舞踏会で、とある男爵令嬢を見かけたことをきっかけに、自分が『宝石の絆』という乙女ゲームのライバルキャラであることを知る。 「…私、間違ってませんわね」 曲がったことが大嫌いなオーバースペック公爵令嬢が自分の信念を貫き通す話 …だったはずが最近はどこか天然の主人公と勘違い王子のすれ違い(勘違い)恋愛話になってきている… 5/13 ちょっとお話が長くなってきたので一旦全話非公開にして纏めたり加筆したりと大幅に修正していきます 5/22 修正完了しました。明日から通常更新に戻ります 9/21 完結しました また気が向いたら番外編として二人のその後をアップしていきたいと思います

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

処理中です...