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300年の間に見たもの

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 追い出された街を思い出す。そういえば、つるんときれいな表面の石づくりの家が並んでいた。あのレベルの建物なら300年で朽ちることはないのかな?いや、家の問題よりも……。
「ディラの国は、魔力0でも追い出されない?」
『当たり前だろ。魔力0で追い出すなんて聞いたことがない』
「いや、でも、あの街は魔力0だからって……」
 まぁいいか。あの街が特殊という可能性もある。300年前から状況が変わった可能性もあるけれど、とりあえず、ここに居続けても仕方がないことだけは確かだ。
「じゃぁ、ディラの家に行こうか」
『うん』
 嬉しそうなディラ。……そこで、はたと気が付く。
 いや、違う、違う。魔力0で追い出されるとか追い出されないとかそんなことはどうでもいい。
 それは街に住む……この世界で生活するための情報だ。
 それよりも私にとって大切なことがあるじゃないか。
「ディラは知ってる?日本に帰る……えっと、異世界から召喚された者が」
 日本に帰る方法。私にとって大切な情報はそっちだ。ないと言われたらどうしよう。ないと言われる覚悟をしながら尋ねても実際に言われたらショックを受けるだろうと思うと、声が小さくなる。
『あ、ユキ、人がいる』
 へ?
 ディラが指をさす方向に、確かに人の姿があった。
 薄汚れた布を頭からすっぽりかぶって街に向かって歩いている。
 布は日よけ替わりなのだろうか。それともファッション?
 どうにも足取りはふらふらしてるように見える。あ、倒れた。
『あー。あれはダメだな。かなり弱ってる』
 ディラがこともなげに非常なことを口にする。
「ディラ、簡単にダメとか言わないでっ!」
『いや、でも、300年の間に、ずいぶん見た。街へ向かう途中で息絶えた者。街から出て行くあてもなく弱って亡くなる者』
 ディラの言葉に、怒った自分が恥ずかしくなる。
 そうか。ディラは冷たいわけじゃない。きっと、私に声をかけたように、皆に声をかけ続けたのだろう。ただ、幽霊の声を聴ける人間がいなかった。
 無駄だと、わかっていても300年間……声をかけ続けた。300年間、手が届く距離……だけれど、声が届かない人たちが亡くなっていくのを見続けた。きっと、エリクサーや収納鞄の埋まっている場所を忘れずに覚えていたのも、いつか誰かを助けるため。
「そうだ!私にはエリクサーがある」
 指につけて舐めるだけでも助かる霊薬。
 慌てて倒れた人に向かって駆けだす。手にはディラの剣。ああ、走りにくい。
 ……。1分1秒でも早く駆け付けたいのに。2リットル入りのペットボトル2本くらい持って走ってるみたいだ。
「ごめん」



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届かない声……切ない
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