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「値段の問題ばかりではありません。化粧初心者にとって、百貨店の化粧品売り場は敷居が高いところなんです。場違いな人間が来たと思われないか、見下されているんじゃないかと不安がいっぱいで。高校を卒業したあとに、母親と一緒に足を運んで化粧デビューする子もいるくらいです。不安のある人間が気軽に行ける場所ではありません」
 黒崎さんがうなだれました。
「そうか……確かに、スーツを着慣れていない人間が、いきなりオーダースーツを一人で作りに行けと言われたら戸惑うのと同じかもしれない……」
 さすが、黒崎さん。例えがセレブです。ですが、まぁ、いい例えです。たぶん言いたいことは理解してもらえたと思います。
「だったら、まずは勉強か。ネットでスーツのことを調べる。オーダーでない店にスーツを見に行ってみる……。メイクも……。そうか、白井さん、分かったよ。ネットでメイクの仕方動画を見て勉強したらどうかとアドバイスをしたらいいんだね?」
 仕方ないですね。
 黒崎さんは、メイク動画なんて見たことないでしょうから……。
「はー……。黒崎さん、メイクってどういうものか知っています?」
「ファンデーションを塗って、口紅つけて、ああ、目だ、アイライン、どれから眉毛。えーっと」
 ですよね。
 男性の化粧に対する知識なんてその程度のものですよね。
 ソファから立ち上がる。
「白井さん?」
「百均行きましょうか」
「え?なぜ、また百均に?」
 戸惑いながらも、黒崎さんは素直についてきました。
 前も行ったことのある、スーパーの中にある百均に到着です。
「さぁ、じゃあ、黒崎さん、黒崎さんの言っていたメイクに必要なものを教えてください」
「うわー、まさか、化粧品まで100円なのか?すごい!でも、これなら金銭が問題で化粧ができないということはまずないな」
 黒崎さんがちょっとほっとした顔で化粧品コーナーを見ています。
 高身長のイケメンが、背を丸めて化粧品をじーっと見ている姿に、買い物客がちらちらと見ています。
 そうですよね。ちょっと変ですよね。私も、なんでこんなことになっているのか……って思います。
「まずは、ファンデーション」
 黒崎さんが、ファンデーションを探し始めました。
「丸くてベージュの、あ、色が何種類かある。まぁ、これでいいかな」
 と、商品を一つ手に取りました。
「これ、ファンデーションじゃないですよ?」
 黒崎さんが手に取った商品のパッケージの文字を指さす。
「え?パウダー?ファンデーションじゃない?」
「パウダーは、ファンデーションを塗った後にのせるものですね。いわゆる白粉です」
「そ、そうなのか?えっと、ということは、ファンデーションだけじゃ、足りないっていうことか。ファンデーションの後にパウダーを使う……。なるほど」
 カゴの中に、黒崎さんがパウダーを入れました。
 そして、何とか探し出したファンデーションと書かれた商品も見つけてカゴに入れます。
「さぁ、次は口紅かな」
 という黒崎さんにストップをかけます。
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