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「あ、ほら、和臣さん、このあたりは肉コーナーです。肉、食べましょう!肉!」
 なんとか普通に声が出ました。
 いくつか缶を手に取り和臣さんに差し出す。
「いくら肉が好きだって言ったからって、合わせることはないよ?結梨絵ちゃんの好きなもの選べばいいよ」
「私も、肉は好きですよ?男性の普通ほどじゃありませんが」
 和臣さんが少しだけほっとした声音で答える。
「そう、女性として普通に好きなんだね」
「ふふ。それにほら、これは肉は肉でも熊です。ちょっと食べてみたいです」
「熊か……昔一度だけ食べたことがあるけれど、肉がぱさぱさしていて獣臭かったよ。あ、いや、ごめん。食べるのを楽しみにしてる人に言う言葉じゃなかった」
「獣臭いんですか?」
 缶詰の側面を見る。
「えっと、生姜にお酒と、臭みを取る材料も使われているみたいですけれど」
「うーん、じゃぁ、大丈夫なのかな?ほかにも熊は置いてあるかな」
 と、二人で熊の缶詰をいろいろ手に取って原材料や説明書きを読み比べていると、菜々さんの声が聞こえてきました。
「ぷっ。二人ともさっそく缶詰の説明書き読んでるし」
「あ、菜々さん」
「ったく、帰ってこないから、何してるのかと思ったら……。っていうか、何かしてたわけじゃないのねぇ」
 菜々さんが何か含みのある言葉を和臣さんに向けた。
「す、するわけ、ないだろ」
 焦った声を出す和臣さんに、菜々さんがふっと鼻で笑って、私の肩を押した。
「さ、早く戻ろう。せっかくだからいろいろ食べてみて、美味しかったら缶を撮影して後日読めばいいっしょ」
「あ、なるほど。そうですね。菜々さん、賢いです」
「で、何を選んでたの?」
 菜々さんが私の手に持っていた缶を手に取りました。
「うっわー、熊か!熊は一度食べたことあるけど、臭くて食べられたもんじゃなかったんだよなぁ……」
 菜々さんも熊を食べたことがあるのですか?
 あ……。もしかして……。
 ちらりと和臣さんを振り返って見ます。
 一緒に食べに行ったということでしょうか?
 そういえば、二人は……。付き合っていたっぽいのです。今も実は付き合っているのかもしれません……。
 胸の奥に小さな重りが落ちたような感じがしました。
 もし、そうなら……。
 ほかの女性と一緒にいるところを見るの、菜々さん……いやですよね……。
「ごめん……なさ……い」
「え?気にしない、気にしない!まずかったらまずいでも、盛り上がるじゃない?まっずーって言いながらお酒を飲むのも楽しいよ」
 ……菜々さんが、私の背中をポンポンと叩く。
 意味は取り違えられましたが……。菜々さんはいい人です。
 いい人です。

 結論としては、熊の缶詰は臭み消しの材料は入ってましたが、臭かったです。いい経験になりました。
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