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「エリータ、お前との婚約を破棄する」
 皇太子殿下が、異世界から現れた聖女を伴って誕生祝賀会に現れたと思ったら唐突に宣言した。
「承知したしました」
 国一番の美しさとうたわれる所作で、頭を下げる。
 ま、知ってたしね。
 3年前、異世界から黒髪のちょっと子供っぽい顔つきのセイラが現れてからの殿下の変化。
 私との月に1度のお茶会にセイラを招き始めたのが2年半前。殿下がセイラとのお茶会を始めたのが2年前。
 1年半前には私とのお茶会はなくなり、1年前から今に至るまでの1年間シュイナード殿下と顔を合わせたのは2度のみ。しかもその2度ともがセイラが殿下の隣で腕を組んでいるという。
 もともと10歳の時に公爵令嬢というだけで選ばれた婚約者だし。お互いに愛だの恋だのって感情はなくて、義務だの責任だのだけで繋がる関係だったわけで。特に、私側の責務。
「新たに、私はセイラと婚約する」
 はいはい。そうでしょうね。どうぞどうぞご勝手に。
「そこでだ。エリータにはセイラのお世話係に任命する」
 ……は?
 元婚約者を、現婚約者のお世話係?ありえなくない?
 しかも、仮にも私、公爵令嬢なんですけど?
 貴族が別の貴族に仕えることはある。だけれどそれは王族や公爵家や侯爵家に、伯爵家や子爵家や男爵家の令嬢が仕えるのが通例だ。
 公爵令嬢が誰かのお世話係なんて、ありえないでしょう!
 さすがに、壇上の陛下はあんぐりと口を開け、宰相である父はその隣で目を吊り上げている。
「エリータさん、よろしくお願いしますね」
 ニコリとセイラが殿下の腕に体を押し付けたまま笑った。
 何故私が?
「……ああ、やっぱり無理かしら?そうよね私、シュナイード殿下を奪ってしまったのですもの……憎いですわよね?」
 フルフルと、セイラが小刻みに震えだす。憎いわけあるかい!のしつけてくれてやるわ!
「いえ、シュナイード殿下を奪われたなどと少しも思っておりませんわ。セイラ様は異世界から見知らぬ土地にいらしたにも関わらずこの世界のために力を貸してくださいました。感謝こそせよ、憎むだなんてとんでもない」
 異世界から来たから本当に常識知らずなのよね。公爵令嬢に世話させるのがどれだけ非常識なのか知らないとは……。
 っていうか、殿下もちゃんと教えてやれよ。いや、殿下も知らない可能性もある。
 そうだよねぇ。殿下の足りないところを補って欲しいからって、私が婚約者に選ばれたんじゃないかって噂もありましたし。
「本当?じゃあ、よろしくね!私、王妃教育をうけなくちゃならないみたいなんだけど、エリータさんは詳しいでしょう?今まで王妃教育受けていたから。せっかくだから、無駄にならないように私に教えてね」
 お前が無駄にさせた張本人やろがいっ!しかも憎んでないとは言ったけど、世話係を了承してねぇって!
 だけど、このまま非常識なセイラが王妃になってしまっては困るのは国民だ。……しかたがない……。
「ええ、かしこまりました。無駄にならないよう、セイラ様のご指導をさせていただきますわ」




=============
短編です。とりあえずの区切りまで書いてあります。
長編化したかったなー。
えーっと、約2万文字。色々書き足りない。
と、いうわけで、しばらくお付き合いください。
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