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「下地がまだですよ」
「え?下地?」
「下地を使わないと、ファンデーションは肌から浮いてしまいます。もしくはすぐに崩れてしまいます」
 黒崎さんにはわかるだろうかと思ったら、あっと少し大きな声を出しました。
「塗装と同じなのか!」
 塗装ですか。
 世の女性が聞いたらちょっと起こりますよ。化粧が塗装なんて……。
「これが、下地クリームですね。それから、クマやそばかす、ニキビ跡やシミを隠すのにコンシーラーを使います。肌に陰影を出して立体的にするにはシャドーファンデ。そして就職活動のメイクには関係ありませんが、肌に艶を出すためのパウダーを使うこともありますね」
 次々にファンデーション関連商品を手にとりかごに放り込みます。
「ちょ、ちょ、ちょっと待って。ファンデーションって、顔に、こんなにも塗っているのか?」
「人によりますが、百均で売っているものは、幅広く売れている一般的な商品ですから。多くの人が使っているでしょうね」
 黒崎さんが唖然としています。
「それから、続けてもいいですか?ファンデーションを塗るためのパフにスポンジ。口紅を塗るのにはこの紅筆。口紅以外に、縁取りをするペンシル、艶を出すグロス。割と口紅関連は少ないですね」
「口紅と紅筆だけでいいかと思っていた……ペンシルにグロス?」
「唇の皮膚が弱い人は、口紅の下に口紅の下地を使ったりもしますよ」
「そうか……」
 続けてアイメイクに必要なものを上げていきます。黒崎さんは最後まで聞き終わり、カゴの中にたくさん入れられた商品を見てちょっとやつれています。
「こんなに必要だったのか……」
「いえ、まだ足りていませんよ?」
「は?」
「メイクをした後は、メイク落としで落とさなければいけません。メイク落とし、洗顔、それから化粧水、乳え……」
「待った、待った……どうしたらいいんだ?まさか、こんなに化粧が大変なものだと思わなかった……」
 とりあえず、百均で黒崎さんが会計を済ませます。
「私、百均は好きなんですが、化粧品類は主にこっちを利用しています」
 スーパーの中の百均なので、店内を移動すればすぐに化粧品売り場があります。ついでなので案内します。
「日常使いしやすい低価格の化粧品メーカーの品です」
 百均の化粧品類も、問題があればすぐに店内から撤去するなど品質管理もされてはいる。
 値段が安いから粗悪品、値段が高いから質がいいとも限らないのが化粧品です。だけど、百均化粧品には問題が一つだけあるのです。百均はどれだけ気に入っていても、次に買いに行ったときに同じ品があるとは限らないのです。だから、使ってません。
 毎回違う品を使うのは結構大変です。
「スーパーだよな、こんなに多くの化粧品メーカーの品が置いてあるのか?」
 そうです。スーパーでも何社もの低価格化粧品が置かれています。
「どこがおすすめなんだ?」
 黒崎さんが私の顔を見ました。小さく首を振って見せます。
「人それぞれですし、口紅はこちら、アイシャドウはあちらと選べばいいと思いますよ」
「そうだな。うん……だが……ファンデーションだけでも、これだけ種類があるのか?液体、パウダー、固形?水性、塗るとパウダー?さっぱりわからない、皮脂を抑える?毛穴を隠す?……どれがいいんだ?」
 小さく首を振ります。
「さぁ、時間がありませんので、帰りましょう」
 黒崎さんに背を向けてスーパーを後にします。
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