86 / 103
86
しおりを挟む
「あら、そう?上位貴族と結婚すれば玉の輿に乗れるわよ?綺麗なドレスに、美味しい食事。それから高価な宝石に」
ジョアン様の言葉に首を振る。
「じゃあ、相手がルーノでも?」
突然ジョアン様の口から飛び出た名前に、顔が赤くなる。
「あ、あの……」
うろたえる私の顔を、何もかも見透かしたような眼でジョアン様が見た。
「まさか、辺境伯のご子息様となんてとんでもない……っ!」
思いきり否定すると、ジョアン様ががっかりした顔をする。
「なんだ、もうルーノの身分を知ってるの……それは残念。じゃあ、質問を変えるわ。もし、ルーノが子爵や男爵だったら結婚したい?平民なら結婚したい?」
ルーノ様が平民?
「い、いいえ!いいえ!もし、ルーノ様が私と結婚するために爵位を捨てるとか、駆け落ちしようとか言われたら、逃げます。全力で逃げます……」
ジョアン様が笑った。
「まぁ、全力で……。それほどまでに嫌いなの?」
「私のためにルーノ様に何かを手放してもらいたくない……私のせいでルーノ様を苦労させたくない……。ルーノ様に幸せになってもらいたいから……だから、全力で……逃げます」
ジョアン様が声を上げて笑い出した。
「ふふふふふ、まぁ、ずいぶんとルーノは愛されているのねぇ。そう、ルーノの幸せを考えて全力で逃げるの……ふふふ」
笑いを止めると、ジョアン様は私の頬をそっと優しくなでた。
「あなたは、ルーノが幸せになるためになら何でもするのね……それほど愛しているのね」
ジョアン様には隠せない。
「……はい。私、ルーノ様を愛しています」
ジョアン様が小さく頷く。
「でも、それだけです。何も望んだりしません。ただ、ルーノ様の幸せを遠くから祈るだけです」
トントントンとちょうどノックの音がして、侍女が軽食を運んでくれた。
「話はここまでにしましょう。子爵家から出ること、仕事、済む場所、子育ての環境、悪いようにしないわ。任せてちょうだい。さぁ、食べて。そうだわ、またハンカチを持ってきてくださったのですって?」
それからはハンカチの刺繍の話などの雑談をして軽食をいただき帰った。
大規模舞踏会の日まで2週間ちょっと。ジョアン様に刺繍を気に入っていただいたので、今度は手袋に刺繍を頼まれたと言えば、お父様にあれやこれやと言われることもなく部屋で静かに過ごすことができた。
お父様は家を空けることが多く、その間にミリアといろいろな話をした。
子育てのことも少し話を聞くことができたけれど、あまり根堀りはほり聞いては怪しまれると思って深くは聞けなかった。
必要な物の多さや、覚えなくてはいけないことの多さに、ジョアンナ様がいろいろ話を聞くだけでもと言ってくださったことに改めて感謝の気持ちがわいた。
貴族ならば乳母や使用人の手を借りるし、平民は親類やご近所さんの手を借りることが当たり前だという。おしめにしても、おさがりとして必要が無くなった人のもとから必要な人のもとへと回されるとか。仕事をしている女性は手間賃を渡して子供を預かってもらうとか。そういった親類縁者やご近所との協力がない状態で子育てしようと思ったのは確かに無謀だった。
ジョアン様の言葉に首を振る。
「じゃあ、相手がルーノでも?」
突然ジョアン様の口から飛び出た名前に、顔が赤くなる。
「あ、あの……」
うろたえる私の顔を、何もかも見透かしたような眼でジョアン様が見た。
「まさか、辺境伯のご子息様となんてとんでもない……っ!」
思いきり否定すると、ジョアン様ががっかりした顔をする。
「なんだ、もうルーノの身分を知ってるの……それは残念。じゃあ、質問を変えるわ。もし、ルーノが子爵や男爵だったら結婚したい?平民なら結婚したい?」
ルーノ様が平民?
「い、いいえ!いいえ!もし、ルーノ様が私と結婚するために爵位を捨てるとか、駆け落ちしようとか言われたら、逃げます。全力で逃げます……」
ジョアン様が笑った。
「まぁ、全力で……。それほどまでに嫌いなの?」
「私のためにルーノ様に何かを手放してもらいたくない……私のせいでルーノ様を苦労させたくない……。ルーノ様に幸せになってもらいたいから……だから、全力で……逃げます」
ジョアン様が声を上げて笑い出した。
「ふふふふふ、まぁ、ずいぶんとルーノは愛されているのねぇ。そう、ルーノの幸せを考えて全力で逃げるの……ふふふ」
笑いを止めると、ジョアン様は私の頬をそっと優しくなでた。
「あなたは、ルーノが幸せになるためになら何でもするのね……それほど愛しているのね」
ジョアン様には隠せない。
「……はい。私、ルーノ様を愛しています」
ジョアン様が小さく頷く。
「でも、それだけです。何も望んだりしません。ただ、ルーノ様の幸せを遠くから祈るだけです」
トントントンとちょうどノックの音がして、侍女が軽食を運んでくれた。
「話はここまでにしましょう。子爵家から出ること、仕事、済む場所、子育ての環境、悪いようにしないわ。任せてちょうだい。さぁ、食べて。そうだわ、またハンカチを持ってきてくださったのですって?」
それからはハンカチの刺繍の話などの雑談をして軽食をいただき帰った。
大規模舞踏会の日まで2週間ちょっと。ジョアン様に刺繍を気に入っていただいたので、今度は手袋に刺繍を頼まれたと言えば、お父様にあれやこれやと言われることもなく部屋で静かに過ごすことができた。
お父様は家を空けることが多く、その間にミリアといろいろな話をした。
子育てのことも少し話を聞くことができたけれど、あまり根堀りはほり聞いては怪しまれると思って深くは聞けなかった。
必要な物の多さや、覚えなくてはいけないことの多さに、ジョアンナ様がいろいろ話を聞くだけでもと言ってくださったことに改めて感謝の気持ちがわいた。
貴族ならば乳母や使用人の手を借りるし、平民は親類やご近所さんの手を借りることが当たり前だという。おしめにしても、おさがりとして必要が無くなった人のもとから必要な人のもとへと回されるとか。仕事をしている女性は手間賃を渡して子供を預かってもらうとか。そういった親類縁者やご近所との協力がない状態で子育てしようと思ったのは確かに無謀だった。
40
お気に入りに追加
1,883
あなたにおすすめの小説
記憶を失くした彼女の手紙 消えてしまった完璧な令嬢と、王子の遅すぎた後悔の話
甘糖むい
恋愛
婚約者であるシェルニア公爵令嬢が記憶喪失となった。
王子はひっそりと喜んだ。これで愛するクロエ男爵令嬢と堂々と結婚できると。
その時、王子の元に一通の手紙が届いた。
そこに書かれていたのは3つの願いと1つの真実。
王子は絶望感に苛まれ後悔をする。
国王陛下、私のことは忘れて幸せになって下さい。
ひかり芽衣
恋愛
同じ年で幼馴染のシュイルツとアンウェイは、小さい頃から将来は国王・王妃となり国を治め、国民の幸せを守り続ける誓いを立て教育を受けて来た。
即位後、穏やかな生活を送っていた2人だったが、婚姻5年が経っても子宝に恵まれなかった。
そこで、跡継ぎを作る為に側室を迎え入れることとなるが、この側室ができた人間だったのだ。
国の未来と皆の幸せを願い、王妃は身を引くことを決意する。
⭐︎2人の恋の行く末をどうぞ一緒に見守って下さいませ⭐︎
※初執筆&投稿で拙い点があるとは思いますが頑張ります!
探さないでください。旦那様は私がお嫌いでしょう?
雪塚 ゆず
恋愛
結婚してから早一年。
最強の魔術師と呼ばれる旦那様と結婚しましたが、まったく私を愛してくれません。
ある日、女性とのやりとりであろう手紙まで見つけてしまいました。
もう限界です。
探さないでください、と書いて、私は家を飛び出しました。
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
愛されない花嫁は初夜を一人で過ごす
リオール
恋愛
「俺はお前を妻と思わないし愛する事もない」
夫となったバジルはそう言って部屋を出て行った。妻となったアルビナは、初夜を一人で過ごすこととなる。
後に夫から聞かされた衝撃の事実。
アルビナは夫への復讐に、静かに心を燃やすのだった。
※シリアスです。
※ざまあが行き過ぎ・過剰だといったご意見を頂戴しております。年齢制限は設定しておりませんが、お読みになる場合は自己責任でお願い致します。
私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。
あなたが選んだのは私ではありませんでした 裏切られた私、ひっそり姿を消します
矢野りと
恋愛
旧題:贖罪〜あなたが選んだのは私ではありませんでした〜
言葉にして結婚を約束していたわけではないけれど、そうなると思っていた。
お互いに気持ちは同じだと信じていたから。
それなのに恋人は別れの言葉を私に告げてくる。
『すまない、別れて欲しい。これからは俺がサーシャを守っていこうと思っているんだ…』
サーシャとは、彼の亡くなった同僚騎士の婚約者だった人。
愛している人から捨てられる形となった私は、誰にも告げずに彼らの前から姿を消すことを選んだ。
寵愛のいる旦那様との結婚生活が終わる。もし、次があるのなら緩やかに、優しい人と恋がしたい。
にのまえ
恋愛
リルガルド国。公爵令嬢リイーヤ・ロイアルは令嬢ながら、剣に明け暮れていた。
父に頼まれて参加をした王女のデビュタントの舞踏会で、伯爵家コール・デトロイトと知り合い恋に落ちる。
恋に浮かれて、剣を捨た。
コールと結婚をして初夜を迎えた。
リイーヤはナイトドレスを身に付け、鼓動を高鳴らせて旦那様を待っていた。しかし寝室に訪れた旦那から出た言葉は「私は君を抱くことはない」「私には心から愛する人がいる」だった。
ショックを受けて、旦那には愛してもられないと知る。しかし離縁したくてもリルガルド国では離縁は許されない。しかしリイーヤは二年待ち子供がいなければ離縁できると知る。
結婚二周年の食事の席で、旦那は義理両親にリイーヤに子供ができたと言い出した。それに反論して自分は生娘だと医師の診断書を見せる。
混乱した食堂を後にして、リイーヤは馬に乗り伯爵家から出て行き国境を越え違う国へと向かう。
もし、次があるのなら優しい人と恋がしたいと……
お読みいただき、ありがとうございます。
エブリスタで四月に『完結』した話に差し替えいたいと思っております。内容はさほど、変わっておりません。
それにあたり、栞を挟んでいただいている方、すみません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる