73 / 103
73
しおりを挟む
子爵家の名誉を守るために、アイリーンが産んだ子を自分の子として父親の元へ嫁げというのが、私の役割なら……。
「それでもやはり、ルーノ様は間違っていないと思います」
ルーノ様がゆっくりと体を離して私の顔を見つめる。
「いいや。間違っていた……。人を愛することを知ってからは……。家のために好きな人と別れさそうとすることは、つまりは不幸にするということだと気が付いた。家族なのに、不幸にしようとするのは間違っているだろう?」
「え?」
「家族なら、幸せを願うものだ……兄なら、家のことなら俺が何とかすると……弟の幸せを応援するべきだったんだ……」
「家族の幸せ……?」
お母様がもし生きていたら……。
お母様は私が幸せを願ってくれた?
子爵家を……出たいと言ったら……応援してくれた?
「愛を失うことがどれほど不幸なことなのか……。生きていくために、愛がどれほど大切なことなのか……俺はアイリーン……君が、好きだ」
え?
「どうして、そんなことを言うのですか……」
「君があの男に襲われているのを見て、生きた心地がしなかった。頭が沸騰して、感情が抑えられなくなって……アイリーンを守ってやれない自分が情けなくて……そして、何より……他の男に触れさせたくないと……好きだと自覚した。いいや、愛してるんだ。」
「受け入れられません」
「なぜだ!」
ルーノ様を不幸にしてしまうから。ルーノ様が言ったんだ。大切な人の幸せは願うものが当たり前だと。
ルーノ様に幸せになってほしいのだから……。
「聞かなかったことにします……」
「どうして、アイリーンだって、俺のことを好きだと、そう言ってくれただろう?」
「……ごめんなさい」
この謝罪は、気持ちを伝えてしまったことに対するものだ。
「なぜ……」
ルーノ様が悲しみの表情を浮かべる。
「兄さんっ!」
突然の声に、弾かれたようにルーノ様が私の肩から手を離した。
「アイリーンに何をしたんですっ!」
ルーノ様よりも少し若い青年が現れた。
こちらまで駆けてくると、ルーノ様を押しのけて私を背に庇った。
「兄さんっ!アイリーンに、何をしたんですかっ!許さない!」
ルーノ様と同じ色の髪の青年ごしに、ルーノ様の顔が見える。
その表情は何かを悟ったようなものだった。
「アイリーン……」
声にならない声で、口を動かすのが見えた。
「アイリーン、行こうっ!」
青年……ルーノ様を兄さんと呼ぶからきっと、弟なんだろう。
私の手を取ると、走り出した。
そして、人気のない屋敷の影に入ると自分の着ていた上着を脱いで私の肩にかけた。
「ドレスは破れて……あちこち汚れて血も……いったい、兄さんに何をされたの、アイリーン」
怒っているような泣きそうになっているような顔で、青年が私を見た。
目の色は、ルーノ様よりも少し青が強いんだ……顏は、ルーノ様よりも優しい感じ。
と、思わずまじまじと顔を見てしまうと、同じようにルーノ様の弟もまじまじと私の顔を見た。
===============
どうれくらい家のためっていう思いの強さがあるのか。
国のためといい戦争に子供を送り出した時代があったことを思うに、
何を犠牲にしても家のため国のためっていうのはあったんだろうなぁと。
少し思いました。
呪縛……大丈夫逃れるから。もうすぐ。
「それでもやはり、ルーノ様は間違っていないと思います」
ルーノ様がゆっくりと体を離して私の顔を見つめる。
「いいや。間違っていた……。人を愛することを知ってからは……。家のために好きな人と別れさそうとすることは、つまりは不幸にするということだと気が付いた。家族なのに、不幸にしようとするのは間違っているだろう?」
「え?」
「家族なら、幸せを願うものだ……兄なら、家のことなら俺が何とかすると……弟の幸せを応援するべきだったんだ……」
「家族の幸せ……?」
お母様がもし生きていたら……。
お母様は私が幸せを願ってくれた?
子爵家を……出たいと言ったら……応援してくれた?
「愛を失うことがどれほど不幸なことなのか……。生きていくために、愛がどれほど大切なことなのか……俺はアイリーン……君が、好きだ」
え?
「どうして、そんなことを言うのですか……」
「君があの男に襲われているのを見て、生きた心地がしなかった。頭が沸騰して、感情が抑えられなくなって……アイリーンを守ってやれない自分が情けなくて……そして、何より……他の男に触れさせたくないと……好きだと自覚した。いいや、愛してるんだ。」
「受け入れられません」
「なぜだ!」
ルーノ様を不幸にしてしまうから。ルーノ様が言ったんだ。大切な人の幸せは願うものが当たり前だと。
ルーノ様に幸せになってほしいのだから……。
「聞かなかったことにします……」
「どうして、アイリーンだって、俺のことを好きだと、そう言ってくれただろう?」
「……ごめんなさい」
この謝罪は、気持ちを伝えてしまったことに対するものだ。
「なぜ……」
ルーノ様が悲しみの表情を浮かべる。
「兄さんっ!」
突然の声に、弾かれたようにルーノ様が私の肩から手を離した。
「アイリーンに何をしたんですっ!」
ルーノ様よりも少し若い青年が現れた。
こちらまで駆けてくると、ルーノ様を押しのけて私を背に庇った。
「兄さんっ!アイリーンに、何をしたんですかっ!許さない!」
ルーノ様と同じ色の髪の青年ごしに、ルーノ様の顔が見える。
その表情は何かを悟ったようなものだった。
「アイリーン……」
声にならない声で、口を動かすのが見えた。
「アイリーン、行こうっ!」
青年……ルーノ様を兄さんと呼ぶからきっと、弟なんだろう。
私の手を取ると、走り出した。
そして、人気のない屋敷の影に入ると自分の着ていた上着を脱いで私の肩にかけた。
「ドレスは破れて……あちこち汚れて血も……いったい、兄さんに何をされたの、アイリーン」
怒っているような泣きそうになっているような顔で、青年が私を見た。
目の色は、ルーノ様よりも少し青が強いんだ……顏は、ルーノ様よりも優しい感じ。
と、思わずまじまじと顔を見てしまうと、同じようにルーノ様の弟もまじまじと私の顔を見た。
===============
どうれくらい家のためっていう思いの強さがあるのか。
国のためといい戦争に子供を送り出した時代があったことを思うに、
何を犠牲にしても家のため国のためっていうのはあったんだろうなぁと。
少し思いました。
呪縛……大丈夫逃れるから。もうすぐ。
31
お気に入りに追加
1,884
あなたにおすすめの小説
【完結】婚約者を譲れと言うなら譲ります。私が欲しいのはアナタの婚約者なので。
海野凛久
恋愛
【書籍絶賛発売中】
クラリンス侯爵家の長女・マリーアンネは、幼いころから王太子の婚約者と定められ、育てられてきた。
しかしそんなある日、とあるパーティーで、妹から婚約者の地位を譲るように迫られる。
失意に打ちひしがれるかと思われたマリーアンネだったが――
これは、初恋を実らせようと奮闘する、とある令嬢の物語――。
※第14回恋愛小説大賞で特別賞頂きました!応援くださった皆様、ありがとうございました!
※主人公の名前を『マリ』から『マリーアンネ』へ変更しました。
婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?
すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。
人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。
これでは領民が冬を越せない!!
善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。
『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』
と……。
そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。
お飾りの側妃ですね?わかりました。どうぞ私のことは放っといてください!
水川サキ
恋愛
クオーツ伯爵家の長女アクアは17歳のとき、王宮に側妃として迎えられる。
シルバークリス王国の新しい王シエルは戦闘能力がずば抜けており、戦の神(野蛮な王)と呼ばれている男。
緊張しながら迎えた謁見の日。
シエルから言われた。
「俺がお前を愛することはない」
ああ、そうですか。
結構です。
白い結婚大歓迎!
私もあなたを愛するつもりなど毛頭ありません。
私はただ王宮でひっそり楽しく過ごしたいだけなのです。
お二人共、どうぞお幸せに……もう二度と勘違いはしませんから
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【もう私は必要ありませんよね?】
私には2人の幼なじみがいる。一人は美しくて親切な伯爵令嬢。もう一人は笑顔が素敵で穏やかな伯爵令息。
その一方、私は貴族とは名ばかりのしがない男爵家出身だった。けれど2人は身分差に関係なく私に優しく接してくれるとても大切な存在であり、私は密かに彼に恋していた。
ある日のこと。病弱だった父が亡くなり、家を手放さなければならない
自体に陥る。幼い弟は父の知り合いに引き取られることになったが、私は住む場所を失ってしまう。
そんな矢先、幼なじみの彼に「一生、面倒をみてあげるから家においで」と声をかけられた。まるで夢のような誘いに、私は喜んで彼の元へ身を寄せることになったのだが――
※ 他サイトでも投稿中
途中まで鬱展開続きます(注意)
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
【完結】幼い頃から婚約を誓っていた伯爵に婚約破棄されましたが、数年後に驚くべき事実が発覚したので会いに行こうと思います
菊池 快晴
恋愛
令嬢メアリーは、幼い頃から将来を誓い合ったゼイン伯爵に婚約破棄される。
その隣には見知らぬ女性が立っていた。
二人は傍から見ても仲睦まじいカップルだった。
両家の挨拶を終えて、幸せな結婚前パーティで、その出来事は起こった。
メアリーは彼との出会いを思い返しながら打ちひしがれる。
数年後、心の傷がようやく癒えた頃、メアリーの前に、謎の女性が現れる。
彼女の口から発せられた言葉は、ゼインのとんでもない事実だった――。
※ハッピーエンド&純愛
他サイトでも掲載しております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる